8.勇者辞職
町の人たちは離れたところから二人の勇者の戦いを見ていた。
正幸がひたすら攻撃して、卓也がひたすら防御ばかりしていた。
あれは正幸様が勝つなと町の人たちは思っていた。
砂煙がなくなるとそこには、正幸が地面にめり込んでいた。
正幸は自力で立ち上がると後退した。
「ヒール」
ディーネの回復魔法でどうにか止血はできた。
「油断はしてないけど、あいつ強いよ。まるで攻撃の先読みができるみたいだ」
「あれをみて」
ディーネはゴーレムの腕を指さした。
「そんな、ヒビを入れたはずなのに回復してるのかよ」
「ディーネ、正直に答えて欲しい。持久戦になったら僕は彼に勝てるかな?」
「それは…どう見ても剣技も基本能力値もあなたの方が上よ。でも持久力だけはどっちが上かは私にも分からないわ」
「なら出し惜しみせずにあいつを全力で倒すしかないね。少女を救いたかったけど仕方ない」
正幸が何か唱え始めると聖剣が輝きだした。
何か大技を繰り出すようだ。
「勇者、あれ直撃したら死ぬわよ」
「そうなのか。それでどうしろというんだ。早く指示をだせ」
「……どうやっても無理、回避できない」
クレアがみた未来視では回避不可能だった。
「なら突撃しかないな」
卓也は迷わずに思い切り足で地面を蹴った。
正幸の隣にいたディーネが突然の突風で消えた。
「ディーネどこだ」
正幸は詠唱をやめて、周囲をみる。目の前の化け物もいない。
ディーネの立っていた当たりは地面がえぐれていた。
「まさかやつの攻撃なのか」
それを目視でたどると直線状に様々な建物に穴が開いていた。
正幸はディーネを助けるためにその飛ばされた先へと全力で走り始めた。
「やったか」
卓也は人を一人一緒に突き飛ばした感覚があった。
砂煙がなくなると壁に何かが刺さっている。
下半身だけ卓也側にでていた。
「これがあの野郎の足なのか」
触るととてもすべすべしていて、まるで女子の足だった。
あの野郎脱毛までしてやがるのか。昔雑誌でイケメンの条件にムダ毛の処理とかもあったな。
「おいクレア、こいつの血を飲んでみろ」
卓也は股間をその足に近づける。
クレアはその足に噛みつこうとする。
「キャー」
クレアは悲鳴を上げた。何と何かの結界に触れたらしく牙が溶け出した。
「やはり聖属性だから勇者に間違いない」
「おじさん、その人勇者じゃないと思うよ」
マリアがゴーレムの腕で可愛らしい犬のプリントされたパンツを指さした。
「いや、俺も女性ものの下着を着ている。この勇者も何らかの理由で着ているのだろう」
カレンがカニのハサミでパンツを切った。
「これ女でしょ。あれついてないし」
「そうみたいだな。となると勇者の隣にいた女神がこいつか。胡散臭いけどな」
剣で女神の足を切断しようとする。何らかの防御結界で剣で切れない。
ゴーレムの腕は足を触れている。卓也も触ろうとするが、何かの結界で守られていて触れない。
「マリア、足を折ってくれないか?」
「可哀そうだよ」
卓也にはこの結界の発動条件が全く理解できない。ただ一つだけ言えることはこの女神にダメージを直接与えることは無理そうだということだ。
なぜ、吹き飛ばしは成功したのか。無意識にマリアの操るゴーレムの腕が当たっていてたまたまダメージを与えていたのだろうか。疑問だらけだが、どうしようもない。
腰のあたりに何かをつけているのを見つけた。
どんなアイテムなのだろうか。取り合えず3つとも外してみた。
「クレア、これを飲もうと思うが未来はどうだ?」
「うぎぇ…でいげれつ」
クレアは結界の影響で口の自由が利かなくなっているようだ。
「使えない吸血鬼だな」
クレアは顔を真っ赤にしてるが、卓也はそれが見えない。
正幸はやっと化け物の元にたどり着いた。
そこには下半身を丸出しにして壁にめり込んでいる女神もいた。
「よくもディーネに酷いことをしたな」
化け物は何かを飲んでいる。それは正幸に見覚えのあるものだった。
転生特典のどんな傷や毒でも癒える薬だった。ディーネに預けていたものだった。
「やめろ!!!それは貴重なアイテムなんだ」
化け物は3本とも飲み干すと、空き瓶を女神の尻穴に3本ともさした。
「痛い。お尻が痛いよ、誰か助けて」
女神の肛門は切れた。
一か八かでドリンクを3本一気飲みした。すると…何の効果も感じられない。
「あんたそれ、レアな回復アイテムよ。おかげで私は完全回復したわ」
クレアの呂律が復活した。卓也は何故かいらついたのでクレアの頭を殴った。
「痛いじゃないの」
それでもアイテムの効果がないことに対する怒りが収まらないので、空き瓶を3本同時に女神の尻穴にさしてみた。
何故か結界は反応せずに3本とも刺さった。
「この結界の発動条件が謎だわ」
尻が裂けたようで血が垂れている。壁の向こう側で女神が何かをいっているが卓也には聞こえない。
正幸が何かいっているようだが、どうしたものか。
「おい、この女がどうなってもいいのか」
「そいつはどうなってもいいから見逃してくれ」
何故か正幸は命乞いを始めていた。
正幸が今まで無謀なことができていたのは、この回復薬があったからだった。
回復薬がなければ、死ぬほどのダメージを追えば死ぬ。
猛毒を受ければ死ぬ。
流行り病で運悪く死ぬかもしれない。
転生特典で聖剣、万能の薬3ケ、女神による補助という条件で彼は勇者になった。
どれか一つでも無くなった時点で勇者から引退すると彼は決めていたのだ。
「そこの女神に伝えてくれ。俺は転生した村に帰って村人として余生を過ごすと」
正幸はそう言い残すとその場を逃げ出していった。
卓也は取り合えず女神を壁からだそうとしたが触れられない。
マリアが3本の瓶を勢いよく引き抜くと、女神は悲鳴を上げた。
さらに壁から力の限り引き抜いた。
女神の上半身の服もボロボロだった。
「正幸はどこなの。あんたに負けるはずがないわ」
「そこの転がっている瓶をみたら逃げたよ」
ディーネは腰の周りに手を触れる。万能薬がなかった。
ディーネは正幸が逃げた理由を悟った。
「あんたたちのせいで、私の計画は破綻したじゃないの。
正幸がこの世界を救って、私も魔王を倒した英雄を転生させた女神として天界で出世するはずだったのよ。
納期があと2年しかないのよ。今さら、他の転生者をこの世界に送り込んでも1歳と数か月じゃ魔王に勝てないじゃないの」
何故か女神は泣き出した。
「責任とってよ」
何故かディーネは怒りの感情をあらわにして卓也に迫ってきた。
口うるさく面倒そうだったので殴ろうとするが、何かの結界で殴れない。
「女神は無垢な心を持つ人と天界の道具でしか基本触れないのよ」
ディーネは笑顔でそうで答えたが、
「なんで私のこと引き抜けたの?」
「それは秘密だ」
そして正幸と最初の乱闘を始めたところに戻っていた。
マリーとロザリーは健気に卓也の帰りを待っていた。サテラは間抜けな顔をして気絶したままのようだ。
「ディーネ、その汚物は宿に運んで綺麗にしとけ」
ディーネはとても嫌そうな顔をしている。
「女神にこんなゴミの片づけをさせる気なの」
「拒否するなら俺は魔王を倒さないぞ」
ディーネは諦めたのか、渋々サテラの両足をもって、引きずりながら教えられた宿へと向かった。




