5.義賊との出会い
勇者はワンピースをカレンの要望で着て、北へ向けて歩いていた。
街道に出くわす人からは新種の魔物に毎回間違えられて、化け物と叫ばれる。そのたびにマリアが泣いて、カレンがマリアを虐めた人たちに制裁をしていた。彼らは命だけは助けてくれと金品を勇者にさしだすので、勇者はそれをマリアへの慰謝料として受け取っていた。
勇者は嗅覚で複数の人間が自分たちを囲んでいるのに気付いた。今までだとないパターンだ。
「サテラ、人間に囲まれている」
「おそらくは賊じゃないかな?」
「賊だと…つまり街道を通る民間人を襲ってる犯罪者ということか?」
「そうよ」
勇者はいつでも攻撃できるように周辺を警戒しながら進んだ。
すると街道は両脇を高い断崖で囲まれたところに繋がっているのが見えた。
「サテラ、やつらはあの自然の断崖を利用して俺たちを挟みうちにするみたいだ。
おそらくは断崖の道の出口側にも待ち伏せがいるに違いない。迂回しよう」
「私、獣が使う道苦手だから街道を通りたいな」
「でも、森に入って迂回した方が敵の罠にかからなくていいんじゃ…」
「遭難したくないの」
勇者は召喚前も山登りは友人に誘われてたまにいく程度のど素人だった。
「遭難は確かにまずいな」
勇者はサテラの意見を聞いて街道を進んだ。
崖から巨大な石が落ちてきて、彼らの進路を塞いだ。
「く…やはりいたのか」
賊たちが勇者の前に現れた。
「俺たちは義賊だ。罪のない民間人から恐喝して奪った品物を返せ、化け物!!」
勇者には全く心あたりのない言いがかりだった。
「勇者の俺は民間人を守る立場だ。君たちは何か勘違いしてるんでないのか?」
勇者は剣を構えた。
「毛むくじゃらの腕2本、ゴーレムの腕2本、カニの爪のような腕2本、6本の腕を持つ女装したやつ。そんなやつが他にもいるというのか化け物」
「………」
勇者は反論できない、サテラに目線で弁護を求める。
「そんな素晴らしい外見の殿方は、私の隣にいる勇者様だけです」
サテラは自信たっぷりに答えたて、褒めてほしそうな表情をして勇者をみている。
「落ち着くのだよ。きっと何かの誤解だ。誰かが俺を貶めるために嵌めたにちがいない」
すると、数日前に勇者を化け物呼ばわりした民間人がでてきた。
「シャラクさん、あいつです。マリアの慰謝料として受け取るといって、親の形見の指輪をとられたんです」
「それは事実だが違うんだ。マリアは俺の中にいて、不幸な少女なんだ。傷ついた彼女を元気づけたくて」
「何意味不明なこといってんだ化け物」
「おじさん、その指輪をあの人に返してあげて」
マリアが勇者に話かけてきた。
「いいのか?」
「親の形見なら返してあげないと」
「そうだな」
「サテラ、収納魔法からこないだの指輪をだしてくれ」
サテラは指輪を勇者に渡した。するとその恰好で想像できないほどの速度で民間人に近づいた。そして、それを民間人のポケットに入れた。
「これで文句はないだろ。俺は世界を救う旅をしているんだ。そこをどいてくれ」
シャラクは勇者の背中から切りかかってきた。
「何をする」
「指輪一つ返したくらいで、見逃すわけないだろ」
シャラクは人間の中では強い部類だった。そして、ここら一帯で義賊として民間人を助けて、悪徳商人や意地汚い貴族の物資を略奪して貧しいものたちに配る行いをしていた。
シャラクは何度も目の前の化け物に攻撃するが、全く手ごたえがない。
どうなってるんだ、この化け物は…
シャラクはふざけた容姿をしている化け物(勇者)を甘く見ていた。
「早く逃げろ。カレンがワンピースを切り刻まれて激怒しているんだ」
またしても、化け物は意味不明な発言をしている。逃げろというのに、カニのようなハサミの腕はシャラクを殺そうと攻撃してくる。さらにワンピースが破けた結果、股間には美少女の顔まででてきた。
「そんな少女まで食ったのか化け物!!!」
「私は誇り高き吸血鬼のクレアだ」
股間についている少女の顔も意味不明な発言をする。
シャラクの合図で弓矢と魔法が一斉に放たれる段取りになっていた。
「おい、あいつが合図したら矢と魔法の雨がくるわよ」
クレアは弓矢が自分の顔に刺さる未来視が見えたのでそれを勇者に伝えた。
この状態での自分がどういう立ち位置かをクレアは分からなかった。
吸血鬼の状態のままなら昼間でも弓矢で死なない。しかし魔改造された今の状態では
死なないと言い切れない。なら、自分の顔を守るしかない。勇者を誘導するしかない。
勇者はシャラクの合図らしきものをみて、弓矢を即座に防御し、魔法も避けた。
シャラクはこのまま戦っても勝てないということを悟り、撤退した。
シャラクはアジトに戻っていた。強敵との闘いではあったが人的被害はほとんどなかった。
町にいる協力者からの手紙がシャラクに届いていた。
それを開くと、6本腕で女装趣味のある勇者様が北に向けて移動してるから間違えても攻撃しないようにというものだった。町では女性趣味をバカにしたものは勇者の手によって制裁をうけたものもいるため、話すときは勇者殿の趣味を否定しないようにとのアドバイスも書かれていた。
「それじゃ、あのばけ…いや勇者のいってたことは真実だったのか」
その手紙を部下たちにも回覧したが、彼らは信じられないといった表情をしていた。
今回指輪を取り戻した民間人にもこの手紙を見せたが、彼も信じられないような表情をしていた。