2.6本の腕
いつものように少年は湖に船をだして、漁をしていた。
すると、突然何かが湖に落ちていったらしくて遠くで水しぶきが上がった。
船の近くにいた魚たちが驚いたみたいで離れていく。
「最悪だ。今晩のおかずなしかよ。手ぶらで帰ることもできないし、貝でも集めるしかないよな」
少年が湖の砂場で貝を採取していた。ある程度集まり、帰ろうとすると、水面から何かがみえる。
警戒してみると、見たことのない生き物だった。
「まさか、こんなところにも魔物がいるなんて。大人たちに知らせないと」
少年は村に向かって走っていった。
村に着くと、農作業をしていた男衆が集まり、魔物を討伐することになった。
その現場につくと、
「あんたら、ここらの人か? 城の方角を教えてくれないか?」
「だまれ化け物」
村人たちは化け物に弓を放った。矢が化け物の体に突き刺さる。
化け物は全く痛がることもなかった。
「矢をうたないでくれ。俺は人間なんだ」
「だまれ化け物」
屈強な村人3人が槍で3方向から同時に化け物を刺す。
化け物は6本の腕で防御しようとするが、上手く制御できない。
1本の槍は手で握ることは成功したが、残り2本の槍は胴体に突き刺さった。
「この化け物、おかしい。全く弱らない」
「だから私は人間だって……人間だっていってるじゃないか…」
突然化け物は泣き出した。
「勇者様、こんなとこにいたのですね」
村人たちは突然杖を持って現れた少女をみた。
「嬢ちゃん、何言ってんだ。あれが勇者様なわけないだろ」
「勇者様ですよ」
「化け物の姿してるぞ」
「私が人間のパーツを外して、魔獣のパーツをつなぎ合わせたんです」
少女は魔法を発動して、湖に火の魔法を放った。
「魔法じゃないか。これはびっくりした」
「私は魔術師ですから。勇者様を強化しました」
村人たちは勇者に謝罪した。
「分かればいいよ。俺もこんな状態で人だと信じてくれといっても無理だと思うしさ
でも、誰かしらには人だと信じて貰いたいんだ」
サテラに対しての恨みはあったが、彼女がいないと化け物扱いされるので我慢することにした。
勇者はサテラの案内で街道を進み王城へと歩いた。
途中で勇者の腹が鳴った。
「サテラ。何か肉とかパンとかないか」
「貴方の肉ならあるけど、もしかして食べるの?」
「お腹がすいて死にそうなんだ」
「大丈夫。貴方なら1週間のまず食わずでもいきていけるのよ」
「俺の分の肉があるんだろ。ごたくはいいから早くだせ」
サテラが何かを唱えると、袋につつまった何かがでてきた。
強化された嗅覚でそれが肉だとわかる。
我慢できずに勇者はそれを袋ごと口にいれて食べ始めた。
「焼かなくても平気だよ。貴方は強化されてるから生肉でも平気だからね」
サテラは笑顔で勇者に話かけていた。
その笑顔をみて、憎い相手なのに可愛いと思ってしまった。
「それにしても、こんなにもたくさんの肉を食べたのは初めてだ。しかも、とても美味かった。サテラ、あの肉は何の肉なんだ?」
「貴方のよ」
「俺の分なのはわかったから、何の肉なんだ?」
「人間の肉よ」
「…はは…笑えない冗談はやめてくれよ。俺はここにいるだろ」
「貴方に元からついてた人間の部分を取り除いて、時間凍結魔法と異空間収納魔法で保管してたの。魔王討伐終えたら元の体に戻そうと思ってね」
「どうして、そんな大事なもんを俺に食わしやがったんだ、糞アマが!!!」
「貴方がごたくはいいから早くだせといったじゃないの」
「……俺は…俺はうぎゃーーーー」
勇者はショックで泣き叫んだ。
そんな勇者をサテラは
「私好みの容姿だから、一生ついてきます」
といって勇者の腕に抱き着いていた。
門番は遠くから奇怪な生き物が近づいてくるを確認していた。
報告すると、王城からメイド長の老婆が馬車に乗ってきた。
そして、メイド長の指示に従い門番たちは武装解除していた。
その生きものがメイド長の前にくると、メイド長が信じられない言葉を放った。
「おかえりなさいませ。勇者様」
あたりは静まり返った。
「門番の皆さま、どうして勇者様を無視するのですか?」
「これは申し訳ありません」
隊長らしき門番が頭を下げて、部下たちも頭を下げ始めた。
勇者、サテラ、メイドが馬車に乗り王城へと移動した。
翌日から勇者の体を動かすための訓練が始まった。
6本の腕を同時に使っての積み木をしてみたが6本同時になると全くダメだった。
何度やってもできなくて1週間ほどが過ぎた。
「これ、そもそも人間に6本の腕を同時に動かすなんて無理なんじゃない、サテラ?」
「しらない。6本つけた方がカッコイイからそうしただけ」
「見た目だけかよ。スマートスピーカーのようなもんがあればいいのにさ」
「スマートスピーカーって?」
「命令したら自分の代わりにやってくれる機械のこと」
「つまり2本は自分で残り4本は命令された人が代わりに動かすということ?」
「そうそう。それなら人間の時にと同じく。2本の腕だけでいいしさ」
「いいわ。やってみるわ」
サテラは何かに火が付いたみたいでどこかへ行ってしまった。
さらに1週間後
勇者の再改造が行われた。
勇者が麻酔から目覚めた。
「誰か助けて」
少女の助けを求める声が聞こえる。
「君は誰なんだい?」
「私はマリア」
周辺を見ても、少女の姿は見えない。
「どこにいるんだ?」
「大きな部屋の中のベットの上なの」
「俺も大きな部屋のベットの上にいる」
「おじさんは、どこなの?」
「隣の部屋かもしれないから、助けに行くからそこから動かないでくれ」
「うん」
勇者が部屋から出ようとする。すると何故か2本の腕が部屋からでるのを邪魔するかのように
家具をつかみ始めた。
「…………まさか……マリアちゃん、今部屋から出そうになってるから、必死に家具にしがみついてるのかい?」
「おじさん、すごい。どうして分かったの?」
そこで勇者は理解した。マリアは勇者の中にいたのだった。
「マリアちゃんはピンクの髪の女の人を知ってる?」
「飴玉くれたお姉さんだよ。眠くなって目覚めたらこうなってたの」
「事情は分かった」
「ここはどこなのさ」
また別な少女の声が聞こえ始めた。
「なんなのよこれ」
残りの腕2本が壁を殴って穴だらけになっていく。
「落ち着け」
「あんたのせいなの?私を解放しなさい」
勇者はマリアと暴れまわる腕を操るもう一人にサテラの仕業だということを話した。
2人とも泣き出して、勇者は彼女たちをなだめるのに精一杯だった。
「あら、上手くいったのね」
そこに笑顔でサテラが現れた。
「この子たちを解放しろ」
「そのことだけど、この子たちの脳じゃ再結合に耐えられないと思うわ」
「おい待て、俺との少女の結合はできたじゃないか」
「それは貴方が勇者だからその補正で成功したのよ。そんなことが簡単にできるなら、
年老いた貴族相手に若い肉体用意して、若返り商法でぼろ儲けよ」
「つまり…この少女たちは俺の中に一生いるのか?」
「そうよ。貴方に従順になれば、貴方の言う通り命令一つで4本の腕が勝手に動いてくれるわよ」
何かをやり遂げた表情をしてサテラは胸を張っていった。
すると2本の腕がサテラめがけて殴りかかってきた。サテラはそれをギリギリで避けた。
サテラは身の危険を感じたためそこから離れていた。
その後、落ち着いてそれぞれ、思念で自己紹介を始めた。
壁を殴ったた少女はカレンで、彼女はサテラに騙されたと経緯を話した。
毛だらけの腕を操作するのが勇者本体
ゴーレムの腕を操作するのがマリア
カニの爪のような腕を操作するのがカレン
翌日からは腕6本をそれぞれが動かしたチームプレーの訓練へと変わっていた。
一人で動かしてた時と比較して、だいぶましになっていた。
そのため木刀と木の盾を使った戦闘訓練に移っていった。
その訓練の様子を王様とサテラは眺めていた。
「素晴らしいできじゃ」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
「あの腕をわしの騎士たちにもつけれかのう」
「腕だけなら可能ですけど、制御までは不可能です」
「制御できないなら飾りになってしますし、残念じゃ」
「話はそれたが、そろそろ勇者殿には魔王を倒すために大精霊と契約する旅に出てほしい」
「そろそろ良いころ合いかと」
翌日勇者は、王座の間に呼ばれていた。
「勇者殿には大精霊を契約していただいてより強くなってもらいたい。
ここに支度金と勇者の証明書を渡すから今すぐ旅だたれよ」
「……嫌だ」
カレンとマリアが死にたくないと勇者の中で泣いていた。
「どうしてじゃ?」
「カレンとマリアが泣いているんだ」
一同はカレンとマリアが誰なのかが分からず、見渡す。
「お主が恋仲になった女性のことかのう。離れるのがいやなら連れて行っても構わんぞ」
「そうじゃない。俺の中にいるんだ」
「勇者よ。お主、その姿になって気でも狂ったのか」
「いえ、狂ってなどは…」
「ならいいからはよいけ」
勇者はサテラと二人で城を後にした。
勇者の中でカレンとマリアが死にたくないとひたすら泣いている。
「まずは風の大精霊に会いに行きましょう」
カニの腕がサテラを殴ろうとするが届かない。
「この距離じゃ無理ですよ」
サテラは攻撃が当たらない位置に離れて歩いていく。
立ち止まって、お尻をふって腕を挑発までして楽しんでいた。
ゴブリンたち茂みに潜んでみたことのない化け物を観察していた。
距離を開けてピンクの髪の少女が歩いている。
ゴブリンたちは敵味方分からない化け物の前に出てきた。
「ゴブリンか」
勇者はゴブリンが頭を下げて何かいっているのは聞こえるが、
ゴブリン語が分からないため、このゴブリンたちを殺すことにした。
6本の腕が次々とゴブリンたちを襲って、頭を潰したり、胴体に穴をあけたりしていく。
サテラは浮遊魔術で安全な上空から勇者を観察しているだけだった。
あっという間にゴブリンたちは全滅した。
「終わったな」
「すごいわ」
「所詮ゴブリンだろ」
勇者とサテラは野宿して、時々でてくる魔物たちを勇者のみで蹴散らしながら北へ進んでいった。
「ところで、もう1週間は立つけども、大精霊のいるとこまで後どのくらいなんだ?」
「順調にいって2か月よ。明日には、食料を補給するために町に立ち寄るわ」
「……長すぎる」