19.絶望的な状況
重症ではあるがマリーは意識が戻った。
マリーの体に痛みが走る。
「ご主人様、朝食を今…」
マリーが無理して起き上がろうとしていた。
「休んでいろ。」
勇者は残り僅かな回復薬をマリーの口に入れた。
「はい…」
「ロザリーあとは頼む」
そういうと次はサテラの隣に移動した。
サテラと勇者は黙って保存食を食べた。
食べ終わると、
「魔王討伐は今の状態だと無理だと俺は判断している。サテラはどう考えているんだ?」
サテラは怪訝そうな表情をして黙っている。
「今朝がた分かったんだが、俺の歩行のバランス不良の他にも異常が見つかった。俺の腕が4本も動かない。」
サテラは、隣の化け物が何を言っているかが理解に追いつかない。
「そしてだ、腕が動かない原因はお前が昨日に俺をオーバーホールしたせいじゃないのか?何か隠してないか?」
「私があなたをオーバーホール?オーバーホールって何のこと?」
勇者は惚けているサテラを殴りたくなったが、耐えた。
「俺を分解して、消耗部品を交換しただろ?」
「………私がやったの?」
勇者は我慢の限界の寸前まで来ていた。
「そうだ。」
「ごめんなさい。実は私は昨晩どころかどうしてここにいるかすら分からないの」
「は…?」
「貴方のことも、そこで倒れているサキュバスもきれいな少女も、動くぬいぐるみも分からないの」
「つまり記憶喪失だと?」
「うん」
「それじゃ、俺が勇者で魔王討伐の旅をしていることも覚えてないのか?」
「旅のことはこの日記でしってる。だけど、貴方が勇者?」
サテラは勇者をまじまじと見る。
「日記の勇者様と全然違う」
勇者はサテラの日記を読んでみたが、サテラの妄想補正が酷い、いや暴走しまくっていた。
「記憶を取り戻すための魔法、いや魔法以外でもいいから方法は知らないか?」
「精神系の魔術の単位を取得した魔術師なら、記憶を呼び覚ますことができるって学院で習ったよ」
「お前は使えないのか?」
「上級生の単位だもん」
勇者:丸太なしではまともに歩けない。攻撃に回す腕は1本のみ。
サテラ:記憶喪失で初級魔法しか使えない。
マリー:全身にアザはあるものの、移動は可能。元から非戦闘員。
ロザリー:非戦闘員。
マリア:非戦闘員。
現状を箇条書きにしてみたが、勇者はこれでどうやって戦えばよいかが見えてこない。
「これは無理ゲーだろ」
勇者は全員集めて出発することにした。
「サテラ、収納魔法でテントとかしまってくれ」
「そんな上級者向けのできないもん」
「くそが!!!」
勇者は今まで当たり前だったことができなくなり、地団駄を踏んだ。
落ち着きを取り戻し、マリーに必要なものだけ、勇者の動かない腕4本に縛り付けた。
持ちきれないものは諦めることにした。
勇者一行は道を進む。
30分程歩くと、サテラが座り込んでしまった。
「足が痛いよ」
靴ずれを起こしていた。
勇者のイライラゲージは今朝からハイレベルを推移していた。
「おいサテラ、俺の腕にしがみつけ」
「そんな気持ち悪いの嫌だよ」
「お前の趣味だろ」
「そんなはずないよ。どうして、そんな美的センスになるか私だって分からない」
「わがまま言うならここに置いていくぞ」
サテラは渋々、勇者の腕にしがみつくことにした。
勇者は荷物とサテラを積んだ状態の移動はさすがにきつかった。
いつもなら、余裕な移動も困難を極めた。
予定の3割しか進まなかったが、湧き水のある所があったので勇者一行は休憩を取った。
「このペースでいくと、俺がダウンしてしまう」
化け物の顔はいつもと変わらず、とても疲労がたまっているようにはみえなかった。
「何かいい方法はないだろうか?」
誰もアイディアがないため沈黙が続く。
「街道に出て、商人や冒険家の人に助けて貰うのは?」
サテラが口を開いた。
「記憶喪失だから仕方ないが、俺は魔王軍に特に狙われてるみたいなんだ。
街道は監視されてる恐れがあるから、こんな獣道を使うしかない」
「でも、このままじゃ…」
「ああ…そうだよ。だからもう状況が悪すぎるんだ。」
荷物をさらにここで捨てて身軽にして、進むことにした。
進んでいくと、
勇者以外が方向感覚を失ってしまった。
「なんで俺だけが平気なのか知らないが、この縄をつかめ」
縄を掴ませて、進むことにした。
さらに進むと勇者は何かにぶつかった。
目の前を見ても、無いもない。
サテラは興奮気味にその見えない壁を触りだした。
「これ結界だよ」
「術者はどこだ?」
「分からないけど、この結界すごいの。」
「どうすごいんだ?」
「私には理解できないくらいすごいの。」
「ああ…分かった」
荷物とサテラを降ろして戦闘するために装備を持ち替えた。
勇者は全力で結界に突撃を開始した。