15.虫
メアリーは魔王軍本部の次の指令を待っていた。
メアリーは暇だったので、真昼間から酒を飲んでいた。
「メアリー様、昼間から飲みすぎですよ」
部下の言葉を無視してメアリーはつまみを食いながら、次の酒を何にするか迷っていた。
「ですから、今は勇者を崖下から救出する作戦中ですよ」
部下はメアリーの酒を取り上げた。
「あんた、いい加減にうざいわ」
メアリーは空き瓶で生真面目な部下の頭を殴った。
部下は血を流しながら
「まじめに手柄をたてないから、いつまでも魔王軍の中で今よりも高い地位に出世できないんですよ」
「私は出世して忙しくないたくないの。今のように与えられた仕事をこなして、こうしてお酒飲めたらそれでよいのよ」
部下は諦めたようでメアリーの元から去った。
「真面目君には困ってしまうわ。でも、私だけお酒飲むのも悪いし、たまには部下たちを労おうかしら」
メアリーは部下たちを集めて、
「あなた達命令よ、近くの町にいって酒と食料を買ってきなさい。戻ってきたら、たまにはあなた達も酒飲んで息抜きしたらいいわ」
部下の多くはこの一言で喜び始めたが、一部のものはうんざりした顔をしていた。
一方崖下では
勇者の足の石化が解け始めていた。
「やっと足がまともに動くようになったな」
でもそれだけだった。この状況では崖上に登る方法はまだ思いつていなかった。
ふと上を見上げるとムカデなどが崖を登っていた。
虫の足なら登れるのか。ふと自分の足を見ると芋虫のような足だったことを思い出す。
試しにやってみるか。
勇者は足を使って崖を登ることにしたら、案外楽に登れることが分かった。
「あんなに苦労していたのは、何だったんだ…」
あの食事を落としてるやつを一発ぶん殴りたい衝動に勇者は駆られた。
完全に登り切らずにそいつがきたら奇襲をかけてやるぜ。
崖上では
マリアがいつものように食事を作っていた。
「今日は山で見つけたこの綺麗なキノコを入れてあげよう。美味しくな~れ」
マリアはキノコや野草の知識などなく、毎度毒のあるものを大量に投入していた。
マリアは完成した料理を容器に入れるといつものように崖に向かった。
勇者は崖に這いつくばり、獲物が来るのを待っていた。
足音で誰かが近づいてくるのに気付いた。
声でマリアだと気づいた。
「おじさん、今日も手作りだから美味しくたべてね」
そういうと猛毒の食事を崖下に落としたのだった。
「………」
見なかったことにするか。
それはできない、後でサテラを締め上げて情報を引き出すしかあるまい。
勇者は周りは観察しだした。
俺を崖下から救出するといっていたが、それらしい人員も道具も見当たらない。
「さすが魔王軍だな。この俺が弱ってる時に手を差し伸べるふりをして、助ける気がないとわな」
そうなるとジークという男、あれは俺を騙すための囮だったのだな。
初めから部下を見捨てるとは非情な組織だ。
酒に酔いつぶれているメアリーを勇者は見つけた。
「こいつが、この俺をはめたやつか」
口を大きく開けて、無防備な状態でいびきまでかいていた。
メアリーが屁をこいた。
「殺す」
勇者はメアリーの心臓を剣で貫いた。
あっけなくメアリーを倒した。
さて、マリアたちと合流してここから離れなければな。
「ご主人様、どうしてここに?」
おつまみをもってるマリーが勇者に話かけた。
「みての通りだよ。崖から這い上がってきて敵を倒したところさ」
マリーは惨状をみて震えだした。
「マリーはどうしてここに?」
「幹部のメアリー様のおつまみをお持ちしました…」
「幹部?」
「はいご主人様が倒したのは魔王軍幹部のメアリー様です。崖下に落ちてしまったジーク様はどこでしょう?」
マリーはかなり震えている。
「ジークなら食ったよ」
マリーの顔は青ざめながら
「ご主人様、ここから早く逃げましょう」
「そう慌てるな、マリアたちと合流してからだ」
マリーの案内でマリアとロザリーと合流し、軟禁されていたサテラも助け出した。
マリーが後で詳しいことを話すからと必死に逃げることを進言してくるので、勇者はそれに従いその場を後にした。
メアリーの部下たちが、酒を飲みながら、野営地に戻ってきた。
野営地にいた数人の仲間とメアリーが殺されていた。
「メアリー様が…大変だ」
「どうしよう」
「落ち着くんだ。こんな時は崖下にいるジーク様に指示をだしてもらおう」
彼らの中から1人が縄を使ってジークのいるはずの崖下につき、
ジークの変わり果てた姿を発見し崖上に戻ってきた。
「ジーク様も死んでる」
この惨状を起こしたのは勇者であるが、彼らは事実の中に嘘も混ぜた報告書を作り魔王軍本部に送った。
報告書の内容は
救助に向かったジークに勇者が助けて貰った直後に、勇者が魔王軍に寝返ることを約束した。
ジークが油断した隙に勇者がジークを切り殺した。
さらに、救助用の装備のみだったたメアリーも同様に殺害したと記されていた。
勇者一行の魔術師が目くらましをして、逃げ出した。
ジーク様とメアリー様の傷を治すために、深追いはしなかったため、メアリーの配下のものは無傷だったこと。しかし、傷が深くて、どうにもならなかった経緯が書かれていた。
この報告書をみた魔王は
「ゆ…勇者をころせ!我が信頼をしていた重臣を殺した罪は重い」