14.救助
ジークの二次災害は魔王へと報告される手筈になっていた。しかし、ジークに嫉妬する他の幹部たちによって、報告の内容は改ざんされた。
「勇者の重さが想定以上に重く、ジーク様でも手間取っております。現在ジーク様が勇者引き上げのための道具を現地で準備中で進捗が遅れているとのことです」
「うむ。あやつでも苦戦するとは相当な重さなのだな。この見た目とサイズで我々の予想を超える重さとは…どんなものが合成されてるか楽しみだ」
と魔王は報告を聞いて満足していた。
マリアは崖下に追加で落ちたジークの分も含めて2人分の食事を用意していた。
「マリアちゃん、ジーク様の分は私が用意するから大丈夫だよ」
「一人でも二人でも作る手間は変わらないから。それにおじさんがこれを美味しくジークさんの前で食べてたら、ジークさんが可哀そうだよ」
マリーは毎日頑張って作っているマリアちゃんに真実を伝えることはできなかった。
そして、マリアの毒物はいつも通りに崖から落とされたのだった。
上からいつものごとく、ゲロまずだと思われるものが落ちてきた。
ジークはそれを掴みあけてみる。
「なんだこれは…鼻が曲がる」
ジークは悲痛の表情をしていた。
隣では勇者がそれを食っていった。
「勇者、これ食える…のか?……」
「ああ、食うしかない。俺も食いたくないがこれしかない」
ジークはそれをじっと眺める。やはり食えない。
「あんたを引き上げるのは無理でも、人狼の私だけなら、数日以内で行けるからな。
俺は飢えを我慢するから、あんたにこれやるよ」
ジークは勇者に自分の分の食糧を渡した。
メアリーは魔王軍本部からの指示を待つことにしていた。
メアリーは命令されていないジークの救出などする気は一切なかった。
「ここでの野営は面倒よね」
「メアリー様、ジーク様を引き上げた方が良いのでは?」
「指示されてないわよ。それに魔王様にはジーク様が二次災害で落ちたことは報告したからいいの。
後は新しい命令がくるまでは待機よ」
ジークは上から毎日落とされてくるマリアの毒物と一緒に落ちてくる水のみ飲んで、5日も過ぎていた。
「何故、私を助けに来ないんだ」
「知らねーよ、上にはお前の部下がいるんだろ?」
「崖の上に部下はいなく、あんたを襲った部隊と合流したんだ」
「へ…つまり、見捨てられたということか」
「そんなわけが…あるかもしれん。メアリーは指示待ちタイプだった」
ジークはメアリーに二次災害が起きた時の命令はしていなかった。
「メアリー助けてくれ!」
とジークは力の限り叫んだが、ジークの声は崖の上には届かなかった。
翌日、またマリアの作った食事がいつも通りに落ちてきた。
ジークは限界だった。
これを食わなければ、もう飢えには我慢できない。
ジークは鼻をつまんで、それを丸のみにして、水を流し込んだ。
「初めからこうすれば、味覚なんて気にする必要なかったな。」
食べて1時間を経過すると、ジークの体は発熱しだして、汗をかき始めた。
意識が朦朧とする。
「だれか…た…す…け…」
勇者はジークの体調を見だした。これはまさか食中毒か?
勇者には医療の知識がないためどうすることもできなかった。
ジークはその後も苦しみ続けて、翌朝には息を絶えてしまった。
勇者はジークの死をみて、取り乱し始めた。
「死にたくない。俺はこんな体のせいで食中毒にならないから大丈夫だ。
でもこの食事が落ちなくなったら…」
そう考えると勇者は死を実感し始めた。剣で殺しあいしてた時には感じなかった恐怖だ。
カレンは同様に死の恐怖を感じた。
「なんとかしてちょうだい」
「俺に言われても…」
ディーネも思念会話に入ってきた。
「女神の私も肉体と分離した状態で死んだらどうなるか分からないから、今の状態で死ぬは嫌よ」
「俺も死ぬのは嫌だ」
「ここは吸血鬼の私の出番ね」
クレアが話に混じってきた。
「死んだジークの体を捕食して、エネルギー変換して、魔族性の翼を出すのよ。吸血鬼の私を取り込んでるのだからできるはずよ」
「まじか」
勇者たちに希望がみえた。
さっそく勇者はジークの体を食い始めたが、とにかく不味かった。
「クレア、翼をだせ」
「任せて」
クレアは精神を集中させて、背中に翼のイメージを具現化しようとした。
5分経過
「まだか?」
「まだよ」
1時間経過
「まだか?」
「あともう少しよ」
半日経過
「遅すぎじゃぼけ」
「おかしいわ、翼がでないどころか、ジークから取り込んだ魔のエネルギーが全てなくなってるのよ。あり得ないわ」
勇者は股間のクレアを思い切り殴り
「俺たちの期待を裏切ったな、糞アマが」
「痛いじゃないの。できるはずよ。何かがおかしいのよ」
「いいにくいんだけど、私って女神だから浄化しちゃうのよ。食べてる時から浄化してたけど、言いにくくて。てへ」
「ディーネ、お前のせいか!!!お前は疫病神だ。モードチェンジ」
股間にディーネをうつして、思い切り殴る。
「痛いじゃないの。謝りなさい」
勇者は無言で小便をしだす。
「げほ、私が悪かったから戻して」