11.看病
マリアが目覚めた。
「おじさん…体中が痛くて、頭も痛いの」
勇者はマリアの額に手を当てる。熱もあるようだ。
「サテラ、これはどういうことだ」
「知らないわよ。私の責任じゃないわ」
勇者は責任逃れをするサテラを思い切り殴った。サテラは近くの木にあたり、自力で起き上がれない。
勇者は綺麗な水を調達しにいき、その間はロザリーとマリーにマリアの看病を任せた。
「俺のミスだ。よく考えたら、あの自称女神は汚物ため込むような汚らしい女だった。消毒すべきだったな」
湧き水を見つけたため飲んでみる。
「美味い。後は煮沸消毒すれば大丈夫だな」
勇者は容器に水を入れて、マリアたちのところにへと戻った。
「ご主人様、マリアちゃんが汗だくなんです」
「サテラはどうした?」
「そこです」
マリーが指さす方にのんきに倒れていた。
「起きろ、あばずれ」
顔にびんたするがサテラの意識は戻らない。
「肝心な時に使えねー女だな」
マリアの着替えを調達せねばならん。
仕方ない。サテラの服を脱がし始めた。
下着も含めて全て脱がして風呂敷に詰めて、川に洗濯しにいこうとすると、
「勇者様、積極的なのね♡」
サテラが足を掴んできていた。
「触るな、汚物が!」
つい条件反射でサテラを蹴り飛ばす。
サテラは口から泡をふく。
勇者は予定通り川へと向かい、サテラの服を念入りに手洗いした。
マリアの元に戻り、マリーに用意していた焚火で服を乾かす。
目の前に女性の服が見える。
どうやら乾かしてるようね。
何故か360度見えて、不思議な感覚を体験している。
近くにはあのサキュバスとぬいぐるみがいて、何故か私が看病されている。
「ああ、これは夢なんだわ」
眠る前はなにしてたっけ?
そういえばとても苦しかった。女神になってから一番苦しい思いをした。
首を絞められたんだった。卓也が馬鹿で助かったわ。
この夢が醒めて復活したら、次こそ私に忠誠を誓わせるのよ。
だけど、この夢おかしいな。足を動かそうとしても全く動かない。
今の私から伸びる毛だらけの腕が、寝ている私の額にある濡れタオルを交換するようね。
桶に映った顔は…うわ、最悪卓也の顔じゃないの。
これは卓也目線で私を看病している夢なのね。
現実でもこれくらい献身的なら少しくらいなら優しくしてあげてもいいのに…クス。
毛だらけの手が乾かしていた服に触れる。どうやら完全に乾いたみたいだった。
すると、次にその手が私へと伸びていく。服が脱がされていく。
「わ…わ…私を脱がせないで、お願い」
「さっきから、口うるさいから黙れ、糞女神」
「夢の中でも、私に逆らう気なの?」
「は?夢の中なわけないだろ、馬鹿か? 昨日まで馬だったな」
「夢のなかでも許さないわ」
話しているうちに私は全裸にされて、体を清潔な濡らしたタオルで拭かれていく。
「いいかげんに私から離れなさい卓也!」
「無理だ。マリアとお前を入れ替えたんだから、これからは俺とお前は一心同体だ」
「ははは、悪夢よ。早く目が覚めて欲しいわ」
その後も卓也による私の看病が続いた。しかし、数時間たっても状況は変わらなかった。
日の暮れる頃に私は、これは悪夢でなく絶望的な現実の始まりだったことを知る。
マリアは、入れ替え前のディーネの後遺症に苦しんでいた。女神の祝福を使用して馬車をひいたことが原因の筋肉痛、昨晩調子に乗って酒の飲み過ぎによる二日酔い、あとは過労によって普通の風邪を引いただけだった。
「おじさん、私このままだと死んじゃうのかな?」
「大丈夫だよ。マリー、ロザリー含めて3人がついてるからね」
「うん」
そしてマリアはまた眠りについた。
日が暮れると全裸のサテラが目覚めて、自分自身にヒールをかけ、収納魔法から服をだしてきていた。
「頭痛い。私も風邪ひいちゃったみたい」
サテラは勇者の体に倒れてきた。
「私もマリアちゃんと同じように看病されたいな♡」
勇者はサテラの顔に手の平をあてる。確かに熱かった。
「お前はここだ」
サテラのテントをマリアから離した。
「なんで私を遠ざけるの。酷い」
「マリアにお前のような汚物でもかかるような病原菌が感染したら命に関わるからだ」
勇者はサテラに飯を与えて去る。
翌日、マリアの二日酔いが回復し、熱も平熱に戻った。筋肉痛もだいぶ良くなった。
「おじさん、体中がまだ痛いけど楽になったよ」
「それは良かった」
「良くないわよ。私の体を返して」
勇者はディーネの言葉を無視する。
「おじさんとカレン、大好き」
カニの腕がマリアを撫でる。
マリアは勇者に抱き着いた。胸も当たる。
「離れて!離れて」
「私の幸せを邪魔する気なの?」
「卓也の声じゃない。あんた誰なの?」
「私の名はカレン。マリアと初めて会ったのもこの中よ」
「あなたちは卓也の被害者なのね。だったら女神の私に協力しなさい」
「私たちは、サテラの被害者よ!あなたもあの女の力でこうなったのよ」
「あの胸だけ大きくて、アホずらのサテラが?」
「そうよ。それと私の服の恨みを晴らしたいところだけど、
この中にいる限りは手出しできなくて残念」
「貴方の趣味だったのね」
マリアは体をもじもじさせ始めた。
「おじさん、ちょっと一人で近くを出歩くね」
「カレンが外は危ないから、一緒についていくといってるよ」
カニの爪がマリアを守るとジェスチャーで伝えている。
「うん」
マリアと勇者は森に入る。
「ここらへんかな」
マリアはパンツを脱ぎ始めた。
「卓也、見るな」
ディーネは怒りの声を上げて、ゴーレムの腕で視界を隠す。
カニの爪が、そのゴーレムの腕を引き離す。
「マリアを守るのを邪魔しないで」
カレンとディーネは腕をぶつけ合っている。
「俺もついでにするかな」
勇者はたちしょんし始めた。いつも通りクレアの口から小便が垂れ流しになる。
勇者とマリアが手をつないで戻ってくると
「勇者様、次は私と連れションしてください」
とサテラが頭を下げてきた。
「お前といくわけないだろ、ぼけ」
「ご主人様、私も一人だと怖いので近くまでついてきてくれませんか?」
マリーが上目遣いでお願いしてきた。
「マリーなら仕方ないな」
「ありがとうございます」
サテラは悔しいのか地面を殴っていた。
筋肉痛のマリアをカニの爪でお姫様抱っこして勇者たちは近隣の村か町へといくことにした。
途中でマリーも疲労から速度が落ちたので勇者はマリーを抱え、ロザリーも抱えた。
「勇者様、私も足が棒のようで歩けません。助けてください」
サテラが嘘をついて、楽しようとしていた。
「ディーネに頼め。俺とカレンは見ての通り、満席だぞ」
「それなら自力で歩くわよ」
それから数時間歩くと運よく村が見えてきた。
「やっとまともな寝床で寝れるな」