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あなたの剣になりたい  作者: 四季
7.親子の外出、それと遭遇
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episode.93 かつての刺客二人組

 少し前までブラックスターからの刺客だったグラネイトとウェスタ。二人が道端で芸を披露しているなんて、微塵も想像してみなかった。これはかなりの衝撃である。


「あの人って……」


 ウェスタを凝視しつつ、不安げに漏らすエトーリア。


「大丈夫よ、母さん。二人はもう敵ではないの」


 不安にさせてはいけないと思い、言葉をかける。するとエトーリアは、怪訝な顔をしながら、視線をこちらへ向けてきた。


「……そうなの?」

「今はもう敵じゃないの。まぁ、まさかあんなことをしているとは思わなかったけどね」


 苦笑いしつつ述べる。

 するとようやく、エトーリアの表情が柔らかくなった。


 僅かに、だが。


「ならどうする? 話しかけてみる?」


 エトーリアにそう問われたが、すぐには返せなかった。なぜなら、話しかけるべきなのかどうかすぐには判断できなかったから。知り合いだから、話しかけてはいけないということはないのだろうけど。でも、話しかけないでおいた方が良いのかなと思う心もあって。


「……エアリ?」

「ま、べつに、話しかけなくてもいいかもしれないわね」


 二人が話しかけてほしいと思っている可能性は低いはずだ。話しかけないでほしいと思っているかどうかは別として。


 だから私は、そっとしておくことに決めた。


「じゃ、行きましょっか」


 エトーリアの言葉に、私は頷く。


 そして歩き出した——刹那。


「エアリ・フィールド!」


 背後から、声が飛んできた。


 声の主はグラネイト。

 彼は人だかりを押し退け、私に駆け寄ってきていた。


「なぜ見なかったかのように流すッ!?」

「え、えっと……」


 手首を掴まれてしまった。これはもう、見なかったことにはできない。面倒臭さも若干あるが、話すしかなさそうだ。


「声をかけないのはなぜだ!?」

「え、いや……邪魔しちゃ悪いかと……」

「ふはは! 寂しいぞ!」


 それまでは芸を続けていたグラネイトが、急に私のところまで駆けたのを見て、観客たちは不思議そうな顔をしている。


「暇なら、グラネイト様の芸を見ていってくれ!」


 ……もう見た。


 けれど、そんなことは言えなくて。


「そ、そうね。分かったわ」


 私はそう答えた。



 グラネイトに発見され捕まってしまった私は、結局、彼らの演技をまたしても見ることになってしまった。心優しいエトーリアは付き合ってくれたので、一人にはならず、そこは良かった。だが、グラネイトの芸はやはり何ともいえない雰囲気で。笑えないし、感動もしなかった。


 芸が終わると、人だかりはみるみるうちに散っていく。

 一部の人たちは、ウェスタが持っている箱にお金を放り込んでいた。あの妙な芸に金を出す人がいるとは、驚きである。


 しばらくして人だかりが完全に去ると、グラネイトとウェスタは私たちのところへ歩いてきた。


「……こんなところで何をしている」


 一番に口を開いたのはウェスタ。


 長い睫毛に彩られた赤い瞳に、感情的でない顔つき、そして銀色に輝く髪。

 金属のような冷ややかささえ、彼女の魅力となっている。


「何をしている、って……私はただ、街を色々見て回っていただけよ」

「……そうか」

「ウェスタさんこそ、何をしているの?」

「……生活費が必要」


 こうして近くで見ると、彼女は本当に、デスタンによく似ている。彼女は鏡に映るデスタンのようだ。髪や瞳の色はまったく異なっているにもかかわらず、である。


 聡明さの表れた目鼻立ちの奥に潜む、複雑な色。

 仮面のような顔から見え隠れする、燃え上がる心。


 多分、そこが似ているのだ。


「そうだったの」

「……そう」

「けど、良かったわ。グラネイトさんと合流できたみたいで、安心した」


 グラネイトとウェスタ。二人はブラックスターにいた頃からの友人だから、きっと、上手くやっているのだろう。


「……ありがとう」

「元気だった?」


 そう問うと、ウェスタは怪訝な顔をする。


「なぜ……そこまで気にかける」


 ウェスタの口から出た言葉は、私にとっては意外なものだった。


「我々はブラックスターの人間だ。お前たちを傷つけた。にもかかわらず、なぜ……そんな風に接するのか、理解できない」


 真剣な表情で発するウェスタに、グラネイトはいきなり肩を組にいく。


「ふはは! ウェスタは考えすぎだ!」

「……グラネイトには聞いていない」

「ふはは! 大概のことは気にしたら負——ぐはぁ!」


 妙なノリで絡むグラネイトの腹に、ウェスタの肘が突き刺さる。


 肘での一撃は、静かだが、かなり威力がありそうだ。


 しかも、それだけでは終わらない。ウェスタは自身の腕を握ろうとしていたグラネイトの片手を掴み、指を逸らせる。


「あだだだだ!」

「……余計なことをするな」

「ごっ、ごめ、ごめっ、ごめんて!」


 ウェスタは容赦なかった。

 痛みにジタバタするグラネイトを見ていたら可哀想になり、余計な発言と分かりながらも言ってしまう。


「あ、あの、ウェスタさん……止めて差し上げては……」


 それに対しウェスタは、淡々と返してくる。


「理解力のない人間は、物理でいかねば止まらない」


 それ以上は何も言わなかった。


 これが二人の関わり方なのだとしたら、第三者が勝手な感覚で口出しするのは良くない——そんな風に思ったからだ。


 傍にいるエトーリアは、戸惑いつつ苦笑していた。


「……ところで。兄さんはどう?」


 答えづらい質問が来てしまった。

 私は思わず言葉を詰まらせる。


「えっと……」


 ウェスタの眉間にしわが現れる。


「言えないような様子?」


 怪しまれている!

 勘違いをされては困るので、ここは、はっきりと返さなくてはならないところだ。


「い、いいえ! 意識はしっかりしているし、元気そうではあるの! ……ただ、体が」


 私が言い終わるのを待たず、ウェスタとグラネイトが同時に発する。


「「体が!?」」


 少し空け、答える。


「……斬られた傷のせいかどうか分からないけれど、すぐには戻らないみたいなの」


 打ち明けるのは怖かった。特に、ウェスタの存在は恐ろしかった。彼女の憎しみが私に向くのではなどと考えてしまって。


 ウェスタは物分かりのいい人。だから、理不尽に憎しみを向けてきたりなんかはしない。

 そう信じている。


 けれど、信じていても、不安があることに変わりはない。


「……生きては、いるの」


 やがて口を開いたのはウェスタ。


「え」

「兄さんは生きている。それは事実なんだね」


 確認に、私は強く頷いた。

 するとウェスタの表情がほんの僅かに柔らかくなる。


「……なら、良かった」

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