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あなたの剣になりたい  作者: 四季
7.親子の外出、それと遭遇
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episode.92 芸

 渋みはなく、香りは良い。そして、微かに甘ささえ感じられるようなアイスティー。


 これだけハイクオリティな紅茶なら、エトーリアがいつも頼むというのもよく分かる。実際、私も機会があればまた頼もうと思ったくらいの、良い味だったから。



 こうして『ミンカフェ』で飲み物を楽しんだ私たちは、体が休まったところで、別の場所へ行ってみることになった。


 再びクレアの街を歩き出し、最初に立ち寄ったのはガラス細工の店。透明なガラス越しに色とりどりのガラス細工が見えるという、幻想的でとても素敵な店構えだった。


「どう? エアリ。素敵なところでしょう?」

「綺麗だわ!」


 人はいない。


 けれども、とても華やかな店内だ。


 赤、黄、緑、青、紫。

 もちろんそれだけではないが、本当に様々な色のガラスが、棚に並べられている。


 触れたら壊れてしまいそう。

 けれど、それゆえ美しい。


 私は店内を見て回りながら、そんなことを思ったりした。



「ようこそ! ここはビーズアクセサリーのお店なの!」


 美しいが寂れたガラス細工の店を出て、次に入ったのは、一軒家の一階を改造したような店。人の頭くらいの大きさのハートが一個彫り込まれた扉を開け、中へ入ると、二十歳少し手前ぐらいと思われる少女が元気に迎えてくれた。


「素敵なお店ですね」


 エトーリアが軽く褒めると、少女は自慢げに胸を張る。


「あたしの作品がたくさんあるの! ぜひ見ていってほしいの! 全部売ってるの!」


 店内にはテーブルや棚があり、そこにビーズアクセサリーが飾られている。陳列の仕方自体は、先ほどのガラス細工店とよく似ている。


 ただ、ガラス細工店と違うところもあり。

 それは、店内に私たち以外にも人がいることである。


「見て、エアリ。これなんて素敵じゃない?」

「何これ……蛇の正面?」

「ふくろうよ。値札にフクロウって書いてあるもの」


 そんな話をしながら、エトーリアと店内を見て回る。


 ビーズアクセサリーと聞くと可愛い系のイメージが強かったのだが、この店に陳列されているビーズアクセサリーは可愛い物ばかりではなかった。


 暖色系の花やリボン、ハート、小型犬など愛らしいモチーフも多い。が、それとは対照的に、骨付き肉やサソリなど可愛くはないモチーフの物もある。


 ただ、そういったセンスも嫌いではない。

 可愛いのは良いけれど、やや渋い物もある方が幅が感じられて、私は好きだ。


「エアリ、何がいい?」

「……私?」

「そうよ。気に入った物があったら言ってちょうだい。プレゼントとして買うわ」


 買うことを前提に見ていなかった。


「見るだけで大丈夫よ、母さん」

「気に入るのがなかった?」

「いいえ。素敵な物はたくさんあるの。けど、買ってもらうなんて申し訳なくて」


 するとエトーリアは、ぷっ、と吹き出す。


「エアリったら、おかしいわね」


 笑われてしまった。


「リゴール王子に似てきたんじゃない?」

「そうかしら」

「だって、エアリそんなに遠慮がちだった?」


 言われてみれば、そうかもしれない。

 傍にいる人の影響を受けるというのは、よくあることだ。それを考えると、私がリゴールの影響を受けているという可能性もないことはない。


「それもそうね。母さんの言う通りかもしれない」


 静かにそう言うと、エトーリアは控えめに笑みをこぼす。それから、小さな声で「じゃ、わたしが選んでプレゼントするわね!」と言った。


 私たちには思い出が少ない。

 けれど、思い出は今から作っていけばいい。


 母と娘であるという事実が変わることはないのだから。



「もうすぐ始まるって!」

「ええっ! 行く行く!」


 エトーリアが選んだビーズアクセサリーの入った紙袋を受け取り、二人並んで歩いていると、何やら話し声が聞こえてきた。話し声の主たちの方へ視線を向けると、走っていく少年少女の背中が見える。


「あっちは広場の方ね。広場で何かやってるのかしら」


 エトーリアが呟いた。

 そんな彼女に、私は問う。


「見に行ってみる? 母さん」


 その問いに、エトーリアは強く頷く。一回だけではあったが、はっきりした動きだった。

 意見が一致した私とエトーリアは、早速、広場へと足を進める。



 広場には人だかりができていた。


 人だかりは、少年少女が主だが、中には成人男性やバッサくらいのおばさんも交ざっている。また、日向ぼっこ中の老人かなというようなおじいさんも、一人二人紛れていた。


「何なのかしら? よく見えないわね」


 エトーリアが先に足を進め、人だかりへ接近していく。

 私はその背を追う。


 やがて、人だかりの向こう側にいる人物の姿が隙間から見え——衝撃を受ける。


 人だかりの中心いたのが、グラネイトとウェスタだったから。


「……ぎっくり腰」

「はぅあ!」

「……腰痛」

「ふ、ふふふふふぅ」

「……健康的なポーズ」

「ふははははーっ!」


 ウェスタがキーワードを呟き、グラネイトがそれに合った芸を疲労するという奇妙な会が、堂々と開催されていた。


 グラネイトの振る舞いはかなり珍妙なものだが、少年少女は爆笑している。私からしてみればただの変な会。ただ、若い世代には意外と人気があるみたいだ。


「……美男子」

「ふっ」

「……ナルシスト」

「ぐはは! 見よ! 我がかっこよさを!」


 グラネイトの奇妙過ぎる芸を目にしてしまったエトーリアは、完全に固まっていた。


「……卵」

「つるんっ。つるっ。つるつるつつつつつるるんっ」

「……こむら返り」

「あだっ!! あたっ、あた、あたっ、あだだだだァッ!!」


 わはは、と、人だかりが笑う。

 何が笑いを起こしているのかよく分からない。ただ一つ分かるのは、グラネイトの体を張った芸が人気だということ。


「……散歩」

「のしのし、のしのし、のしのしのし」

「……つまづいた人」

「あっ、ぶばっ!」


 グラネイトは身を引くと言ってくれていたし、ウェスタはリゴール奪還に協力してくれた。だから、ブラックスターへは戻っていないのだろうなとは思っていた。


 が、まさか二人揃ってこんなことをしているとは。

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