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あなたの剣になりたい  作者: 四季
7.親子の外出、それと遭遇
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episode.91 ミンカフェ

 私はエトーリアと二人、街へ出掛けることにした。


 母娘での外出。

 何だか新鮮な気分だ。


 頬を撫でる風も、晴れ渡った青空も、今はなぜか新しいもののように感じられる。


 思えば、エトーリアと二人で出掛けた記憶はあまりない。それだけに、最初は緊張していた。が、徐々に慣れてきて。時間が経つにつれ、ドキドキはワクワクへと変化していった。


 ただ、少し疑問に思う部分はある。

 それは、なぜ歩きなのだろう、ということだ。


「ねぇ母さん」

「何?」


 エトーリアは横顔さえも整っている。

 実際には母娘だというのに、並んで歩いていたら姉妹だと思われてしまいそう。


「どうして今日は歩きなの?」

「それはね。ただ、一緒に歩きたかったからよ」

「えっ……」


 想定外の理由に、思わず低い声を漏らしてしまった。


「それだけの理由で?」

「えぇ、そうよ」

「馬車で良かったのに……」

「それもそうね。けど、自然を感じながら歩むというのも、たまには良いと思うわよ」


 否定はしないけれども、敢えてしんどいことをする意味が理解できない。


「……それに」

「それに?」

「歩くのも鍛練になるんじゃない!」


 エトーリアが発した言葉を聞いた時、私はハッとさせられた。ただ歩くこと、それすらも体力を強化するために役立つのだと、彼女の発言によって気がついたからだ。


「た、確かに……」

「だから歩くのよ」

「それはそうね! 頑張るわ!」


 私は気を引き締め、前を向いて歩く。

 これも体力強化のための一つの訓練なのだと、そう理解して。



 クレアに到着した時、私は既に疲れ果てていた。肌は汗でびっしょり濡れているし、膝が微妙に軋む。しかも息は乱れてしまっていて、もはや、普通に歩くことさえままならない。


 そんな私へ、平然としているエトーリアが声をかけてくる。


「大丈夫? エアリ」


 エトーリアも私と同じだけ歩いたはずなのに、彼女はちっとも疲れていない。


「……母さん、どうして……平気なの……」


 呼吸が乱れているせいで、上手く話せない。


「エアリこそ、このくらいで呼吸を乱しているようじゃ戦えないんじゃない?」

「確かに……けど、歩き続けるなんて……」

「技も大切、でも、基礎体力も大切でしょ?」


 母親だからだろうか、エトーリアは妙に厳しい。


「そ、そうね……」

「じゃあひとまず、どこかお店に入りましょうか」

「それがいいわ……疲れた……」



 その後、私は、エトーリアが好きだというカフェに入った。


 そこは、外観からしていかにもおしゃれそうな、民家風カフェだった。外壁は一面赤いレンガ。入り口の脇には花の植わった植木鉢。そして、扉に掛かったベージュのプレートには、おしゃれな字体で『ミンカフェ』と刻み込まれている。


 それから中へ入り分かったのは、おしゃれなのは外観だけではなかったのだということ。


 石畳風の床と壁に、植物風のデザインが施されたテーブルと椅子。奇抜過ぎず、しかし特別感はある内装が、温かくも非日常的な空気を醸し出している。


 私とエトーリアは、隅の二人席に座った。そして、エトーリアがいつも頼むというアイスティーを、二つ注文した。


「何だかおしゃれな雰囲気の店ね、母さん」


 向かいの席に座るエトーリアは美しい。目鼻立ちはもちろんのこと、絹のような金の髪が神々しくて、直視できない。


「でしょ。こっちへ来て最初にお世話になったお店なの」

「勤めていた、ということ?」

「えぇ、そうよ。……と言っても、本当に短い期間だけだったけれどね」


 エトーリアがカフェで働いているところを想像したら、何だか笑えてしまった。


「あの人とは、その時ここで出会ったの」


 遠い目をして述べるエトーリア。


「え、そうなの!? あの人って、父さん!?」


 つい大きな声を出してしまった。

 カフェ内の他の客から視線を浴びてしまい、大きな声を出してしまったことを後悔する。


「そう。観光に来ていたあの人がたまたまこのお店へ来て、そこで知り合いになったの」

「へぇ」

「その頃はわたしもまだ女の子だったから、大人びた容姿の彼に憧れたわ」

「凄い、何だか青春って感じ」


 私には縁のない話だ。

 でも、嫌いではない。


 運命に導かれるようにして巡り合った異界の二人。


 そういうロマンチックな話も、なかなか悪くはないと思う。


「けど、意外と年が近かったのよね。彼の年齢を知った時は、びっくりしたわ」


 楽しいことを思い出したのか、エトーリアは、ふふふ、と笑う。少女のような、可愛らしい笑い方だ。


「これは後から知ったことだけど……ホワイトスターの人間とこの世界の人間では、加齢による容姿の変化のスピードが少し違っているみたいね。まぁ……ホワイトスターの人間といっても一様ではなくて、差はあるのだけれど」


 エトーリアはさらりと述べた。だがそれは、私にはすぐには理解できない内容で。暫し、言葉を失ってしまった。何と言葉を返せば良いのか分からなかったのだ。


「びっくりした、って顔ね」


 分かりやすい顔をしてしまっていたらしく、見事に当てられてしまった。


「びっくりしたわよ」

「やっぱりね。エアリ、分かりやすいわ」


 ふふ、と笑いつつ、エトーリアはアイスティーを飲む。ストローを加える仕草が可愛らしい。


「ということは……リゴールも案外年をとっているのかしら……?」


 恐る恐る言うと、エトーリアは笑顔で返してくる。


「そうね。少なくとも、エアリよりは年上なはずよ」

「本当に!?」


 信じられない。

 年が近そうだなくらいには思っていたが、まさか彼の方が年上だなんて。


「だって、わたしがこちらへ来る前にはもう生まれていらっしゃったもの」

「た、確かに……」


 衝撃のあまり、くらくらしてきた。私は何とか落ち着きを取り戻そうと、ストローに唇をつけ、アイスティーを飲む。優しげな芳香が漂い、淡い甘みが広がり、ほんの少しだけながら心を落ち着かせてくれる。


 これは何げにかなり美味しいアイスティーだ。


「まぁ、けど、今のエアリたちには年齢なんて関係ないものね?」

「え」

「そんなことでどうこうなるような柔な関係ではないでしょ?」

「え、えぇ。それはそうね」


 エトーリアの言う通りだ。

 リゴールが何歳かなんて、関係ない。


 彼とは、年下だからとか、年上だからとか、そんなことは気にならないような関係を築けているはず。

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