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あなたの剣になりたい  作者: 四季
6.黒の世界と、大切なもの
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episode.85 剣技

 人のいない、処刑場裏。

 私とデスタンは、そこで待機する。


 紅の空の下、その時を待つ。誰かに見つかったわけではないが、それでも妙に緊張してしまう。


 だが、それも当然と言えば当然だ。敵地にいるのだから、緊張せずにいられるわけがない。


「ウェスタさん……大丈夫かしら……」


 彼女は女性だ。そこらの女性より遥かに強いことは確かだが、それでも女性だから、心配せずにはいられない。警備の相手を女性一人に任せるなんて、普通ならあり得ないことだろう。


「問題ありません」

「けど、女の人なのよ……?」

「ウェスタは私と血を分けた者。それに、私は使えない魔法も使えます。そう易々とやられはしないでしょう」


 デスタンはウェスタの戦闘能力を信頼しているようだ。


 ならば、私も信じよう。

 疑っていても何も始まらない。


「……そうね。そうよね。ありがとう、デスタンさん」

「いえ」


 その時。

 処刑場の正面入り口の方から、慌てたような叫び声が響いてきた。


「始まったようですね」

「えぇ」


 デスタンと目を合わせ、お互い、一度頷く。

 それから私はペンダントを剣へと変化させる。これで、戦闘準備は完了だ。


「行きますよ」

「えぇ」


 こうして私たちは、処刑場の場内を目指す。



 裏入り口から場内に入り込んだ。


 私の役割は、デスタンが場内の敵の相手をしている間に、リゴールの体の拘束を解き、彼を処刑場から連れ出すこと。そして、別れる直前デスタンから受け取った本をリゴールに渡すこと。


 正直言うなら、ここまで来ても私は怖かった。敵前に姿を晒すわけだから。


 でも、もう逃げることはできない。

 前へ進む道しかないのだ、私には。


 デスタンが先に、処刑場内へ突っ込んでゆく。


 それから私も駆けた。

 目指すは、処刑場の中央に座らされているリゴール。


「リゴール!」


 名を呼ぶと、手足を拘束された状態で座っていたリゴールが顔を上げる。彼の青い瞳が、間違いなくこちらを向いた。


「……エアリ」

「今行くから!」


 だが、あっさり通させてはもらえない。


 というのも、リゴールの傍に待機していた兵二人が、立ち塞がったのである。


 尖った帽子を被り、軽装ながら鎧を身につけ、槍を持っている。そんな男性二人が、その槍の先をこちらへ向けてくる。


「させんぞ! 賊め!」


 以前の私なら相手にならなかっただろう。

 でも今は違う。

 私はリョウカの指導を受けてきた。少しは戦えるようになっているはず。冷静でありさえすれば、二人くらい何とかなる。


「オラァ!」


 片方の兵は槍を大きく振った。私はその場で咄嗟に屈み、槍の先を避ける。そして、全力で剣を振り抜く。


「グァバ!」


 剣の先が、兵の太もも辺りを薙いだ。

 兵の動きが鈍る。


 そこが狙い目!


 もう一撃、今度は腹部を斬りつける。


 赤い飛沫を浴びてしまったが気にせず、すぐに、もう一人の兵へと意識を向ける。


「よくも! 許さん!」


 まだ斬っていない方の兵は、鬼のような形相をしながら襲いかかってくる。相方をやられたことで本気になったのだろう。


 でも、負けられない。

 傷つけるのは申し訳ないが、それでも倒す。


「ごめんなさい!」


 柄をしっかり握り、兵に向かって勢いよく剣を振る。


「ルァイム!!」


 槍の先が私に届くより速く、剣が兵を切り裂いた。兵はそのまま、地面に崩れ落ちる。


 これで二人とも片付いた。

 やっとリゴールのところへ行ける。


「リゴール、大丈夫?」


 地面に座り込んだまま愕然としているリゴールに声をかける。


「……エアリ」

「怪我はない?」

「は、はい。しかし、これは一体……」


 意外なことに、リゴールの両手両足を拘束しているのは縄だった。

 これなら剣で何とかできる。


「デスタンさんが助けに来てくれたの。それに、ウェスタさんも協力してくれているのよ」


 リゴールの両手両足を拘束している縄を、剣の先で速やかに断つ。そして、四肢が自由になったにもかかわらずぼんやりしているリゴールに、言葉をかける。


「もう動けるわよ」


 すると彼は、戸惑ったような表情で、自由になった自身の両手を見ていた。


「そうだ。はい、これ」


 私は彼に本を差し出す。


「ありがとうございます……!」

「このまま脱出するわよ」

「……は、はい。そうですね。まずはここから離れなくてはですね」


 リゴールは片手に本を持った状態で立ち上がる。


 ——刹那。


「ふっ!」


 背後からの声に、振り返る。


 そして、私は愕然とした。


 デスタンが斬り伏せられていたのである。


 その光景を目にしたのは、私だけではなかった。リゴールも、ほぼ同時にそれを見ていた。信じられない、というような顔をしながら。


「デスタンさん!?」


 どうしよう。どうすれば良いのだろう。


 このまま逃げればリゴールを助けることはできるが、デスタンを放置してゆくことになる。デスタンを助けに行けば、全員で脱出することはできるかもしれないが、逆に全員殺られる可能性も高まる。


 何をどうすればいいの——悩んでいると、リゴールがデスタンに向かって駆け出した。


「待ってリゴール!」

「待てません!」


 駆け出したリゴールは、魔法を発動し、迫り来る兵を蹴散らしていった。


 さらに、彼はそのまま、デスタンを斬り伏せた張本人へ向かってゆく。凄まじい気迫で。


 デスタンを斬り伏せた張本人、唯一剣を持つ兵は、視線を、倒れて動かないデスタンから迫り来るリゴールへと移す。


 リゴールと剣使いの兵。

 一対一だ。


「覚悟!」

「本性を晒したな、白の王子!」


 リゴールは黄金の光の弾丸を剣使いの兵に向けて連射。兵はそれを、剣で確実に防いでいく。並の兵とは思えぬような剣技だ。


 ——だが。


 必死の形相のリゴールは、力押しで兵を仕留めた。


「レモッ……ン」


 光の柱を胸元に受け、剣使いの兵は後ろ向けに倒れ込む。

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