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あなたの剣になりたい  作者: 四季
6.黒の世界と、大切なもの
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episode.84 その先に待つものが

 ウェスタの話によれば、リゴールは明日中に処刑されることに決まっているらしい。しかし、時間はまだ決定していないようだ。そして、処刑が執り行われるのはナイトメシア処刑場。重要な人物の処刑は必ずそこで行われるらしい。私たちが今いる場所がナイトメシア城という名称らしく、ナイトメシア処刑場は、ここからそう遠くないところにあるそうだ。


 それにしても『処刑場』だなんて。物騒。


 そして、私たちの作戦はというと。


 まず、早朝から処刑場の様子を確認を続ける。

 ウェスタの部屋、その壁の高い位置にある小さな窓からは、そこの様子を見ることができるそうだ。だから取り敢えずは、そこから様子を確認する。


 そして、リゴールが城内へ連れていかれるのが見えたら、ウェスタの術で処刑場付近へ移動。


 ちなみに、ブラックスターの処刑の定形としては、処刑が始まってもすぐに首が刎ねられるわけではないそうなので、大急ぎで駆けつけねばならないということはなさそうだ。


 とはいえ、のんびりしてはいられないけれど。


 処刑場付近へ着いたら、まずはウェスタが警備兵に攻撃を仕掛ける。そして、場外で騒ぎを起こす。


 その騒ぎで、城内の兵も少しは外へ向かうことだろう。

 そうなればひとまず成功。


 次はいよいよ本格的に乗り込む。

 デスタンと私が頑張らねばならない段階である。


 ……もっとも、私にとっては「足を引っ張らないように頑張らねばならない段階」かもしれないが。


 そうして乗り込み、リゴールを連れて脱出すれば、ミッションクリア。


 口で言うのは簡単でも、恐らく、現実はそう上手くはいかないことだろう。現実は大概、想像と違う方へ進展するもの。


 それでも、私たちはやらねばならない。


 作戦決行の先に、どんな結末が待っているとしても。



 翌朝、高い位置の窓から降り注ぐ微かな光で、私は目覚めた。


「ん……もう……朝?」

「何を言っているのですか。馬鹿ですか、貴女は」


 最悪の目覚めだ。

 気がつくなり「馬鹿」なんて言われてしまった。


 だが、寝心地は最悪ではなかった。ウェスタにベッドを半分貸してもらい、そこでぐっすり眠ることができたので、体の調子は良さそうだ。


「厳しいわね、デスタンさん……」

「締まりのない人間は嫌いです」


 そんなに嫌われているのか? 私は。


「仕方ないじゃない、朝くらい。べつに、昼間まで寝惚けているわけじゃないんだから」


 愚痴のように漏らしつつ、私はベッドから起き上がる。

 とはいえまだ意識がはっきりしない私へ、ウェスタが、静かに声を掛けてくる。


「……起きた、か」

「おはよう。ウェスタさん」


 彼女は赤い瞳で私をじっと見つめてくる。が、その瞳から感情を読み取ることはできない。彼女の瞳には、感情があまり表れていないのだ。


「……おはよう?」

「え、えぇ。何かおかしかったかしら」

「いや……べつに」


 ウェスタは素っ気なくそう言って、そっぽを向いてしまう。


 揃いも揃って何なんだ、この兄妹は。

 ある意味恐ろしく似ているというか何というか。


「ただ少し、不思議に思っただけ」

「そうなの?」

「昨日まで敵だった……なのにおはようなんて、変」


 予想していなかったところを変と言われてしまった。感覚は人それぞれだから仕方ない部分もあるわけだが、それでも、かなり複雑な心境である。


 ただ挨拶しただけなのに、それが変だなんて。


「何を言っているの。挨拶は親しさに関係なくするものでしょう?」

「……敵にはしない」


 ウェスタは淡々と述べながら、床を軽く蹴る。そして、高い位置にある窓の枠に腰掛け、窓の外を見ていた。恐らく、処刑場の様子を確認してくれているのだろう。


「敵同士は……挨拶なんかしない」


 妙にしつこい。

 よほど主張したいようだ。


「えぇ、それはそうかもしれないわね。けれど、今の私たちは敵同士なんかじゃないでしょ?」


 今回だけになる可能性がないことはないが、それでも、取り敢えずは協力するのだ。少なくとも今は、味方と言って差し支えないはずである。


「……そう」

「なら、挨拶したって問題ないはずよ」

「……そうとも言えるかもしれない」


 ウェスタは私へ言葉を発しながらも、窓の外へ視線をじっと向けている。どのような状況にあっても様子の確認は怠らないところは、偉いな、と思った。


 その時。

 ふと思い、尋ねてみる。


「あ。そういえばウェスタさん」


 ウェスタは窓枠に腰掛けたまま、一時的に視線を私の方へと移す。


「……何」

「私が牢からいなくなっていたら、騒ぎにならない?」


 それによってリゴール処刑の予定が変わったりしたら、計画は台無しである。


「……ならない」

「そうなの?」

「……そう。メモを置いておいたから、大丈夫」


 ウェスタは、そう言って、微かに笑みを浮かべる。

 綿のように柔らかな笑みを浮かべる彼女を見て、私は、こんな顔もするのかと驚いてしまった。



 ——数分後。


「来た」


 唐突に発し、ウェスタは窓枠から飛び降りてくる。


「……移動」


 ウェスタはデスタンに向かってすたすたと歩き、その腕を掴む。

 私はペンダントを手にしたまま、慌てて二人に駆け寄る。


 だが、近くに寄ってから困ってしまった。というのも、ウェスタの体にいきなり触れたりして良いのか分からなかったのだ。


 しかし、ウェスタはすぐに気づいてくれた。


 彼女はもう微笑むことはしない。無表情のまま。

 でも、どうすればいいか分からず困っている私へ手を差し出してくれる優しさは、確かにあった。


「……ぼんやりしていないで」

「そ、そうね」


 私はすぐに差し出された手を掴む。


「移動」


 ウェスタが呟く。



 直後、私は処刑場と思われる建物の近くにいた。

 もちろん、移動したのは私だけではない。ウェスタとデスタンの姿も、すぐ近くにある。


「……ここが処刑場裏」


 ウェスタは静かに告げた。


 本当に処刑場の近くへ移動した——そう思った瞬間、背中に汗の粒が滲んできた。また、良い意味で震えが込み上げてくる。武者震いというやつに近いかもしれない。


「ではウェスタ、頼む」


 しばらくの間黙っていたデスタンが自ら口を開く。

 それに対し、ウェスタは静かに返す。


「……承知」


 いよいよ、その時だ。

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