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あなたの剣になりたい  作者: 四季
6.黒の世界と、大切なもの
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episode.81 ふはは!

 デスタンは、グラネイトの急な登場にも、そこまで驚いてはいなかった。奇妙なポーズに軽く戸惑っていた程度である。


 しかし、ウェスタは違う。彼女は「グラネイトは死んだ」と聞かされていた。無論、彼女とて、その情報を無条件に信じていたわけではない。だが、グラネイトは一度もブラックスターに戻ってこなかったので、段々「グラネイトは死んだ」のだと信じるようになっていっていたのだ。


 けれどそれは真実ではなかった。

 目の前にグラネイトがいることが、その証拠である。


「ふはは! 久々だな、ウェスタ!」


 そんなことを発するのは、グラネイト。青白いを通り越し、もはや灰色に見える肌が、彼が彼であることを証明している。


 ただ、服装は、今までのグラネイトとは違っていた。


 ワイン色の燕尾服は身にまとっておらず、そこらを歩いている人間と大差ないような服装だ。


 前をボタンで閉めるようになっている、キャメルの七分袖シャツ。その上に、チョコレートカラーのベストを着用している。上半身は、そのようなやや地味な雰囲気だが、下半身はそうではない。むしろ派手である。足首より数センチ上までのズボンは、オレンジやグリーンなどのストライプ。また、履いているのは飾り気のない濃い茶色の革靴だが、爪先の辺りに穴が開いており、そこからはカラフルな靴下が覗いていた。ちなみにその靴下は、空色がベースで様々な色のレモン柄が散らばっているという、可愛いげはあるが大人の男性には相応しくないデザインである。


「ふはは! ウェスタ。いきなり無視とはどういうことだ!?」


 グラネイトは呑気にウェスタへ歩み寄っていく。

 一方ウェスタはというと、近づいてくるグラネイトに、怪訝な顔を向けていた。


「……なぜ、生きている」

「んな!? グラネイト様が死んだと思っていたのかッ!?」


 口を大きく開き、ショックを受けたことを表現するグラネイト。


「……そう聞いた」

「ななッ!? そう聞いた、だと!?」

「トランが……そう言っていた」

「クソォ! 適当なこと言いやがって!!」


 ウェスタとグラネイトは、暫し、言葉を交わすことを続けた。


 心なしか仲間外れな感じになってしまったデスタンは、まだ終わらないのか、というような顔で二人を眺めている。


 もっとも、口を開くことはなかったが。


「グラネイト。なぜ、今まで戻ってこなかった」

「ふはは! トランのやつが、このグラネイト様に嘘をついたのだ!」


 そこまでは大声で、以降は小声で「……だからもう、色々面倒になって、戦いを止めることにした」と付け加えるグラネイトだった。


 それを聞き、ウェスタは、何か察したように目を細める。


「……そういうこと」


 直後、グラネイトはまたしてもポーズをきめる。

 最初に現れ着地した時のポーズを。


「そうだ! グラネイト様はブラックスターの手下を辞め、旅芸人となった! ふはは!」


 ポーズを披露してみたもののまったく反応がない。それどころか、冷ややかな視線を向けられている。

 そのことに気がついたらしく、グラネイトは話題を変える。


「だがな! ウェスタになら協力してやってもいいぞ!」

「……は?」


 眉間にしわを寄せるウェスタ。


「ブラックスターに歯向かう気になったのだろう!?」


 グラネイトの言葉に、ウェスタは、はぁ、と溜め息をつく。


「……意味が分からない」

「違うのか!?」

「歯向かう気などない」


 ウェスタの答えを聞いた瞬間、グラネイトは頭を抱えて崩れ落ちた。

 オーバーリアクションにも程がある。


「夢をみたところで……逃れられはしない。運命からは」


 だが、グラネイトはすぐに立ち上がった。

 しかもウェスタの手を掴んでいる。


「いや! そんなことはないぞ!」

「……触らないで」


 ウェスタは不機嫌そうに睨む。が、グラネイトはそんなことは微塵も気にしない。


「いや、触る! 手くらいは触る!」


 ——刹那。


 怒りに満ちた表情になったウェスタは、グラネイトの手を強く振り払った。


「な!?」


 さらに、ウェスタは炎を放つ。ターゲットであるグラネイトに向かって帯状の炎が伸びていき、ついには彼の服の端を焼いた。


 グラネイトもさすがに本当に攻撃されるとは思っていなかったらしく、慌てて後退し、デスタンにぶつかって転んだ。


「寄らないで」

「は、はい……すみません……」


 この時ばかりは、さすがのグラネイトも素直に謝罪した。


 それからウェスタは、視線を、グラネイトからデスタンへと移す。


「……兄さん」

「もういいのか」

「……邪魔者は消えた」

「いや、まだ消えてはいないようだが」


 そんなことを言うデスタンに、ウェスタは素早く歩み寄る。そして腕を伸ばし、デスタンの片腕を掴んだ。


「……あれは放っておけばいい」


 ウェスタの赤い瞳。

 デスタンの黄の瞳。


 それぞれから放たれる視線が、静かに交差する。


「いいのか、そんなことで」

「……問題ない」


 ウェスタは微かに目を細め、唇に薄く笑みを浮かべた。


 その数秒後、ウェスタとデスタンの姿が一瞬にして消える。


 結局、グラネイトは連れていってもらえずじまい。彼は、一人寂しくその場に放置される形になってしまった。


「な……何てことだ……」


 一人ぼっちになったグラネイトは、尻を地面につけたまま、そんなことを漏らす。


「まさか……置いていかれるとはな……ふはは! 想定外!」


 もし何も知らない者が今の彼を目にしたとしたら、座り込んで独り言を発する怪しい人がいる、と思ったことだろう。


「ふはははははは! 切ない!」


 グラネイトの叫びは、高い空にこだましていた。

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