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あなたの剣になりたい  作者: 四季
6.黒の世界と、大切なもの
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episode.80 かつて異なる道を選んだ

 エアリとリゴールがブラックスターへ連れていかれていた、その頃。


 侵入してきた賊をすべて片付けたデスタンは、騒ぎの直前リゴールがエアリの部屋に行っていたことをバッサから聞き、エアリの部屋へ駆け込んだ。


 だが、室内に人の気配はなく、エアリの剣とリゴールの本が床に落ちているだけだった。


 その光景を目にしたデスタンは、顔をしかめ、一人呟く。


「遅かった、か……」


 数秒後、リョウカが入室してくる。


「二人は!?」

「どうやら連れ去られてしまったようです」


 デスタンの返答に、リョウカは肩を落とす。


「そんな……」


 落ち込んだ様子の彼女には目もくれず、本と剣を広い集めるデスタン。

 数秒後、リョウカは彼の背中に問う。


「で、これからどうする!? 探しに行く!?」


 デスタンはすぐには答えない。

 なかなか答えが返ってこないことに苛立ったリョウカは、叫ぶ。


「ちょっと! エアリたちが心配じゃないの!?」


 リョウカはデスタンにツカツカと歩み寄り、彼の肩をガッと掴む。


「ねぇっ!!」


 直後、デスタンは振り向く。

 彼はリョウカを睨んでいた。凄まじい形相で。


 これには、さすがのリョウカも怯む。


「黙れ」


 親の仇でも睨んでいるかのような、目つき。

 地獄の底から湧き出たかのような、声色。


 それらをいきなり目にしてしまったリョウカは、顔をこばわらせ、デスタンの肩から手を離す。そしてそのまま、一歩、二歩と、後退した。


「な……」


 リョウカの声は震えていた。


「一体何なのっ……!?」


 しかし、その数秒後には、普段のデスタンに戻った。


「失礼。二人を探してきます」


 デスタンの様子が、またしても変わった。そのことに、リョウカは戸惑いを隠せていない。彼女は、何がどうなっているのか分からない、というような顔をしている。


 しかしデスタンはというと、そんなことはまったく気にかけていない。


 先ほど拾った、剣から戻ったペンダントとリゴールの本を手に、体の向きを反転させる。そして、そのまま扉に向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと! ちょっと待ってよ!」


 エアリの部屋から退室すべく歩き出したデスタンの背を追って、リョウカも足を動かし始める。


「無視しないでよ! もう!」


 デスタンに振り回され続けるリョウカだった。



 屋敷の外は静かかつ穏やか。人通りはほとんどなく、近くに馬車を置いておく小屋があるだけだ。その他にあるのは、自然だけ。


 リゴールやエアリを拐われ悶々としていたデスタンは、一人、屋敷の外を歩き回る。

 何か痕跡がないかを調べるという意味も兼ねて。


 侵入してきた賊の中で落命してはいない者たちの見張りは、リョウカに任せてきた。


 人間誰しも、すべてを一人でこなすことはできない。が、賊の見張りなどという危険な役割を、バッサら一般人に頼むことは難しい。


 それゆえ、デスタンは、見張りを引き受けてくれたリョウカには感謝している。


 ただ、感謝はしているが、共に行動したいとは思っていないようだ。それは、もしかしたら、デスタンの胸の内に「無関係な者を巻き込みたくない」という思いがあったからかもしれない。


 単に誰かと行動することが苦手なだけかもしれないが。


 屋敷の周囲を一通り歩き、特に何の痕跡もないことを確認したデスタンが、屋敷へ戻ろうとしていた——その時。


「……見つけた」


 背後から聞こえた小さな声に反応し、デスタンは素早く振り返る。


 するとそこには、彼によく似た女性——ウェスタが立っていた。


「ウェスタ……」

「兄さん」


 デスタンとウェスタ、二人の視線が重なる。

 かつて異なる道を選んだ兄妹の再会である。


「王子誘拐はブラックスターの命か」

「……さぁ」


 次の瞬間。


 はっきりしない言葉を返したウェスタの首に、デスタンは包丁を突きつけていた。


 ちなみに、デスタン持っている包丁は、ホワイトスターを脱出する時に所持していたナイフの代わりとして、バッサから貰った物である。


「答えろ、ウェスタ」


 デスタンは冷ややかに言い放つ。

 だが、ウェスタは怯えない。

 首に刃物を突きつけられてもなお、冷静さを保っている。


「……刃物での脅し。陳腐」

「王子をどこに連れていった。ブラックスターか」

「……知らない」


 デスタンの包丁を握る手に、力が入る。

 それでも、ウェスタは落ち着いている。


「答えろ!」

「……それはできない。けど」

「けど?」

「……兄さんをブラックスターへ連れてゆくことはできる」


 ウェスタは静かに言って、背後に立つ兄へと視線を向けた。


 暫しの沈黙の後。

 デスタンは包丁を握る手を下ろす。


「それは真実か」

「……嘘はつかない。そもそも、嘘をつく理由がない……」


 再び、二人の視線が重なる。

 一度目とは違った意味で。


「なら、連れていけ」


 兄の言葉によってウェスタの口角が微かに持ち上がったことに、デスタン自身は気づかない。


 ウェスタはデスタンへ、片手を差し出す。

 デスタンはその手を取る。


「……移動する。ブラックスターへ」


 彼女の繊細な唇から、言葉が放たれる。


 そして、二人の姿がその場から消え——る、直前。


「ふはははは! 待たないか!」


 どこからともなく、男性の声が響いた。


 周囲の反応など微塵も気にしないような、躊躇のない、やたらと大きな声。至近距離で放たれたら耳を傷めそうな声。


 デスタンも、ウェスタも、その声の主が誰であるかすぐに分かった。

 ただ、その正体に気がついた時の心情は、大きく違っていただろうけど。


「グラネイト様、登場ッ!!」


 近くの木、その高い位置の幹から飛び降り、グラネイトが姿を現した。人が乗るのは危ないような、かなり高い場所から飛び降りたが、着地は見事に成功。その結果は素晴らしい。


 が、着地のポーズは、かなり残念な雰囲気をまとったポーズだった。


 左足を耳にぴったりくっつくほど大きく上げ、唯一地面についている右足は爪先立ち。両腕は真上へ伸ばし、手のひらが空へ向くように手首を反らしている。


 妙なポーズをとるグラネイトを目にし、一番に声を発したのはウェスタ。


「……そんな。どうして……」

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