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あなたの剣になりたい  作者: 四季
1.巡り会いと、村での暮らし
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episode.7 出力調節を誤りまして

「でも! 行くところがないのなら……!」


 静寂の中、私とリゴール、二人の声だけが空気を揺らす。


「お気遣いなく。自分のことは自分でどうにかしますから」


 私はリゴールのために何かしたかった。初めて来た世界に戸惑っているであろう彼へ、手を差し伸べたくて。


「……できるの? 慣れない世界でしょう。どうにかなんて、できるの?」

「はい。どうか、心配なさらないで下さい」


 リゴールはきっぱりと答えた。


 無理なのかもしれない。彼のために私ができることなんて、結局、何もないのかもしれない。


 信じたくはないけれど、それが真実で——。


 そんな時だ。

 湖の方から急に、ちゃぽん、と音がした。


 私は咄嗟に振り返る。


 が、そこには何もない。


「今、音がしなかった?」

「……はい」


 リゴールの表情が固くなる。

 警戒するのも無理もない。彼は命を狙われる立場にあるのだから。


「湖の方からでしたね」

「えぇ。離れた方が良いかもしれないわね」

「はい。では——エアリッ!」


 突如、リゴールが叫んだ。そして、叫ぶと同時に、私の体を突き飛ばす。細い腕だが、そこそこの力だ。

 身構えていなかったというのもあり、私は後ろ向きに飛ばされた。


 その直後、目の前で爆発が起きた。



 リゴールに突き飛ばされたことで転倒していた私は、飛ばされないよう手足を地面につき、爆風に耐える。そのうちに、爆風は収まった。さらに、視界を悪くしていた煙が晴れた時、目の前にはあの男性が立っていた。


 そう、リゴールを狙うあの男性だ。


 ワイン色の燕尾服を着ていて、手足は長く顔は真っ白な、今朝私の家を一部破壊した男性である。


「ふはは! 見つけたぞ、王子!」


 第一声は今朝と同じだった。

 他のパターンはないのだろうか。


「ここでなら請求も何もない! 全力で仕留めてやれる!」


 ——全力で仕留めてやれる?


 それは、全力でかからねばリゴールを仕留められない、と言っているようなものだ。つまり、己がさほど強くないということを自覚しているということで。


 ……かっこ悪いとは思わないのだろうか。


「またですか! 執拗に追い回すのが、そんなに楽しいですか!」


 リゴールは厳しい目つきで発した。


「王子は少々気が強いようだな。だがしかし! 強気なだけでは、このグラネイト様には勝てんよ!」


 ワイン色の燕尾服の男性——グラネイトは、勇ましく叫んだ後、片手を掲げて指をパチンと鳴らした。


 すると、湖の中や周囲の木々の陰から、不気味な動きをする集団が現れる。小柄な人間のような生物が、二十程度。


 完全に囲まれている。


「何これ!?」


 私は思わず叫んでしまう。

 が、グラネイトはリゴールの方を向いたままだった。


「王子、今日は護衛はいないのだな。途中ではぐれでもしたか。ふはは!」

「……狙いはわたくしですね」

「そうだ!」


 リゴールは険しい顔のまま、小さな本を取り出す。

 彼がそれを開くと、本全体が輝き始めた。


「ゆけ! したーっぱ!」


 グラネイトの指示に従い、不気味な動きをする生物たちは動き出す。半分くらいが、リゴールに迫っていく。


「リゴール!」


 私は叫ぶ。

 でも、その声は今の彼には届かなかった。


「……参ります」


 リゴールは、本を持っているのとは逆の左手を、高く掲げる。すると、本から溢れた黄金の光が上空へと舞い上がる。


 まるで怪奇現象。

 だがとても幻想的で美しい。


「ふはは! 溜めが長すぎ——ん?」


 一度は馬鹿にしたように笑ったグラネイトだったが、空を見上げるや否や顔をひきつらせる。


 直後。

 上空へ舞い上がっていた黄金の光が、凄まじい勢いで地上へと降り注ぐ。


 その様は、まるで落雷だった。


 轟音が響き、大地は震え、水面は荒れる。人為的なものとはとても思えぬ凄まじいエネルギーが、宙を駆け抜けた。


「うぐあぁぁぁぁ!!」


 黄金の光の直撃を受けたグラネイトは、痛々しいほどの悲鳴を発する。

 私はただ、呆然としている外なかった。



 静寂が戻った頃には、二十程度いた敵は全滅し消えていた。どうやら、倒されると姿が消える仕組みになっているようだ。


 そして、グラネイト自身も、「今日はここまで!」と言いつつ撤退していったのだった。


 それにしても、あの凄まじい一撃を食らって死んでいないというグラネイトの耐久力は、なかなかのものだ。ある意味、尊敬に値すると言えるかもしれない。


「リゴール!」


 私は立ち上がり、彼の方へと駆け出す。


「ご無事ですか!? エアリ!」


 ほぼ同時のタイミングで、彼も走り出していた。私の方へと、一直線に向かってきている。


「えぇ! けど……」

「何です」

「今の威力、何!?」


 結局のところ、それが一番気になった。


「凄まじい破壊力で驚いたわ。貴方、あんな凄まじい力を持っているの」


 するとリゴールは、恥ずかしげに、気まずそうな顔をした。


「じ、実は、その……」

「実は?」

「出力調節を誤りまして」


 え。何それ。


「まさか、さっきのはミスだというの?」

「はい。申し訳ありません。しばらく使っていなかったもの、で……」


 言いかけて、彼は倒れ込んだ。

 私は咄嗟に体を貸し、彼の脱力した体を支える。力が抜けているからか、そこそこ重い。


「大丈夫!?」

「……は、い」


 一人で立っているのは厳しいらしく、彼は、私にもたれ掛かるようにしている。ただ意識は確かなようで、その青い瞳は私を捉えていた。


「魔法は、使いすぎると……体力が消耗するので……しばらく控えていたのですが」

「生命に関わるの⁉︎」

「いえ、さすがに、そこまでのことは……ただ疲れるだけです」


 そう言って、彼は笑った。


 リゴールの体は少年だ。しかし、心は少年ではないのかもしれない——ふと、そんなことを考えた。


 もっとも、今までの私だったら、そんなことを考えはしなかっただろうが。


 こことは異なる世界、その王子。得体の知れない怪しい敵。そして、魔法。そういう、とても現実とは思えないような物事との出会いが、私を変えたのかもしれない。


「良かった。でも、少し休めるところへ行った方がいいわね」

「……ありますか?」


 少し考えて。


「そうねー。横になれるところといったら、村の外れにあるいかがわしい宿泊施設くらいしか思いつかな——」

「それはお断りします!」


 言い終わるより先に、拒否されてしまった。


 だが、何にせよ、あそこはリゴールには相応しくない。

 それゆえ、もしリゴールが拒否しなかったとしても、彼をそこへ連れて行くことはしなかっただろう。


 先ほど私が言った宿泊施設は、ろくに管理されておらず、勤めている人も怪しげな人一人で、いつも薄暗い。しかも時折異臭騒ぎが起こることもある。親から近寄ることを禁止されていたため、内部を目にしたことはないが、恐らく、内部は凄まじい衛生状態だろう。


 そんな場所へ、リゴールを連れて行くわけにはいかない。


「座ることができれば……それだけで、問題ありません」


 リゴールがそう言うので、私は提案する。


「なら食堂は?」

「食事をするところですか?」

「そうよ」

「なるほど、そこなら良さそうですね」

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