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あなたの剣になりたい  作者: 四季
6.黒の世界と、大切なもの
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episode.78 人の気配のないところ

 天井は暗く、人の気配はない。そんな空間の中で目を覚ました私は、おかれている状況に戸惑いつつも、冷静さを失わないように心掛ける。取り乱したところで良いことなどないと思うからだ。


 とはいえ、不安が少しもないというわけではない。


 私だって普通の女だ。慣れない場所へ連れてこられてしまったら、不安になるし恐怖心を抱いてしまうこともある。


 もし可能であるならば、誰かに今の状況を説明してもらいたい。


 だが、周囲に人がいる様子はないため、すぐに状況説明をしてもらえるということはなさそうだ。


 なので私は、ひとまず、その場で待つことにした。

 待っていればいつかは誰か来るだろう、と、そう考えて。



「目が覚めたみたいだねー」


 待つことしばらく。

 格子の向こう側に、一人の少年が現れた。


「……貴方は、トラン?」

「ふふふ。覚えていてくれたんだねー」


 そう、少年はトランだった。


 以前デスタンを誘拐し、彼を操ってリゴールを傷つけさせた、卑怯極まりない男の子である。

 それだけに、良いイメージはない。


「ここは一体どこなの」


 意識を取り戻してから、どのくらいの時間が経過しただろう。部屋に時計はないので、きちんとした時間を知ることはできない。が、恐らく、一時間ほどが経過しただろうか。


「ここがどこかって? ふふふ。ここは、ナイトメシア城の近くの牢屋だよー」


 トランは笑顔で答えてくれた。

 しかし、どうも怪しいとしか思えない。


 無論、牢屋という言葉自体は嘘ではなさそうである。私もそうなのだろうと思っていたし、ここは、誰が見ても牢と分かるような場所だ。


 それでも彼の言葉を怪しいと感じてしまうのは、多分、彼自身に妙な怪しさがあるからなのだろうと思う。


「私を捕まえたりなんかして、どうするつもり?」


 トランを見上げ、睨んでやる。

 こんなことをしていては、ちっとも可愛くない女かもしれない。が、今はそんなことは気にしない。


「いやー、ボクとしては君も捕まえる気はなかったんだけどなぁ」

「……そうなの?」

「うん! だって、ボクの狙いはホワイトスターの王子だからねー」


 その言葉を耳にした瞬間、リゴールのことを思い出した。


「リゴールも捉えられているの!?」


 思わず大きな声を発してしまう。


 しかし、トランはそういったことには微塵も関心がないらしく、そこについては特に何も言ってこなかった。


 大声を発してしまったことに触れられずに済み、私は、少しばかり安堵した。


「そうだよー。作戦大成功」

「リゴールに酷いことをしたりはしていないでしょうね……?」

「もっちろん。ふふふ。まだこれからだよ」


 これから、という言い方が妙に気になってしまう。が、一応、現時点では無事ということなのだろう。あくまで「現時点では」であるが。


「私も仕留めるつもり?」

「……うーん、それはまだ分からないなぁ」


 問いに対して、曖昧な言葉を返すトラン。


「地上界の仕事屋に頼んだんだけどさぁ……君まで差し出してこられるとは思わなかったんだよねー」


 あくまで王子だけを誘拐するつもりだったと。

 私——エアリ・フィールドにまで手を出す気はなかったと。


 彼はそう言いたいのだろうか。


「目的のために無関係な人たちを使うなんて、貴方、随分自分勝手ね」

「ん? 何それー」


 首を傾げるトラン。


「報酬はちゃんと出したし、自分勝手なんかじゃないよ。正式な依頼だよー」


 トランは、そう続け、さらに何か言おうと息を吸う。

 が、それを遮るように。


「トラン!」


 誰かが駆け込んできた。

 見知らぬ男性である。


「ん? なにー?」

「その娘を連れてくるように、と、王妃様が!」

「ふーん。分かった分かった」


 唐突に駆け込んできた見知らぬ男性は、トランの返事を聞き、進行方向を変える。速やかに去っていった。ただ伝えにきただけだったようだ。


 トランは羽織っている上着のポケットへ面倒臭そうに手を突っ込み、錆びついた鍵の束を取り出す。


「君は即処刑ではないみたいだね。良かったね」


 そんなことを言いながら、トランは鍵を鍵穴へと差し込む。そして、格子状の入り口部分を開けた。


「王妃様のところまで、ご案内ー」

「……何なの」

「何なの、だって? ふふふ。君、なかなかユニークなことを言うねー」


 トランはゆったりとした足取りで近づいてきて、一メートルも離れていないくらいの場所へ座り込む。それから、鍵束のうちの一本を、私の足首の枷にある鍵穴へ突っ込む。足が自由になる。


「さぁ、立って」


 トランは私へ手を差し出してくる。

 だが、その手を取ることはできない。なぜなら、両手が拘束されているから。


「……できないわ」

「へぇ。敵地だというのに、そんな強気に断るんだ?」

「いいえ。手も拘束されているから、その手を取ることはできないの」


 するとトランは、ぷっ、と吹き出す。


「なるほど、そういうことだったんだねー」



 その後、私は、トランに付き添われながら移動した。


 目的地はナイトメシア城内にある王妃の間らしい。


 リゴールをあそこまで容赦なく襲い続けたブラックスターの王妃とは、一体どのような者なのだろう? 恐ろしい、悪魔のような人だろうか?


 移動中、私は一人、色々考えていた。


 ただ、リゴールのことも心配だが、それについてはあまり考えないよう心がけている。考えてもどうしようもない、と、自分に言い聞かせて。



「着いたよー」

「もう!?」

「うんうん、到着ー」


 王妃の間の前へは、意外と早く到着した。


「ここに……ブラックスターの王妃が?」

「うん。王妃様がいらっしゃるよ」


 王妃ともあろう人の部屋の入り口なら、さぞ固く閉ざされているのだろう。

 私はそんな風に考えていた。


 だが、それは違った。


 王妃の間、その入り口は、半透明の黒い布が垂れ下がっているだけ。

 こんな無防備で良いのか、と疑問を抱いてしまうような入り口だ。


 そんな入り口の前で、トランは叫ぶ。


「王妃様ー! お連れしましたー!」

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