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あなたの剣になりたい  作者: 四季
6.黒の世界と、大切なもの
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episode.76 賊

 唐突に開く扉。

 そこから現れたのは、見知らぬ男だった。


「おぅおぅ、邪魔するぜぇー」


 現れた男は、服の上から銀色の鎖を全身に巻き付けるという、非常に個性的な格好。鍛えられた筋肉に鎖が食い込む様は、独特の雰囲気を漂わせている。


「何者ですか」


 ベッド付近にしゃがみ込んでいたリゴールは、速やかに立ち上がると、冷たい声色で放つ。その時、彼の瞳は、鎖の男を容赦なく睨みつけていた。


 だが、睨まれた程度で怯みはしな——いや、むしろ嬉しげだ。


 睨まれて嬉しいのか?

 そこは私には理解し難い。


 が、この正体不明の男は、リゴールが睨みつけた程度で逃げ出す弱い相手ではないようだ。


「おぅ、いいねー。良い睨みだぜぇー」


 男はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。しかし、リゴールは動じない。彼は、男へ真剣な眼差しを向けたまま、様子を窺っている。


「……ブラックスターの手の者ということはなさそうですね」


 リゴールは男から視線を外さぬまま、片手を自身の上衣の中へ突っ込み、魔法を使う時によく持っている小さな本を取り出す。戦闘に備えているのかもしれない。


「あぁ? ブラなんちゃらなーんて、知らねぇよ」

「無関係な者が……なぜここに」

「おぅおぅ、何か言ってやがるな。だが、ちっさいことはどーでもいいんだぜぇー」


 鎖の男は、片方の握り拳を、意味もなく前へ突き出す。誰かを殴るわけでもなく、一見くだらない動作のように感じられる動作だ。だが、その動作によって、大きなことに気がついた。そう、拳に棘のようなものが生えた武器を装着していたのである。


 見慣れない武器だが、明らかに危険そうな物だ。

 もし男のパンチを食らったならば、打撃以上のダメージが発生しそうである。


「何しに来たのですか!」


 リゴールは調子を強める。

 しかし、鎖の男は、不気味にニタニタ笑ったまま。


「俺はなぁ、ここからちょっくら離れた山で賊やってたんだ。そしたら、ある人に頼まれたんだぜぇー。黄色い頭の男の子を連れてきてくれーってな」


 男は軽やかな口調で話す。


「それから俺らは調査を重ねてだなー、最終的にこの屋敷にたどり着いたってわけだ」


 鎖の男自身はブラックスターの手の者ではない。が、彼に今回の件を依頼した者は、ブラックスターの人間なのだろう。


 無論私の想像に過ぎないが。

 ただ、その可能性が低くないということは、誰の目にも明らかなはずだ。


「俺とてホントは自ら殴り込んでいくなんて下品な真似はしたくねぇが……良い報酬があるから仕方ねぇ!」


 言い終わるや否や、鎖の男はリゴールに突進する。


「……参ります」


 リゴールは小さく呟き、次の瞬間には、体の前に黄金の膜を作り出した。突進してきていた男の体は、その膜に激突する。


「かぶぅえ!?」

「遠慮はしません」


 開かれた本から溢れ出す光。

 それは非常に神々しく、この世の穢れをすべて払い落としてしまいそうな光。


 リゴールはそれらを宙で集結させ、大きくなった光の球を、男に向かって投げつける。


「ぶぉうるッ!?」


 光の球を顔面に受けた男は、悲鳴のような雰囲気をまとった叫びを発した。光球に激突されたせいで、四角い顔の顎の部分が歪んでしまっている。


「無益な争いは止めましょう」


 床にしゃがみ込み、ヒゲで黒ずんだ顎をさすっている男に対し、リゴールは静かに提案した。


 だが、男は何も答えない。

 体に巻き付く銀色の鎖を触りながら、俯き黙っている。


 鎖の男は口数は少ない方ではない。それは、彼の今までの振る舞いを見ていれば容易く分かることだ。

 それだけに、今の男の様子は不思議で仕方がない。


 直前までよく喋っていた者が急に黙るなんて、明らかに不自然である。


 だから、私は口を開くことに決めた。


「気をつけて、リゴール。あやしいわ」


 リゴールは鎖の男から目を離さないまま、返してくる。


「不審な動きがありましたか?」


 視線は敵だけに向け続けているリゴールだが、私の声もきちんと聞いてくれているようで、何だかとても嬉しかった。


「口数が減っているのがあやしいのよ」

「……それもそうですね」


 納得してくれたようだ。

 その後、リゴールは男に向かって問いを放つ。


「貴方、去る気はないのですか?」

「…………」

「無視とはどういうことです! 不躾にもほどがありますよ!」


 リゴールが攻撃的に言い放った——瞬間。


 男は突如立ち上がり、棘のついた拳を振りかぶる。


 放たれる、打撃。

 リゴールは体の前に防御膜を張り、それを咄嗟に防ぐ。


「おぅりゃぁ!」


 だが、黄金の防御膜は一瞬にして砕け散る。

 それだけ、男の拳が強力だったということなのだろう。


「……なっ」


 リゴールの口から引きつったような短い声が漏れる。


 ——直後、男の二発目の拳がリゴールに向けて放たれた。


 私はベッドを出て、枕元に置いているペンダントを握る。なぜなら、リゴール一人ではまずいかもしれないと思えてきたから。


 まだ決定事項ではないが、私も協力した方が良い状況になるかもしれない。


「くっ……」


 二発目の打撃、リゴールは何とか防いでいた。

 ただ、いつものように黄金の膜を張って防いでいたのではなく、腕での防御だった。彼らしくない。


「去っては下さらないようですね……」

「そりゃそーだぜぇー!! せっかく獲物を発見したのによぉ! それを逃がすなんざ、ただの馬鹿だろ!」


 男は即座に握っていた手を開き、リゴールの右手首を掴む。そして、掴んだ手首を強くひねり上げる。痛みに顔をしかめるリゴール。


「ちょっと! リゴールを離して!」

「おおーぅおぅ、何だぁ?」


 手の内にあるペンダントへ祈りを注ぐ。

 私に力を、と。


 するとペンダントは、速やかに、一振りの剣へと形を変えた。私はそれを構え、男を睨みつける。


「彼を離してちょうだい!」

「残念だがなぁ、それは無理なんだぜぇー」


 そう言われるだろうとは思っていた。むしろ、この状況ですんなり解放してもらえた方が、不自然で気味が悪い。裏がありそう、と、不安を抱いてしまいそうになる。だから、断られる方がまだ良かったのかもしれない。


「……まぁ、そうよね。離せと言って離すなら、とっくに離しているわよね」

「そりゃそうだぜぇー! 分かってるじゃねーかよ」


 そう、分かっている。最初から分かっていた。こんな乱暴な行いをした男が少し何か言ったくらいで悪事を止めるわけがない。


 それでも、もし言葉で説得できたらと。

 そんな淡い幻想を抱いた私が間違っていた。


「んじゃ、これでな。俺はもう失礼するからよ」


 男からすれば、リゴールを捕らえることさえできればそれでいいのだろう。


 ——でも、私からすれば、全然良くない。


「させないわ!」


 剣を手に、男へ接近する。

 もはや迷いはない。

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