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あなたの剣になりたい  作者: 四季
5.新たな仲間と、住むところ
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episode.67 クレアの武芸大会

 クレアに到着した。


 そこは、非常に賑わっている都市だった。


 大通りは道幅がかなり広い。しかし、それでも混雑。人で溢れかえっている。武芸大会が開かれるからなのか、いつもこのような感じなのか、そこは分からない。ただ、少なくとも、私がこれまで行ったことのあるどの街より人が多いことは確かだ。


「よく眠っていましたね、デスタン」

「……失礼しました」

「いえ、責めているわけではありませんよ。では早速。武芸大会とやらの会場へ行ってみましょう」


 馬車を降りた私たち三人は、砂利の敷かれた大通りへ足を踏み入れる。

 途中ではぐれないよう、注意しながら。



 デスタンの案内に従い、歩くことしばらく。目の前に、黒くて大きい建造物が現れた。全体的な形は円形で、外側の壁の高さは二階建ての家を縦に二つ重ねたくらい。それゆえ、外から中の様子を覗き見ることはできそうにない。


「大きいですね……!」


 一番に感嘆の声を漏らしたのはリゴール。


「こんな大きさの建物、こちらへ来てから初めて見るかもしれません……!」

「それは、ホワイトスターではよくあったということ?」


 リゴールを一人で喋らせ続けるのも何なので、思いきって質問してみた。すると彼は、頭を左右に動かす。


「いえ。よく、はありません。ただ、城はそこそこな大きさがありました」

「お城! 確かに、お城ならとっても大きいのでしょうね!」


 私は城で暮らしたことはないし、城下町で暮らしたことさえない。だから、本物の城というものは知らない。私の脳に刻まれているその姿とは、昔絵本で見たものなのである。


 それゆえ、私が考えている城のイメージが実際の城と一致しているのかどうかは、分からない。


「そうですね。内部が妙に複雑で、よく迷子になりました」

「迷子って……」

「似た部分が多いので、歩いていると段々よく分からなくなってくるのです」


 円形の建造物に向かってゆっくり歩きつつ、私はリゴールと言葉を交わす。深い意味のない話題ばかりではあるが、私としてはその方が気が楽なので、嫌ではない。


「私も迷いそうだわ……」

「はい、皆迷います。わたくしのところへ来て下さったばかりの頃、デスタンもよく迷っていました」


 リゴールがそう言ったところへ、デスタンがすかさず口を挟んでくる。


「余計なことを言い触らさないで下さい、王子」


 きちんとした雰囲気の黒い上下を身にまとっているデスタンは、隙のない印象だ。日頃の彼が情けなく見えるというわけではないが、今の彼は、特に完璧な雰囲気を漂わせている。


 それだけに、「よく迷っていた」などという話を聞くと、不思議な感じがしてしまう。


「何を言い出すのです? デスタン。余計なことではありませんよ?」

「余計なことです」

「昔貴方が迷子になっていた話をしているのです。余計などではありませんよ?」

「恥をかかせるような話は止めて下さい」


 リゴールとデスタンの永遠に続きそうなやり取り。こういったことは時偶発生するので、驚きはしない。


「そろそろ会場へ入りましょう」

「あ! デスタン、話を逸らしましたね!?」


 速やかに歩き出すデスタン。

 リゴールはその背を追って、小走りする。


「何のことでしょう? ……行きますよ」

「えぇっ」


 滑らかな足取りで速やかに先頭を行くデスタン。その黒い背中を小動物のように懸命に追うリゴール。そんな二人に、私はついていった。



 円形の大きな建造物。その内部は、個性的な構造になっていた。というのも、建物自体はドーナツのような形になっていたのである。しかも、一階の一部を除けば、そのほとんどが客席。座席がびっしりと並んでいて、自由に座ることができるようになっている。


 私たち三人は速やかに席につこうとしたのだが、一階の客席にはもうあまり空きがなく、結局三階まで上がることになった。最上階である。


 建物の内をくり貫いて作ったような楕円形のフィールドには若々しい緑がきっちり並んで生えていて、風が吹くたび、それらは波のように揺れる。


「面白い構造ね」

「ですね! わたくしもそう思います」


 隣の席のリゴールと視線を合わせ、意味もなく笑みをこぼす。


「期待通りの実力者がいれば良いのですが……」

「真剣ね、デスタンさん」

「当然です。遊びに来たわけではありませんから」


 まだ誰も現れていないフィールドへ真剣な眼差しを向けるデスタンの横顔を見ていたら、胸の中でおかしな感情が膨らんだ。これは一体何? と問いたい衝動が込み上げてきたが、問う相手がいないため諦めた。


 そんな時、リゴールが唐突に問いを放つ。


「しかしデスタン。実力者を見つけられた場合、いかにして知り合いになるのですか?」


 フィールドにはまだ誰も現れない。だが、客席は着実に埋まってきている。最上階でもほぼ空席がない状態、かなりの賑わいだ。


 武芸大会がここまで人気のある催し物だったとは。

 こう言っては失礼かもしれないが、正直、驚きしかない。


「上位数名とは表彰後に言葉を交わすことができるそうなので、その時にでも声をかけてみるつもりです」


 デスタンの淡々とした答えに、リゴールは眉を寄せる。


「呼び出せれば楽なのですがね……」


 表彰後に声をかけられる時間が設けられているというのは、ありがたいことだ。だが、たとえそのような時間があったとしても、私は話しかけには行けないだろう。


「王子がそう仰るのは分かります。城では呼び出すのが普通でしたから」

「わざわざ話しかけにいかねばならないというのは、どうも違和感が……」


 リゴールはこの世界での暮らしにすっかり馴染んでいるように見える。苦労しているようにも見えないし。


 しかし、もしかしたらそれは違うのかもしれない。それは、私の都合のいい解釈なのかもしれない。

 そんなことを、少し考えたりした。


「それは理解しています。が、ここでは他人を自由に呼び出すわけにはいきません。王子、どうか我慢なさって下さい」

「……そうですね。わがままは言いません」


 直後。


 わぁぁ、と、客席から大きな声が沸き上がる。


 一瞬何事かと思い焦ったが、事故や災害が発生したではないようで。フィールドを見下ろし、目を凝らすと、出場者が入場してきているのが視認できた。


 武芸大会がようやく始まるようだ。


 出場者が入場してくるなり、会場全体の盛り上がりが一気に高まった。客席も物凄い騒ぎで、建物が崩れてしまわないか不安なくらいである。

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