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あなたの剣になりたい  作者: 四季
5.新たな仲間と、住むところ
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episode.64 今後への思考

 数分後、私たちが案内されたのは食事のための部屋。以前エトーリアと二人で使ったことのある、地味な一室だ。一旦この部屋で待機するよう言われたため、椅子に腰を掛け、ぼんやりしながら、次に声がかかるのを待つ。


「美しい屋敷ですね!」

「そう?」

「はい! 素晴らしい屋敷だと思います。さすがはエアリが紹介して下さった屋敷、という感じです!」


 ここへ来てからというもの、リゴールは妙に上機嫌。後から疲れたりしないだろうか、と、少し心配になるくらいの勢いである。


「この場所、お気に召したのですね」


 さりげなく会話に参加してくるのはデスタン。


「はい!」

「それは良かったです」

「ありがとうございます!」

「……もっと早くここへ移動すべきだったのかもしれませんね」


 デスタンの表情が微かに陰る。また、声も同じように変化する。

 他者の声色の変化など気づきそうにないリゴールだが、目の色を変えた。デスタンが放つ雰囲気の微かな変化に、リゴールは気づいたようだ。


「まさか! そんなことはありませんよ、デスタン」


 リゴールは笑顔を作り、デスタンに話しかける。


「貴方の頑張りがあったからこそ、わたくしもエアリもミセさんの家に泊めてもらえたのです。そして、それがあったからこそ、野宿せずに済みました。ですから、わたくしはデスタンの頑張りにも凄く感謝していますよ」


 華奢な彼の口から出るのは、優しさ。善良な彼を映し出す鏡のような言葉。それらは、ややひねくれ気味なデスタンにさえ、すんなりと染み込んでゆくようで。


「……気遣いは不要です」

「あ。もしかしてデスタン、照れていますか?」


 リゴールが冗談混じりに問う。

 するとデスタンは強く「照れてなどいません!」と返した。


「……直球で礼を述べられると、どのように返すべきか分からず、少し困ってしまう……ただそれだけのことです」

「やはり照れていますね!」

「もう一度申し上げますが、照れてなどいません!」

「デスタン! どう見ても照れていますよ!」


 いや、あの、そんなことで言い合いしなくていいから……。


 そう言いたくなるのを飲み込みつつ、私はそっと口を挟む。


「照れていても照れていなくても、どっちでもいいんじゃない?」


 するとリゴールとデスタンは、唇を閉ざして視線を合わせ、それから数秒して、呆れたように笑みを浮かべ合っていた。


 なんだかんだで仲良しなのだ、彼らは。

 まるで女子同士の親友のようなのだ、二人は。


 そして私は、たまに浮いてしまう!


 ……いや、そこはおいておくとしようか。


「確かに、言われてみればそうですね。まさにエアリの言う通りです」


 苦笑しながら先に発したのはリゴール。


「……無益な言い争い、失礼しました」

「デスタンは悪くありませんよ。わたくしがあまりよろしくないことを言ったのが問題です」


 いつだって傍にいて、時にすれ違い、ぶつかり合うことはあっても、本当に憎しみ合うことはなく。どんなことがあっても、最後はまた笑って顔を見合わせられる。


 私もいつかそんな相手がほしい——少し、そう思った。


「ところで、王子」

「何でしょう?」

「今後はいかがいたしましょう」


 デスタンからいきなり話を振られ、リゴールは首を傾げる。


「ここで暮らしてゆくのではないのですか?」

「そうではありません。私が質問しているのは、ブラックスターの輩への対応です」


 瞬間、リゴールの無垢な瞳が曇った。


「……また現れるでしょうか」


 両の瞳に不安の色を滲ませながら漏らすリゴールに、デスタンは「恐らくは」と告げた。

 デスタン本人に悪意はないということは、重々承知している。が、平淡な言い方ゆえ、私には少し心ない口調に感じられてしまった。


「エアリの話によれば、グラネイトは身を引くということでしたが……ブラックスターに狙われる定めは変わらないのでしょうか……」


 片手を口元へ添えつつ、独り言のように発するリゴール。デスタンは、それに、きっぱりと返す。


「私に未来予知能力はありません。ですから、未来は分かりません」


 リゴールはすぐに言葉を返すことはできずにいた。そのため、室内に沈黙が訪れてしまう。それを気にしてか否かは不明だが、デスタンが続けて言葉を放つ。


「ただ、私は、王子をお護りするためにできることはすべて行っていこうと、そう考えています」


 デスタンは真剣な顔つきだ。


「第一は、必要な時に戦えるよう私自身が強くなること。そして次に」


 そこまで言って一旦言葉を切ると、デスタンは私へ視線を向けてきた。


「剣を持つ彼女が、ある程度まともに戦えるようになること」

「わ、私!?」

「はい。貴女は剣に選ばれた特別な存在、だからこそ、努力することが必要です」


 妙に辛口だ。

 もっとも、間違っていると言う気はないが。


「……そうね。戦えるようになるには、努力が必要だわ」

「自覚があるだけましですね」


 失礼! と内心放ちつつも、敢えて過剰に反応することは避け、滑らかに話が進むよう心がける。


「けど、何から始めればいいのか、さっぱりだわ」

「個人での基礎的な体力作りは必要ですが、剣の技を教えてもらえる場所があれば最良かと」

「剣の技……」


 今デスタンと話していることが私のことであるという実感は、まったくと言っていいくらい湧かない。体力作りだとか、剣の技だとか、よく分からない。


「デスタンさんに習うというのじゃ駄目?」

「できません」

「即答!?」

「私は剣の扱いには長けていませんから、貴女に教えるには相応しくない人間です」


 嫌だから、という理由ではなかったようだ。

 それがせめてもの救い。


「話は戻りますが……第三は、新たな戦力を味方につけるということです」

「新たな戦力とは?」


 笑いたくなるくらい王道の問いを放ったのは、リゴール。


「戦える者、という意味で言いました」

「つまり……戦える味方を増やすということですね?」

「はい」


 デスタンが言うことも、分からないことはない。


 彼一人や素人の私が必死に頑張ったところで、できることは限られている。それに、場合によって敵が大勢ということも考えられるわけだから、二人でリゴールを護ることができるのかと聞かれれば、気軽には頷けまい。


 そういう意味では、戦える味方が増えるというのはありがたいことだ。


 ただ、問題は残る。


 まずは、戦える者をどこで見つけるのか。

 世の中に手練れはそう多くはないはず。ブラックスターの者と渡り合えるような人間を探すのは、楽ではないだろう。


 そして、もし戦える者を見つけたとして、その者をいかにして味方とするのか。


 知り合いの知り合いなどなら比較的スムーズに味方になってくれるかもしれない。だが、赤の他人であったなら、味方になってもらうだけでも一苦労だろう。


「ではデスタン。戦闘能力が高い者を見つけなくてはならない、ということですね?」

「はい」

「それは……貴方が見つけられますか?」


 リゴールの問いに対し、デスタンは、「善処します」と柔らかく答えた。

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