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あなたの剣になりたい  作者: 四季
4.穏やかな日と、再びの旅立ち
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episode.60 黒の裏切り

 デスタンが無事であることを確認させろ、と、リゴールは言った。

 そうすればグラネイトにとやかく言うことはしない、ということも。


「もちろん! グラネイト様は何も嘘はついていない。それゆえ、逃げも隠れもしない。必要がないからだ!」


 グラネイトはすぐにそう返す。

 彼の声は、嘘をついている者のそれとは思えないものだった。


 そこへ、ミセが口を挟む。


「リゴールくんったら、どうしちゃったのかしら? この男性は悪い方なんかじゃないわよ」

「……ミセさん」

「デスタンは疲れたみたいだったから、先にアタシの部屋へ行ってるわ。だって、アタシのデスタンだもの」


 ミセは、少し間を空けて続ける。


「連れていってあげるわ」

「ぐるではないでしょうね……?」


 今リゴールは疑り深くなってしまっているらしく、ミセの言葉さえすんなりと信じることはしなかった。


 グラネイトの嘘への加担を疑われたミセは、目を丸くする。

 そして数秒経ってから、頬に片手を当てて冗談混じりに発した。


「あーら! アタシを疑うなんて失礼ねぇ」

「……すみません」


 静かな声での謝罪に、一瞬室内が静まり返る。


「ま、そんな日もあるわね。じゃあ、早速案内するわぁ」

「ありがとうございます」


 その後、リゴールはミセの後を追って、デスタンに会いに行った。

 部屋を出る直前、彼は私をちらりと見て、とても申し訳なさそうな顔をしていた。



 私はグラネイトと二人きりになる。


 仕留める気満々の彼と二人になったわけではないし、幸い今は手元に剣がある。それゆえ「どうして私を置いていくの!」と叫びたくはならなかった。が、直前まで敵であった者と二人きりになるというのは、やはり不安なものである。


 特に、今のグラネイトは、どういう状態なのかが分からない。


 本当に戦意を失っているのか。あるいは、正面から殴り合う気はないが隙があれば殺るつもりなのか。それとも、戦意がないように振る舞っているのは完全に嘘なのか。


 分からないから、不安は消えない。



 ——そんな私に彼が声をかけてきたのは、突然だった。


「少しいいか?」


 身長では豪快に負けている。戦闘能力でも大敗している。

 そんな敵からこんなにも近くで声をかけられると、一瞬にして全身の筋肉が強張った。しかも、冷や汗まで溢れてくる。


「な……何なの」

「トランのことは知っているのだな?」

「え」


 想定していなかった問い。

 私は戸惑い、すぐには言葉を返せない。


「知っているのか知らないのか、どっちだ!」

「し、知ってるわ!」


 急に調子を強められ、うなじから背中にかけて寒気が走る。

 だが、すぐに「この程度で怯んでいてはいけない」と自分へ言い聞かせ、何とか言葉を返すことができた。


「少年みたいな外見の人でしょ」

「……そうか。知っているのだな」


 なぜか溜め息をつくグラネイト。

 その様子は、まるで、この世界のどこにでもいる普通の男性のよう。


「えぇ」

「なら、やつの卑怯さも知っているのだな?」

「そうね。デスタンを誘拐したり、操ってリゴールに危害を加えさせたり、最低最悪だったわ」


 敵との会話で緊張していたはずだったのに、一度口を開くと、言葉はするすると出た。詰まり詰まりになるでもなく、非常に小さな声になるでもなく、敵に擦り寄るようなことばかりを発するでもなく。


「おかげであの後気まずくなって、誤解が発生して、元に戻るまでにもだいぶ時間がかかったわ」


 そこまで言った時、突如、脳内に焦りが生まれる。

 というのも、「言い過ぎているのでは!?」と思ったのだ。


 私は、自然な感じで色々文句を言っていたが、聞いている相手はグラネイト。ブラックスターの人間。つまり、トランと同じ陣営の人間だ。


 そんな者に向かってトランに関する愚痴を言い続けるというのは、かなりまずいのではないだろうか。


 まず、私の愚痴がトラン本人へ伝わってしまうという可能性がある。また、仲間のことを悪く言われて良い気がする者などいないだろうから、グラネイト自身も嫌な気持ちになっているかもしれない。


「あ……ごめんなさい。つい……」


 ひとまずそう述べておく。

 愚痴を言い続けるよりかはましだろうと思ったから。


 謝罪に対し、グラネイトは、けろっと返してくる。


「なぜ謝る?」

「え、っと……仲間のことを悪く言うなんて問題だったと思ったからよ」

「ふはは! なら心配はない!」

「え」


 グラネイトはいきなり笑い出す。

 まったく、何がおかしいのやら。


「心配はない、と言っている。なぜか? 理由は簡単」

「理由……」

「このグラネイト様も悪口を言う気でいたからだッ!!」


 彼は、まるで決め台詞であるかのような、勢いのある声で放った。それに加え、「決まった!」というような自信に満ちた目で、こちらを見てくる。その様は「見ろ! かっこいい自分を!」とでも叫んでいるかのよう。


 今のグラネイトは、端から見れば完全に痛い人である。


「トラン! やつは最低最悪の男だ!」

「そ、そう……」


 トランが最低最悪ということ自体は頷ける。しかし、同じ陣営のグラネイトがトランのことを批判しているのを聞くと、複雑な心境にならずにはいられなかった。


 そもそも、それでいいのか。

 そんな関係で問題ないのか。


「貴方がトランをそこまで悪く評価しているとは思わなかったわ」

「あぁ、もちろん! グラネイト様とて、ついさっきまでは、やつがこれほど最低な男だとは思っていなかった!」


 ……ついさっきまで?


 言い方が妙に引っ掛かる。


「もしかして、彼と何かあったの?」


 思いきって直球で尋ねてみた。


「そうだ! やつはこのグラネイト様に嘘をつきやがった!」


 私の問いに、グラネイトは獣が唸るように叫んだ。


「嘘って?」

「王子を殺せば、その対価としてこのグラネイト様の願いを叶えると、やつはそう言った。だが! それは嘘だったのだ!」


 グラネイトは今にも暴れだしそうな声色で事情を説明し始める。


「やつの真の狙いは、失敗続きのグラネイト様を闇へ葬ることだったのだ!」


 自分で自分を「失敗続き」などと言って、恥ずかしくはないのだろうか。ぼんやりとそんなことを考えてしまった。


「彼は貴方のことも攻撃したの?」

「そうだ。やつは黒い矢で、デスタン諸共俺を殺そうとした。グラネイト様はやつに騙された! くそぉ!」


 グラネイトは強く握った拳を震わせている。

 込み上げる感情を抑えようとしてはいるが抑えきれない、といったところか。

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