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あなたの剣になりたい  作者: 四季
3.卑怯な策と、すれ違い
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episode.54 素っ気ない

 あれ以降、デスタンが素っ気ない。


 いや、彼が私に冷たいというのは、今に始まったことではない。それは前から。だから、今さら驚くようなことではない。


 ただ、最近の彼がおかしいところは、リゴールにも素っ気ないところである。


 しかも、一日二日ならまだしも、既に一週間が過ぎているというのにその状態が継続しているのだ。どう考えても、おかしいとしか思えない。


 これまでのデスタンは、リゴールを大切に思っているようなことを言っていたし、それに相応しい行動をとっていた。家にいる間は、リゴールの傍にいることも多かった。


 しかし彼は、あれ以来変わってしまった。

 私だけでなくリゴールにまで素っ気ないし、ミセといちゃつく会にも参加していないようだし。



 そんなある昼下がり、ミセの家の廊下で浮かない顔のデスタンと遭遇した。


「デスタンさん!」


 私は声をかけた。

 この機会にどうなっているのか聞こうと思って。


「……何か」

「今、少し構わないかしら」

「……どうかしましたか」


 冷ややかなデスタンの瞳に見つめられると、うなじが粟立つ。何でもない、とだけ言って速やかに別れたいような感覚に襲われた。


 それでも、私は話を続ける。


「どうしてリゴールに素っ気なくするの」


 リゴールは、デスタンが自分に素っ気ない態度をとられることを、凄く気にしていた。それも「自分がデスタンを傷つけてしまったのかもしれない」というような心配の仕方だった。


 自分に罪があるかのように思って心配しているリゴールなんて、気の毒で見ていられない。


「私やミセさんに素っ気ないのはまだ分かるわ。けど、リゴールにまで素っ気ない態度をとる必要なんて、欠片もないじゃない」


 デスタンは足を止め、私の鼻辺りを凝視している。


「リゴールは自分を責めているの。自分がデスタンを傷つけてしまったのかもしれない、って。もうこれ以上彼を不安にさせないで」

「……はぁ」


 面倒臭そうな顔をされてしまった。

 本来なら苛立つところだが、今は、呑気に小さなことで苛立っている場合ではない。


 私はさらに問いを放つ。


「リゴールに素っ気なくする理由は何?」


 デスタンはすぐには答えなかった。が、十秒ほど経過した後、静かに口を開いた。


「……迷惑をかけたくないので」


 想定外の答えに戸惑う。


「え……それはどういう……」

「言っても分からないでしょう、貴女には」

「な、何よ! その言い方!」


 失礼な発言にカチンときて、つい調子を強めてしまう。だが今日は「こんなことに腹を立てている場合じゃない」と気づき、何とか冷静さを取り戻すことができた。


「……ま、それはともかく。これ以上リゴールを心配させたら、許さないわ。たとえどんな理由があったとしてもね」


 私がそう言った直後、デスタンは突然、ふっと笑みをこぼした。

 なぜ笑うのか分からず、戸惑う。


「な……どうして笑うのよ。私を馬鹿にしているの?」

「まさか」

「だったら何なの?」


 問うと、デスタンは微笑んだ。


「王子も安心ですね……貴女のような人が傍にいれば」


 その微笑みは、彼がいつもミセに向けていたような、作り物の微笑みではなく。もっと自然で柔らかく、素朴なものだった。


 ——だが、どこか寂しげだ。


 それに、今の彼の微笑みは、ある日突然消えてしまいそうな儚さを、確かに含んでいる。


「え……いきなりどうしたのよ、デスタンさん。貴方はそういう性格じゃないわよね。もしかして……まだ操られてる?」


 すると彼はきっぱり「それはありません」と返してきた。


 それでこそデスタン。

 その冷ややかではっきりした言動が、彼らしさ。


 急に微笑んだりされたら、逆に不安になってしまう。


「……では。そろそろ失礼します」

「待って!」


 再び歩き出そうとしたデスタンの手首を、私は、半ば無意識のうちに掴んでいた。考えるより先に体が動いていたのである。


「リゴールのところへ行きましょ!」

「……は?」


 素で返されてしまった。

 もう少し気を遣ってくれてもいいのに、などと内心愚痴を漏らしつつも、平静を保って述べる。


「リゴールに、なぜ素っ気なくしていたのか、きちんと話してあげてほしいの」

「……なぜ貴女に命令されなくてはいけないのか、理解できません」

「命令しているわけじゃないわ。ただ、リゴールのことを思って頼んでいるの」

「……王子の頼みならともかく、貴女の頼みに応じる気は微塵もありません」


 どうしてそんなに頑ななの!


 少し苛立った私は、掴んでいたデスタンの手を引っ張る。


「なっ……」

「いいから、来て!」


 リゴールに素っ気なくしていたのが、幻滅しただとか、付き合いきれなくなったとか、そういう理由でないのなら、会うことに問題はないはずだ。



 私はデスタンを、引きずるようにしながら、リゴールがいる部屋——私とリゴールの自室まで、何とか連れていった。


 扉を開け、私が先に部屋に入る。

 すると、ベッドの上で座っていたリゴールが、すぐに視線をこちらへ向けた。


「エアリ……!」

「ただいま、リゴール」


 リゴールの瞳は輝いている。


「デスタンさんを連れてきたわ」

「えっ……」


 それまでの嬉しそうな表情から一変、顔面を曇らせるリゴール。さらに、私の後ろからデスタンが現れたのを見て、リゴールは気まずそうな顔をする。が、そんなことは気にせず、デスタンをリゴールの近くまで連れていく。


「デスタン……来て下さったのですか」


 先に口を開いたのは、物凄く気まずそうな顔をしているリゴールの方。


「連れてこられたのです」

「……そ、そうですよね。すみません」


 リゴールは小動物のように身を縮めた。この場にいることが辛い、とでも言いたげな顔をしている。


 そして訪れる静寂。


 次にそれを破ったのは、デスタンだった。


「王子。正直に答えていただきたいのですが」


 デスタンがいきなり自ら話し出したものだから、リゴールは驚きと戸惑いが混じったような表情になる。


「は、はい……」

「貴方は今でも、私を必要としていますか」

「え……。なぜそのようなことを?」

「答えて下さい」


 淡々と言われたリゴールは、顔色を窺うようにデスタンを見ながら、小さく答える。


「それは……もちろん、です」

「気を遣うことはありません。本当のことを答えて下さい」

「わ、わたくしは嘘はつきません!」


 リゴールは調子を強める。


「わたくしには貴方が必要! それに嘘偽りはありません!」


 しかし、デスタンは固い顔つきのまま。


「私は貴方を傷つけました。それでも貴方は、私を信頼するのですか」

「何を聞いているのですか? 攻撃したのはデスタンの意思ではない……にもかかわらず、わたくしが貴方を責めるとお思いで?」


 問いに問いが被さり、表現しづらい空気が漂う。

 直後、リゴールは何か閃いたような顔をする。


「もしかして。デスタンがここのところあまり接して下さらなかったのは、それを気にしていたからなのですか?」

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