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あなたの剣になりたい  作者: 四季
1.巡り会いと、村での暮らし
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episode.4 光舞う魔法

 リゴールがこの世界の人間でなかったという事実を、私は、まだ完全には信じられていない。

 だが、彼の話を信じられないのは、私が疑り深い性格だからではないはずだ。こんなことを言われてすんなり信じられる人なんて、世の中を見渡しても、そう多くはないだろう。


「じゃあリゴールは……ホワイトスターという世界から来たのね」


 リゴールは頷き、「地上界から遠く離れたところにある世界です」と付け加える。その表情は、とても穏やかだ。


「ということは、帰るのに結構かかりそうね。その足で大丈夫?」


 軽い口調で尋ねる。

 すると、リゴールの表情が曇った。


「え……。私、何か悪いこと言った?」


 悪気なんて欠片もなかった。それはまぎれもない事実。胸を張って言える。が、悪気ないから何でも言って良いということでもないだろう。私の発言で彼が不快な思いをしたのだとしたら、それは問題だ。


「気にさわったなら謝るわ」

「……い、いえ」

「ごめんなさい」

「いえっ……そんな、わたくしのことは気になさらないで下さい」


 リゴールは笑う。


 でもそれが偽りの笑みだと、私には分かった。

 眉が困り顔の時のような形になっていたから。


「それよりエアリ!」


 リゴールは唐突に話を変えてきた。

 さらに、ベッドから立ち上がる。一、二、三、四、と足を進め、くるりと体をこちらへ向けた。


「せっかくの機会ですから、ここは一つ、興味深いものでもお見せしましょう!」

「興味深いもの?」

「はい! 少しお待ち下さい」


 そう言って、胸元辺りから一冊の本を取り出す。閉じていれば片手の手のひらに収まるくらいの小さな本で、しかし立派なハードカバーがついている。


「宙を見ていて下さいね」

「えぇ」


 私は頷く。

 リゴールは、本を開いた。


「では参ります」


 そう言ってから、リゴールは宙に手をかざす。

 すると、驚いたことに、何もない空間に光が現れた。


 光、という表現が正しいのか分からない。どちらかというと、光でできた塊、という表現の方が正確かもしれないが。


 とにかく、それが宙に浮かび、しかも動いているのだ。


「え、えぇっ!?」


 思わず大声を出してしまった。


「わたくしが使える魔法のうちの一つです」


 リゴールは自慢げに述べる。


 目の前で行われている行為を、私は、信じられない思いで見つめた。

 光が塊となり、宙に浮き、自在に動く。そんな怪奇現象を、人が意図的に起こしている。


 ……とても信じられない。


「貴方は本当に魔法を使えるの?」

「はい。いくつかだけではありますが」

「いくつか……そんなの、一つだけでも十分凄いわ」


 驚いているのもあり、気の利いたことは言えなかった。


「いえ。ホワイトスターの民なら、多くが魔法を使えます」


 凄くなんてない、とでも言いたげだ。


「凄いわよ! 信じられない、けど……面白いっ!」

「そう言っていただければ嬉しいです」

「他には何かないの!?」


 いくつか、と言っていたことから考えると、リゴールが使える魔法は他にもあるのだろう。今見せてくれたものだけではないはずだ。


 もしあるなら、他のものも見てみたい!


「まさか、興味を持って下さっているのですか?」

「えぇ! 他のも見せて!」

「分かりました。では——」


 リゴールは、言いかけて、口を止めた。


 唐突に訪れる静寂。

 私は戸惑いを隠せない。


「どうしたの?」


 その時。


 一つだけ存在している小さな窓の、ガラスが砕け散った。



 破裂音。煙の匂い。爆風。

 理解不能の現象に襲われ、気がついた時には扉の近くに倒れ込んでいた。


 何がどうなってこの体勢になったのか、記憶はない。


 幸い怪我はないようで、体は動く。なので私は、上半身をゆっくりと上げる。すると、リゴールが覗き込んでいるのが見えた。


「ご無事で!?」


 灰色の煙が揺らぐ中、リゴールの青い瞳だけが視界に映る。


「えぇ。でもリゴール、これは何が……」

「敵襲です」

「え! ちょ、ま、またっ!?」


 そんなまさか。

 急すぎて頭がついていかない。


「……申し訳ありません。またしてもご迷惑を」

「いいのよ。迷惑なんかじゃない——は変かもしれないけれど、貴方に罪があるわけではないわ」


 一部とはいえ、家を破壊されたのだ。私は絶対怒られる。後から父親に呼び出され、長い説教をされることになるだろう。


 それは嫌だ。


 でも、今はそんなことを言っている場合ではない。

 今一番大切なのは、生き残ること。つまり、殺られないようにすることだ。


「エアリのことはお護りしますから……」


 リゴールは立ち上がる。

 そして、先ほど見せてくれた手のひらに収まるくらいの小さな本を、さっと開く。


「どうか、憎まないで下さい」


 ーーやがて煙が晴れる。


 するとそこには、一人の男性が立っていた。

 非常に背の高い男性で、手脚は長く、ワイン色の燕尾服を着ている。肌は異様に白く、白どころかやや灰色がかって見えるような色。


「ふはは! 見つけたぞ、王子!」


 ……王子?


 男性は確かに、リゴールを「王子」と呼んだ。それがどういった意味なのかは、私には分からないが。


「何をしに来たのです」

「馬鹿なことを。お前ならば、分かっているだろう」

「貴方の狙いはわたくしでしょう! 無関係な者を巻き込むなど、あり得ないことです!」


 リゴールは鋭く言い放つ。


 見るからに不気味で、しかも自分よりずっと大きい男性に向かって、怯むことなく物を言えるなんて、尊敬に値することだ。


 少なくとも、私にはできない。


「ふはは! 何を言おうが無駄無駄! 我が心は変わらぬ!」


 男性は笑いつつ述べる。

 いちいち声が大きい。


「心が変わらないのは勝手。しかし! 無関係な者の家を破壊するというのは問題です!」


 リゴールも負けじと言い放つ。


「後から請求が来ますよ!」


 すると、男性はきょとんとした顔になる。


「なに……? まさか、ここはお前の家ではないのか?」


 もしかして、男性はこの家をリゴールの家だと思っていたのだろうか。それで、遠慮なく壊したというのか。


 だとしたら、迷惑極まりない。


「だ、だが! ならどうしてお前がいる!」


 男性は少しばかり動揺しているようで、頬を汗の粒が伝っていた。


「一夜の宿を恵んでいただいただけのことです」

「んなっ……!?」

「去りなさい! さもなくば、容赦はしません!」


 そう告げるリゴールは、ただの少年とは思えない凛々しさを放っている。目つき、表情、声色——そのすべてが、力強い。


「くっ……まぁいい。請求は困るので出直すとしよう。ふはは!」


 男性は笑い声をあげながら、一瞬にして姿を消した。


 一体何だったの……。

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