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あなたの剣になりたい  作者: 四季
2.高台の家と、母との再会
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episode.38 歪な二人、花咲く二人

 次の日の夜、入浴を済ませて自室に帰るべく歩いていると、デスタンと彼を引っ張るミセが正面からやって来た。


 ミセは両腕をデスタンの片腕に絡め、胸元を彼にぴたりと密着させている。こんな歩き方をして、恥ずかしくないのだろうか。


 ……いや、彼女は平気なのだろう。


 平気でないのだとしたら、こんな絡み方はしないはずだ。それに、そんな状態で堂々と歩くなんてことは、絶対にしないだろう。つまり、絡みつくような体勢のまま歩くことができているという時点で、平気だということが証明されている。


「あーら、エアリ!」


 どう反応すれば良いのか分からず戸惑っていたところ、ミセが自ら声をかけてきた。


「あ、ミセさん」

「お風呂帰りかしらー?」

「はい」

「お疲れ様ー」


 ミセはご機嫌なようで、軽やかな口調だ。


「ミセさんはデスタンさんとご一緒なのですね」

「えぇそうよ!」


 物凄く親しい、という雰囲気をアピールしようとしているかのような振る舞いをする、ミセ。しかしデスタンは、それとは対照的に、真顔である。


 二人の顔を見ていれば、まともな関係が成り立っていないことは、一目瞭然。


 だが、ミセがデスタンを見上げて「ね? デスタン」と言った瞬間、デスタンはその面に穏やかな笑みを浮かべた。そして、柔らかな声で「はい」と返す。


 デスタンはこんな人ではない。

 私はそれを、嫌というほど知っている。


 だから、デスタンの偽りの仮面に騙されうっとりしているミセを見ていると、複雑な心境になってしまう。


「では失礼します」


 私が軽く頭を下げると。


「はぁーい。また明日ねー」


 ミセは可愛らしく返してきた。

 デスタンがいるからか、私にも、ぶりっこモードが適用されているようだ。珍しい。


 そうして私は、二人とすれ違い、リゴールが待つ部屋へと向かった。



「ただいま」


 驚かせないようにそう言ってから、扉を開ける。

 すると、ベッドに寝転がっていたリゴールが、視線をこちらへ向けてきた。


「終わられましたか!」


 リゴールの表情は明るい。それに、生き生きしている。昨日から今日にかけてゆっくりと休んだからか、今までよりずっと元気そうだ。


「えぇ。リゴールは入るの?」

「あ、はい」


 ベッドから起き上がるリゴール。


「昨夜は入れなかったので、今日は入りたいのです」

「一人で行ける? ついていこうか?」

「あ、いえ。問題ありません」


 リゴールはベッドから立ち上がると、素早く風呂の準備をして部屋から出ていった。


 彼が出ていってから、私はベッドに腰掛ける。


 そして、一人思う。

 大事なくて良かった、と。


 リゴールの話によれば、私がエトーリアと共にミセの家を出た後、グラネイトがやって来たらしい。そして、一対一の戦いを申し込まれたということだった。そうしてリゴールはグラネイトと交戦することになり、結果、負傷と魔法の使い過ぎで倒れることとなったのだ。


 今回はデスタンが早めに発見したから良かった。

 だが、もし彼が気づかなかったら、もっと大事になってしまっていたことだろう。


「良かった……本当に」


 誰もいない静寂の中、呟く。

 その言葉に偽りはない。


 だが、それですべてが終わったわけではない。


 リゴールが「グラネイトを倒した」とは言わなかったことから察するに、彼はまだ生きているのだろう。だとしたら、きっと、彼はまた私たちを狙いにやって来る。


 退ける方法を考えなくてはならない。


「……そうだ」


 ふと、胸元のペンダントに視線が落ちた。


「これが使えたら……」


 このペンダントを剣に変えられたなら、私も力になれるはず。素人であることに変わりはないが、それでも、少しは戦えるだろう。


 ——そんなことをぐるぐる考えているうちに、リゴールが帰ってきた。


「戻って参りました」

「リゴール! 早かったわね」

「そうでしょうか?」

「だって、さっき出ていったばかりじゃない」


 すると、リゴールは首を傾げた。


「え、そうですか……?」

「そんな気がしただけかしら」

「きっとそうですよ!」


 リゴールが言うなら、そうなのかもしれない。

 色々考え事をしていたから気がついていなかったが、意外と時が経っていたのだろうか。


「貴方が言うなら、きっとそうね」

「はい……!」

「ごめんなさい、おかしなことを言って」

「いえいえ! お気になさらず!」


 リゴールは首を左右に振り、軽やかな足取りでベッドへ近づいてくる。そして、私のすぐ隣に座った。


「昨日は、心配お掛けして、すみませんでした」

「え?」

「それに、デスタンがあのような失礼なことを……」


 すっかり元気になっているリゴールだが、どうやら、昨日のことを少し気にしているようだ。


「ただ、デスタンは悪人ではないのです。本当は優しく頼りになる人なのです。ですからどうか、嫌いにならないで下さい……」


 そこから流れるように、リゴールは、デスタンの良いところを話し出す。


「デスタンは優しいのですよ。いつもわたくしのことを心配してくれていますし、わたくしが怪我した時や体調不良の時にはずっと傍にいてくれます。また、敵に襲われた時には、自身の身を顧みることなく戦って、わたくしのことを護ってくれるのです」


 リゴールは、穏やかな表情でこちらを見つめながら、流れるように話す。


「それに、悩んでいる時には相談させてくれます。時には辛辣な意見を言ってくることもあるにはありますが……でも、それは優しさゆえなのです。根は優しい人だからこそ、本心からの言葉を言ってくれるのです」


 彼が滑らかに話すのを聞いていたら、「そうなのかもしれない」と思えるようになってきた。


「……分かるわ、リゴール」

「本当ですか!?」

「えぇ。デスタンさんは、根は善い人なのよね」


 根っからの悪人ではない、ということは、私も知っている。


 デスタンは、ほぼ初対面だった私にまで、住むところを提供してくれた。それに、ウェスタに襲撃された時も、助けに入ってくれた。


 そんな人が根っからの悪人ということは、まずないだろう。


「私は彼の多くを知っているわけではない。でも、分かるわ」

「分かっていただけますか!」


 リゴールの顔面に花が咲く。


「当然よ。分からないわけがないわ」

「良かったです……!」


 そう言って、リゴールは胸を撫で下ろす。


「デスタンは、嫌いな者にはすぐ余計なことを言うので、非常に誤解されやすいのです。ホワイトスターにいた頃も、口の悪さによって、いろんな人から嫌われていました」


 それは、さらっと明かして良いことなのだろうか……?


「ですから、エアリにも嫌われてしまったら大変だと思い、不安だったのです」

「大丈夫よ、そんなの」

「……杞憂で良かったです」

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