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あなたの剣になりたい  作者: 四季
2.高台の家と、母との再会
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episode.30 無益な戦い

 ——同時刻、ミセの家。


 リゴールは一人の男と対峙していた。


「ふはは! 今日こそは決着をつけさせてもらうぞ、王子!」

「……今日は窓を割らなかったのですね」


 一人の男というのは、グラネイト。

 現在の自室、エアリと共用の部屋で一人のんびりしていた時、グラネイトがいきなり窓から入ってきたのだった。


「そうだ。というのも、今日はいつもと違い、誘いに来たからな」

「……誘いに?」


 怪訝な顔をするリゴール。


「そう! では早速。一対一の戦いをしようではないか!」

「お断りします」

「な、なにィ!?」


 一対一の戦いを所望したものの即座に拒否されたグラネイトは、顎が外れかけるほど口を大きく開ける。


「このグラネイト様の提案を拒否するだと!?」


 グラネイトの灰色の肌が、怒りのせいか徐々に赤く染まっていく。


「……わたくしは、無益な戦いはなるべく避けたいのです」

「無益だと? 馬鹿か! 無益などではない! これは、我がブラックスターとホワイトスター、どちらの血が優秀かの戦いだ!!」


 グラネイトは、戦闘を避けようと消極的な態度を取るリゴールに腹を立てているらしく、荒々しく言葉を発する。


「ですから……そのような争いは無益なのです」

「何だと!?」

「どちらの血が優秀かなんて、傷つけあってまで決めることではないでしょう……!」


 リゴールは怯まず主張する。しかし、グラネイトはリゴールの主張を受け入れない。否、そもそも聞こうとさえしていなかった。


「あぁ!? いつもの威勢の良さはどうしたんだ!?」


 グラネイトは脅すような低い声で挑発的な言葉を発しながら、一歩、一歩と、リゴールに迫る。


「今日は妙に弱気じゃないか!」


 リゴールは挑発に乗ることはせず、眉をひそめて少しずつ後退する。


「……わたくしは本来、気の強い人間ではありません」

「なら、いつも偉そうな口利きやがるのは何なんだ!」


 グラネイトは苛立ちを爆発させるように叫ぶ。

 リゴールは落ち着いた声で返す。


「エアリを不安にしたくないからです」


 そしてリゴールは、上衣の内ポケットから本を取り出す。


「それ以外の理由などありません」


 リゴールが本を取り出したのを見て、グラネイトは口角をくいと上げた。


「ふはは! ようやくやる気になったか!」

「……いえ。無益な戦いは望まない、わたくしの思いに変わりはありません。それでも……貴方は戦いを望むのですか」


 暫し、沈黙。


 リゴールとグラネイト、二人だけしかいない空間は、痛いほど静かな空間と化している。


 ——そんな中、先に口を開いたのはグラネイトだった。


「そうだ。このグラネイト様はもちろん、ブラックスターに生きるすべてが、戦いを望んでいる」


 リゴールは戦いたいとは思っていない。もし戦わずに済む道があるなら、間違いなく、その道を行ったことだろう。


 だが、戦いを避けられる道はない。

 彼はそれに気がついていた。


 だから、望まないものの武器を取り出したのだ。


「戦うしかないと言うのですね……分かりました」


 リゴールは改めて、グラネイトを見据える。


「そうだ。だがここは狭い。場所を変えよう」

「場所を?」

「外でならお互い全力で戦える。その方が良いだろう」


 グラネイトの提案に、リゴールは戸惑いつつも頷いた。

 そして二人は場所を移す。



 ミセの家から歩いて五分もかからないところにある、高台の中でも一段高くなっているところ。

 草が生えていない、土が剥き出しになった地面。

 遮る物がないせいで乾いた風が吹き荒れている。


 普通の人なら、よほど重要な用がない限り決して行くことのないような、そんな場所だ。


 リゴールはそこで、本を片手にグラネイトと対峙している。


「ふはは! ここでなら存分にやり合える! 今日こそ、このグラネイト様が、お前を殺る!!」


 グラネイトは長い腕を伸ばし、正面に立つリゴールを指差す。


「……風が寒いので、早く帰りたいのですが」


 吹き荒れる強風に黄色い髪を揺らしつつ愚痴を言うリゴール。その少年のような顔には、不快の色が濃く滲んでいる。


「余裕をかましやがって……」

「寒いところは嫌いです!」

「文句は、このグラネイト様を倒してから言えばいい……」


 グラネイトは片手を横に伸ばす。すると、彼の体を囲むように、火球のようなものが並んだ。


「いくぞ!」


 叫ぶグラネイト。

 火球のようなものが、リゴールに向かって飛ぶ。


 リゴールは右手に軽く持っていた本を素早く開く。

 そして、左手から溢れさせた黄金の光で膜を作り、火球のようなものを防ぐ。


 黄金の光の膜にぶつかった火球のようなものは、その場で小爆発を起こして消えた。


 辺りに煙が立ち込める。

 グラネイトはその煙へと突っ込んでいく。


「せやぁっ!」


 煙の中で接近し、長い足で回し蹴りを繰り出すのはグラネイト。対するリゴールは、咄嗟に後ろへ跳び、回し蹴りを回避する。


 ——しかし、そこへ、もう一方の足での蹴り。


「……っ」


 リゴールは左腕で蹴りを受け流す。そしてそのまま片足を突き出し、グラネイトを蹴り飛ばす。


「なにっ!?」


 反撃を想定していなかったらしく、グラネイトはバランスを崩す。


「……参ります!」


 バランスを崩したタイミングを狙い、リゴールは黄金の光を放つ。


「ぐぅっ」


 脇腹に黄金の光を食らったグラネイトは、短く詰まるような声を漏らし、よろけながら数歩下がる。

 魔法による攻撃を食らい動きを止めたグラネイトに向かって、リゴールの魔法がさらに放たれる。


「ぐっ!」


 グラネイトは両手を胸の前で交差させ、黄金の光を防ぐ。

 だが、防いだからといってダメージがないわけではないようで、眉間にしわを寄せている。


「……やるな、王子」

「気が済んだなら去って下さい。無益な争いは望みません」


 リゴールは静かな声でそう告げる。


「もう止めましょう、こんなこと」


 だが、リゴールの言葉がグラネイトに火をつけた。


「馬鹿にしやがって……ふざけるなぁぁぁ!」


 草一つ生えない大地を蹴り、グラネイトはリゴールに向かって駆けてゆく。


「……まだ続けるのですね」

「当然だろう! どちらかが絶命するまで、戦いは終わらない!!」


 襲い来るグラネイトを捉えるリゴールの瞳には、悲しげな色が滲んでいた。

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