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あなたの剣になりたい  作者: 四季
2.高台の家と、母との再会
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episode.27 母親との再会は唐突に

 リゴールとデスタンの始まりを聞いた日から三日ほどが経過した、ある朝。

 起きて間もない私を、ミセが呼びに来た。


「エアリ! お客様よ!」


 三十分ほど前に起きたばかりだから、寝巻きのままだし髪も整えていない。にもかかわらず、部屋の外へ出なくてはならなくなってしまった。


「お客様、ですか? 私に……?」

「そうよ! 早く来てちょうだい!」

「え、でも……」

「貴女の母を名乗っているのよ! いいから、早く来て!」


 身支度くらいさせてほしいのだが、ミセは聞いてくれそうにない。仕方がないから、私は、このままの状態で部屋を出ることにした。



 玄関を出てすぐのところに立っていたのは、私の母親——エトーリアだった。


 絹のように滑らかな長い金髪。サイドは長く伸びているが、後頭部側は華やかに結ばれている。また、肌は艶やかで、十代終わりの娘を持つ女性とは思えない。


 私にはまったく似ていない、美しい容姿をしている。


「……母さん」


 変わらない女神のような容姿を目にし、思わず漏らす。


「無事だったのね、エアリ!」

「どうしてここにいると……分かったの」


 すると、母親は抱き締めてきた。


「聞いたわ、屋敷が火事になったんですって? ……災難だったわね、エアリ。でももう大丈夫よ。エアリはわたしが護るわ。これまではあまり会えなかったけれど……これからは共に過ごしましょう」


 母親、エトーリア。

 彼女は仕事があるらしく、あまり家にいなかった。だから、今までずっと、たくさん話すことはできなくて。


 ——でも、その胸の温かさは失われていなかった。


 エトーリアは私を抱き締め終えると、ミセの方を向いて、すっと頭を下げる。


「うちの娘がお世話になりました」


 いきなり礼儀正しく礼を言われたミセは、きょとんとした顔をしながら「い、いえいえー」と返した。ミセは戸惑っているようだった。


「さぁエアリ、帰りましょう」

「待って母さん! 勝手に話を進めないで!」


 私を連れて帰る気満々の母親に向かって、私は言い放つ。


「一人でお世話になっているわけじゃないの。だから、勝手に帰るなんてできない」


 今度はエトーリアがきょとんとした顔をする番だった。


「一緒にお世話になっている人がいるの。それに、私たちをここへ泊まらせてくれた人もいる。だから、勝手に帰るわけにはいかないわ。彼らにきちんと話さなくちゃ駄目なの」


 リゴールにもデスタンにも、恩がある。

 だから、自分一人だけ勝手に脱出するようなこと、できるわけがない。


「そうなの?」

「えぇ。分かってくれた? 母さん」


 するとエトーリアは、穏やかな目をして、一度ゆっくりと頷いた。


「分かったわ。じゃあわたしは、エアリが準備できるまで待っているわね」

「……ありがとう、母さん」



 それから一旦自室へ戻り、リゴールに事情を話した。すると彼は「エアリのお母様になら、一度お会いしてみたい」と言った。私にはその意味がよく分からず、少々戸惑ってしまってしまったけれど、せっかくなので紹介することにした。それを聞いたミセは、気を利かせて、そのための部屋を用意してくれて。おかげで、三人で顔を合わせられることとなった。



 私が部屋へ入っていった時、エトーリアは既に、その部屋の中にいた。

 狭い部屋の中にある一つの丸いテーブル。それを取り囲むように置かれた幾つかの椅子の一つに、静かに座っていたのだ。


「お待たせ、母さん」


 私が先に部屋へ入る。

 するとエトーリアは、こちらを向いて、柔らかく微笑んだ。


「これは一体どういうことなの? エアリ。三人で、なんて、聞いていなかったわ」

「そうなの。そんなつもりはなくて……でも、彼が会ってみたいって言うから」


 すると、エトーリアは微笑む。


「……そう。分かったわ」


 三人にするべきではなかったかもしれない——そう不安になったりしたが、エトーリアが微笑んでくれたから、少しは心が軽くなった。


 ちょうどそのタイミングで、扉がほんの少し開く。

 細い隙間から、リゴールが覗いてきた。


「あ、あのー……」


 遠慮がちに声をかけてくるリゴール。

 私は彼をすぐに招き入れようとしたのだけれど——それより先に、エトーリアが発した。


「リゴール王子っ……!?」


 凄まじい勢いで、椅子から立ち上がる。

 無関係であるはずの母親がリゴールの名を呼んだことに、私は驚きを隠せない。


「え。ちょ……母さん?」

「……あ。ごめんなさい、人違いだわ」


 いや、人違いではないだろう。数多の名前の中から正しい名前を当てたのだから、それは人違いなどではない。見た目と名前のどちらもがまったく同じな者が二人もいるなんてことは、考えられないから。


「母さん……リゴールを知っているの?」


 改めて問うと、彼女は首を横に振った。


「……いいえ、彼ではないわね。彼なはずがない。人違いだわ。まだ故郷にいた頃……彼によく似た知り合いがいただけよ」

「故郷……?」

「えぇ。でも、もう昔のことよ。忘れてちょうだい」


 気になる点はいくつかある。だが、「忘れて」と言っている者に質問を続けるというのも問題だろうから、それ以上は質問しないでおいた。


「じゃあ! 改めて紹介するわ!」


 気を取り直して。


「彼はリゴール。あの火事の少し前に、森で出会ったの。出身は……」


 ホワイトスター。


 そう明かしてしまって良いのか分からず、リゴールを一瞥する。

 すると、彼は続けた。


「遠いところから参りました」


 そう言って、リゴールはエトーリアに笑いかける。


「エアリのお母様であると、お聞きしております」

「リゴールお……違ったわね。リゴールくん、エアリと一緒にいてくれてありがとう」


 リゴールくん、て。


 ……いや、べつに間違ってはいないのだが。


 しかし「くん」付けとは妙な感じがして仕方がない。


「わたしはエトーリア。よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 頭を下げるリゴール。

 穏やかに微笑む私の母親——エトーリア。


 不思議な構図だ。


「リゴールくんがエアリを村の外へ避難させてくれたの? ありがとう。おかげで、エアリが無事で済んだわ」


 感謝の言葉を述べられたリゴールは、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「い、いえ……勝手に彼女まで避難させてしまって、すみませんでした」

「許すわ。だって、おかげでエアリは無事だったんだもの」


 勝手な行動をしてしまったことを怒られなくて良かった。

 今、私の心は、その思いで満ちている。

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