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あなたの剣になりたい  作者: 四季
14.降りゆく幕と、明るい未来
203/206

episode.202 報告を

 ウェスタはグラネイトに会うため、彼のもとへと向かった。


 部屋には、私とリゴール、そしてデスタンが残る。


 懐かしい三人だ。こうしていると思い出す。ここへ来る前、三人でミセに世話になっていた頃を。


 あの頃は不安でいっぱいだった。

 これからどうなっていくのだろう、と、不安を抱いていた。

 でも、それでも、いつだって誰かが傍にいてくれたから勇気を持てて。何だかんだで、それなりに楽しい毎日を過ごしていたような記憶がある。


「お疲れ様、リゴール」

「ありがとうございます。エアリ」


 あれからどのくらいの時間が経ったのだろう。色々なことに巻き込まれていたから長かったような気もするが、案外短かったような気もする。どのくらい経ったかは、もうはっきりとは思い出せない。


「王子、お怪我はありませんね」

「はい。デスタンこそ、体、大丈夫ですか?」

「私は平気です」


 辛いことはたくさんあった。苦しい時もあったし、私が選んだこの道が正しいのかと不安になる時もあったし、寂しい別れも経験した。


 でも、悪いことばかりだったわけではない。

 同じくらいか、それ以上か、嬉しいことや楽しいこともあった。


「……結構前に出ていましたが、本当に平気なのですか?」

「はい。私は嘘などつきません」

「なら良いのですが、無理して『平気』とは言わないで下さいね」

「はい。それはもちろんです」


 険しい道だったが、辛すぎる道ではなかったこと——それは救いか。


「……あ! そうでした!」

「どうしました? 王子」

「エアリのお母様に伝えなくてはなりません。すべての元凶は消えた、と」


 すべてが上手くいった今、私は幸福だ。


 けれども、心に少しの不安もないかと言われれば、そうでもない。


 私はこれまで、この日を目指して戦ってきた。

 ブラックスター王を倒し、リゴールが穏やかに暮らせる日を手にする——それが私の戦いの意味であり、人生の意味でもあった。


 でも、だとしたら、これからはどうなるのだろう。


 目指していた場所に達した時、人は何を目標として行けば良いのだろうか。


 今はまだ分からない。

 終わったばかりだから、よく考えられない。


「ですよね! エアリ!」

「え、私?」

「今日は、このことを、お母様に報告しましょう!」


 私の戦いはもう幕を下ろしかけている。

 でも、完全終了までには、まだすべきことがあるのかもしれない。


「そうね。朝になったら報告に行かなくちゃ」



 朝が来るまで、私は少し眠った。

 顔やら服やらが汚れているし戦いの直後だから眠れないかもと少し心配していたが、案外そんなことはなく。意外とぐっすり眠ることができた。



「ということで、すべて終了致しました」


 朝、食堂でエトーリアと会った時に、リゴールは彼女に向けてそう言った。


「え!?」


 いきなりの報告を受けたエトーリアは、驚きと戸惑いが混じったような顔になる。

 だがそれも無理はない、急だったから。


「昨晩、エアリがブラックスター王を倒して下さいました。なので、恐らくではありますが、もう危険なことは起こらないと思います」


 驚きと戸惑いに胸を満たされ返答に困っているエトーリアに、リゴールは事情を説明する。彼は、エトーリアが戸惑いを露わにしていることは、あまり気にしていないようだ。


「ブラックスター王を!? しかもエアリが? ……待って、話が理解できないわ」


 エトーリアは、混乱したようにそう言い、片方の手のひらを頭に当てる。


「夜の間に何があったというの……」

「仕掛けてきたのよ、王が」


 自ら口を挟むなど厚かましく感じられるかもしれないと心配になりつつも、私は答えた。

 母親相手だから大丈夫だろう、と思うことができたから、可能だったことである。


「……それで、戦ったというの? エアリ」

「そうそう」


 エトーリアが怪訝な顔をしながら放った言葉に、私は小さく頷く。するとエトーリアは、呆れたように溜め息をついた。


「まったく。危ない橋を渡るのが好きね」


 彼女の言葉も間違いではないと思う。


 振り返れば、私は危険な道ばかり選んできた。リゴールと出会ってから、ずっとだ。ただの娘が選ぶべきではないような選択肢を選びながら歩んできた。


 結末が悪いものでなかったから良かったが、これで悪い結末を迎えていたなら——今、私がエトーリアに述べられることなんて、何もなかっただろう。


「でも、命があればそれで十分だわ」


 そう言って、エトーリアは笑った。

 数秒後、彼女は視線を私からリゴールへと移す。


「途中は色々余計なことを言ってしまって悪かったわね。ごめんなさい」


 エトーリアの口から出たのは、リゴールへの謝罪の言葉。


「へ? ……い、いえっ! 謝罪なんて!」


 謝られることは予想していなかったらしく、リゴールは妙な声を出す。

 彼はなぜか、慌てたような振る舞いをしてしまっている。ただ軽く謝られただけなのだから、べつにそんなに気にすることもなさそうなのだが。


「貴方に罪はないのに、わたし、貴方を責めるようなことを言ったわね」

「迷惑をかけてばかりだったのは、わたくしの方です。ですから、その、気になさらないで下さい」


 責めたことを謝罪するエトーリアと、そんな彼女を「悪くない」と言うリゴール。二人の間には、奇妙な空気が漂っている。


「ところでリゴール王子」

「は、はい」

「これからはどうなさるおつもりなのかしら?」


 エトーリアは早速そんなことを問う。遠慮がない。


「実は……まだあまり考えられていないのです」


 彼女の問いに、リゴールはそう答えた。


 するとエトーリアは……。


「もしすることが何もないのなら、エアリと一緒に暮らすというのはどうかしら」


 何事もなかったかのように、さらりとそんなことを言った。


 発言が予想外で驚いた。

 エトーリアが自らそんなことを言い出すとは思えない。


 ただ、これからもリゴールと暮らせるのなら、それは幸せなこと。嬉しいことだ。今さら別れるなんて寂し過ぎるし。


「母さん、いきなり何を言ってるの!?」

「どうしたの? エアリ」

「待って待って! どうしたの、じゃないでしょ!?」

「彼と一緒にいられるのよ。エアリにとっても悪いことではないでしょう」


 まぁ、確かに、それはそうだが……。


「それはそうね」

「ふふふ。でしょう?」


 エトーリアは楽しげに笑みをこぼしている。

 楽しまれているようだ。

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