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あなたの剣になりたい  作者: 四季
13.闇に生きる王と、終わりへと続く道
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episode.199 意識の帰還

 ゲホッ、と息を吐き出して、現実へと引き戻された。


 一度強く息を吐き出した後も喉に何かが引っかかっているような感覚がうっすらあり、咳込んでしまう。

 そんな中、視界に入ってきたのは、リゴールの安堵したような顔。


「エアリ! 気がつきましたか、エアリ!」

「……う」

「良かった、本当に良かった……!」


 どうやら私は横たわっているようだ。僅かに起き上がった上半身を、リゴールが片手で支えてくれている。


 私の顔を覗き込むリゴールの目元は微かに赤らんでいた。

 それに加え、青い瞳は潤んでいる。


 そんなリゴールの顔を見て「悲しませてしまったのか」と申し訳なくも思ったが、それと同時に「帰ってくることができてよかった」と思う心もあった。


「リゴール……私、一体……?」

「王の術によって首を絞められ、呼吸が止まっていたのですよ。本当に、本当に心配しました」


 呼吸が止まっていた、か。

 こうして聞くと他人事としか思えない。


 だが、それは紛れもなく私のことなのだ。実感はまったくもって湧かないけれど。


「それで、状況は……?」

「今はデスタンが時間を稼いでくれています」


 何がどうなっているのか掴めないため尋ねてみた。するとリゴールはさらりと答えてくれた。


「え、デスタンさんが……!?」


 デスタンは完全復活してはいない。それゆえ、敵と戦えるような状態ではないはずだ。そんな彼が時間稼ぎなんて、できるものなのだろうか。


「はい。そしてわたくしは人工呼吸を」

「人工呼きゅ——って、え!? それって、口づけじゃ!?」


 急激に目が覚めてきた。

 衝撃は大きく、しかし、おかげで私は自力で座れるところまで回復。


「口づけのカウントではありませんよ。生命のためですから」

「そ……そうよね。ごめんなさい、こんな時に」


 ふざけて言ったわけではない。だが、ふざけていると受け取られる可能性もゼロではないため、一応謝罪しておいた。

 上半身を起こせるところまではあっという間に回復し、意識的には普段と何ら変わらない状態までたどり着けた。記憶や思考にも違和感はないし、手足も普通に動かせそうだ。


「そうだ、剣は?」

「はい。ここにあります」


 リゴールはペンダントを渡してくれる。

 私はそれをそっと握った。

 瞬間、全身に温かいものが流れ込んでくるのを感じる。


「……戦わなくちゃ」


 今は妙にすっきりした気分。一度死にかけていたとは思えない涼しさだ。それに、なぜかやる気が湧きだしてきている。戦おう、大切な人を護ろう、そんな風に思える心も蘇ってきた。


 だから私は体を起こしていく。

 立つのだ、もう一度。


「む、無理をなさらないで下さい!」

「大丈夫よ」

「しかし……エアリは一度命を落としかけたのですよ……!?」


 リゴールが心配してくれているのは分かる。

 でも、私は剣を取って、再び立ち上がるのだ。


「剣!」


 立ち上がることはできた。

 ペンダントを剣の形に変えることにも成功。


 その時、視線の先にいたのは、ブラックスター王とそれに対峙するデスタン。


「デスタンさん! ここからは私がやる!」

「……エアリ・フィールド」

「時間稼ぎありがとう。でも、もう大丈夫。戦えるわ」


 王と対峙しながら振り返ったデスタンは、戸惑いに満ちた顔をしていた。一度は落命しかけた私がこうして再び立ち上がったことを、驚いていたのかもしれない。


 正直、私だって驚いている。

 一度はああして意識を失って。でもリゴールの処置のおかげでこの世に帰ってこられた。そして今、また剣を握っている。


「ぬぅ……息を吹き返したか……」


 蘇った私を見て、王はいまいましげに顔をしかめていた。


「もうやられないわ」

「ほう、面白いことを言う……」

「生まれ変わった気分なの。怖いものなんてない」


 実際、死にかかって生き返ったのだ。

 死に近いものを経験したことがある人間ほど強いものはない。


 それに、今の私には、前の私にはなかった情報がある。

 それはブラックスター王の記憶。

 今の私は彼の絶望の記憶を持っている。細やかなことだが、それはいずれ、どこかで私のもう一本の剣となってくれることだろう。


「ふざけたことを!」


 王は怒りのあまり調子を強め、床を一度踏み締める。

 その隙に、デスタンはその場から抜けた。


 彼は王から離れた位置へ移動してから、まだ不安が残っているというような表情で「頼みますよ」と小さく呟く。私はそれに頷いた。


 他者が期待してくれていること。

 それはまた、私の力になってくれる。


「もう一度術を使うまで!」


 王は片手を掲げる——が、その瞬間、リゴールの黄金の光が王の体にぶち当たった。


「ぬぅ……!?」

「させませんよ!」


 勇ましく言い放つのはリゴール。


「く……邪魔しおって……」


 王は前歯が欠けそうなほど力を込めて歯ぎしりする。


「気が散れば術は使えない、それは実証済みです!」

「汚い、汚いやつだ……」


 安定した精神状態のもとでしか黒いリングは使えない、ということか。だとしたら、心を乱すことを繰り返しながら戦えばリングをはめられずに戦える。


 王がリゴールに対して苛立っているうちに、私は剣を手に持ったまま、王の方へと接近していく。


「だが! 術が使えずとも、強化した肉体が負けるわけがない!」


 威圧するような王の叫び。

 気にしたら負けだ、と、私は夢中で剣を振り上げる。


「ぬぅっ!?」


 考えることを止めて振り上げた剣は、王の腹部右側よりの辺りに命中。致命傷になるほど深くは入っていないが、恐らく、これまでの中では一番のダメージだろう。


 王は怯んでいる。

 狙うなら、今。


 振り上げていたところから、柄を両手で握って勢いよく下ろす。


 だが今度は反応された。王は右腕で斬撃を受け流してきた。


「そう何度もはやらせ——ぐっ!?」


 言いかけて、王の目が大きく開く。

 眩い光、リゴールが放った光が、王のローブの一部を焦がしていたのだった。


「エアリ! 援護はお任せを!」

「……ありがとう」


 背後のリゴールを一瞥し、すぐに視線を王へ戻す。

 そして、剣を振る。


 王は武器を持っていない。が、肉体だけで、私の斬撃に対応してくる。


「肉体強化薬を混ぜた酒を飲んでおるのだ……小娘ごときに負けるものか……」

「それはどうかしらね!」


 王と対峙し剣を振る中で、リョウカと訓練を行っていた時のことを思い起こす。

 目標の動きを見極め、剣の先も己の身であると感じるほどに意識を集中させて、動き続ける。そして探し出すのだ、真に狙うべき点を。

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