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あなたの剣になりたい  作者: 四季
13.闇に生きる王と、終わりへと続く道
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episode.189 絡みが悪化?

 あれ以来、グラネイトのウェスタへの絡みが悪化している気がする。


「ウェスタ! ずっと傍にいさせてくれ!」

「好きにすればいい」

「本当か!? じゃ、じゃあっ、唇も!?」

「……焼かれたいの?」


 私はウェスタの様子が気になって時々見に行くのだが、グラネイトとウェスタはいつだってこんな感じ。


「す、すまん……。だがウェスタ! 王は良くてグラネイト様が駄目なのはなぜだ!?」


 そして、グラネイトはというと、ウェスタが王と口づけしたことをいまだに根に持っているらしい。

 他の男に先を越されてショックなのは分からないでもないけれど。ただ、唇など減るものではないのだから、そんなに気にすることもないと思うのだが。


「あれは特別」

「王は男前だからアリなのか!? そういうことか!?」

「違う」

「なら何なんだ!」


 詰め寄るグラネイト。

 対するウェスタは、冷静に自身の首を指差す。


「……外さなくてはならなかったから」

「ま、まさか……グラネイト様の首輪のために、あんなことを許可したというのか!?」


 いやいや、気づくの遅すぎるでしょ。

 さすがに私でも分かったわよ。


「おかしい! そんなこと、どう考えてもおかしいぞ! グラネイト様を助けるために口づけなど!」


 荒々しい声を発するグラネイトに、ウェスタはうんざり顔。二人の間には明らかな温度差がある。


「……あのまま首を絞められていたかったのか」

「違う!」

「……なら、何も怒ることはないだろう」

「ウェスタは自分の価値を分かっていない! だから平気であんなことを!」


 それにしても、ここまで存在を無視されるというのはあまりない経験だ。

 ウェスタもグラネイトも、場に私がいることはまったく気にせず、思う存分ぶつかり合っている。


「いいか!? ウェスタの価値は、グラネイト様の首なんぞと代えられるようなものではないぞ!」

「……使えるものは使う」

「駄目だ! あんなこと、もう絶対にするなよ!」


 私はここから去った方が良いのだろうか。


 グラネイトもウェスタも、私のことはあまり気にしていない様子。だから、このままここにいても問題なさそうな気はするのだけれど、よく分からない。


「ウェスタには綺麗でいてほしいんだ!」

「……人を殺しておいて『綺麗』か。無理だ、そんなのは」

「そういう意味じゃないぞ!?」

「……人殺しは……綺麗な人間とは言えない」

「いやだから! そうではなくてだな!!」


 部屋にいる方が良いのか、いない方が良いのか、結局分からないままで、私は部屋を出た。私の意思で、である。


 すると、部屋を出てすぐのところで、リゴールにばったり出会う。


「あ、リゴール。どうしてここに?」

「わたくしですか? デスタンの部屋に用があったのです」


 リゴールがデスタンの部屋に用事とは、新鮮だ。


「そうだったの」

「はい。デスタンが部屋に着替えを取りに行くと言い出したので、わたくしが代わりに取りに行くところです」


 デスタンの用事でリゴールが動くとは、もはや主従が曖昧だ。リゴールの用事のためにデスタンが動くならともかく、逆だなんて、実に不思議である。


「デスタンさんのためにリゴールが動くなんて、不思議ね」

「ミセさんがいらっしゃっているので、一緒にいられる時間が少しでも長い方が良いかなと思いまして」


 そういうものなのだろうか……。


「そうだ。リゴール。着替えを運ぶの、私も手伝うわ」


 私は思いつきで言った。


 特に用事はないし、リゴールに一人で荷物を運ばせるのは不安だし。

 あったのはそんな安易な理由だけ。


 深い思考などありはしない。

 そんな、ろくに考えもしないでの提案だったが、意外にもリゴールは嬉しそうな顔をした。


「本当ですか!」


 瞳を太陽のように輝かせ、顔全体には喜びの色が濃く浮かんで。そんな純粋な表情を見ていたら、思わず心を奪われそうになってしまった。


「一人より二人の方が運びやすいはずよ」

「は、はい! ありがとうございます!」



「ふぅ。これで終わりね」


 私とリゴールは二人で、デスタンの衣類を運んだ。デスタンの部屋からリゴールの部屋まで、である。


「すぐに終わりましたね! エアリ、ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 後からデスタンに聞いた話によれば、彼はしばらくリゴールの部屋に滞在することになったそうだ。

 その理由の一つは、ウェスタとグラネイトがデスタンの部屋に居座るようになってしまったからだとか。


 だが、もちろん、それだけではなく。


 デスタンが常にリゴールの傍に待機していたいから、というのも、理由の一つだったそうだ。


「んもぉー、デスタンったら! リゴールくんを大事にしすぎよぉ。優しぃーん!」


 そして、ミセは安定。

 今日も元気にデスタンを愛している。


「必要以上に馴れ馴れしくされると気持ち悪いです。止めて下さい」

「あーら、冷たぁーい」


 デスタンはリゴールのベッドに腰掛けている。ミセもその隣に座っているが、デスタンにもたれ掛かることができるように、わざと体を傾けていた。

 ミセは相変わらずだなぁ、などと思っていると、デスタンが前触れなく問いを投げかけてくる。


「エアリ・フィールド、貴女は一人部屋で問題ないのですか」

「え?」


 何の前触れもない問いに、すぐには答えられない。


「夜が不安ではありませんか」

「その……どうしたの? いきなり」


 そもそも、デスタンが私を心配するなんてことがあるわけがないのだ。


「いえ、べつに。深い意味はありません。ただ少し気になっただけです」

「そうだったの。私は平気よ」


 するとそこへリゴールが口を挟んでくる。


「さすがです! エアリ!」


 リゴールの瞳は輝きに満ちていた。


「やはりエアリはお強いですね!」


 期待したような眼差しを向けられると、何とも言い難い心境になる。私はリゴールに期待されるような人間ではないからだ。


「そんなことないわ」

「いえ! エアリはお強い方です!」

「あまり期待しないで」


 私がそう言うと、リゴールは身を縮めた。


「す、すみません……」


 元々細く小さい体をさらに縮めて、落ち込んだような顔をするリゴールを目にしたら、悪いことをしてしまったような気分になる。


「そんな顔しないで、リゴール」

「はうっ!? あ……も、申し訳ありません」

「貴方は悪くないわ」

「……ありがとうございます」


 ほんの僅かながら、リゴールの顔つきが明るくなった。

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