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あなたの剣になりたい  作者: 四季
13.闇に生きる王と、終わりへと続く道
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episode.188 乱れる生活リズム

「だ、駄目だ……眠すぎる……」


 無理矢理起き続けていたグラネイトは、朝方、眠気に勝てず倒れ込んだ。


 彼は、一度まったく躊躇いなく床に倒れると、グォォと凄まじい音を発しながら寝始める。他人からの視線など欠片も気にしない、豪快な眠りだ。


 そんな彼を見た医者は少し呆れたように苦笑しながら「凄い寝方だねぇ」と感想を呟いていた。



 その後、朝食の時間が来たが、夜中に少しばかり食べていたのもあって食べる気にはなれなかった。そのため、朝食らしい朝食は口に入れずじまい。ただ、少し寝て起きたデスタンとリゴールは朝食があるため、一応参加だけはしておいた。


 そこでエトーリアにばったり出会い、尋ねられてしまう。


「ねぇエアリ。昨夜襲撃事件があったって聞いたけど、本当なの?」


 これはまた色々言われそうな雰囲気。言われる前から気が重い。今度こそリゴールと別れるように命令されるかもしれないと思うと、彼女の言葉を聞くより先に憂鬱になる。


 でも嘘はつけないから、真実を答えておく。


「えぇ。急だったから驚いたわ」

「エアリは怪我はないの?」


 エトーリアは椅子に腰掛けたまま尋ねてきた。


「大丈夫! ほとんど皆大丈夫だったわ!」


 するとエトーリアは安堵の溜め息を漏らす。


「そう……なら良かった」


 ん?

 想像していた反応と少し違うような?


「でも、朝起きたら玄関の扉が壊れているなんて、さすがに驚いたわ」

「ごめんなさい、母さん……」

「いいのよ、エアリ。済んだことは言っても仕方がないわ」


 叱られるだろうと思っていたが、意外とそんなことはなさそうで、驚き。


「ところで……『ほとんど皆』ってことは、怪我した人もいたのということね?」

「そうなの。ウェスタさんが」

「ウェスタ……」

「彼女は私たちのために戦ってくれたの。それで怪我して」


 そこまで言った時、エトーリアは唐突に椅子から立ち上がった。そして述べる。


「彼女に会いに行っても良いかしら」

「べつに問題はないと思うけど……どうして?」

「たまにはわたしからもお礼を言わなくちゃ、と思ってね」


 エトーリアがお礼を?


 私にはよく分からなかった。


 屋敷が破壊されたこととか勝手に医者を呼んだこととかに腹を立て、文句を言うためにウェスタのところへ行くのなら、まだしも理解できないことはない。もちろん制止はするだろうけど、意味不明ではない。


 しかし、お礼を言いに、というのは、私にはよく分からなかった。それだけの理由でわざわざウェスタに会いに行くなんて、謎でしかない。何か企みがあるのかと疑ってしまいそうになるくらいだ。



 エトーリアの思考を十分に理解することはできぬまま、デスタンの部屋に到着した。

 私はかつて扉があった場所を通過し、勝手に入室。エトーリアは黙って後ろについてきている。


「おや、これは!」


 私とエトーリアがやって来たことに気づいた医者は、眉を持ち上げつつ、こちらへ視線を向けてきた。


「様子どうですか?」


 グラネイトはまだ床に伸びて熟睡中のようだ。


「彼女、少し意識が戻りそうだよ」

「本当に!?」


 うっかり丁寧語を忘れてしまった。


「良かった……です。何とか生き延びることができそうで」

「処置が遅れていたら危なかっただろうね」

「はい。本当に。夜にもかかわらず来て下さってありがとうございました」


 私はあまり騒がしくならないよう気をつけながら歩き、ウェスタの枕元に座り込む。

 ウェスタの寝顔は美しかった。

 一見大人びているのに、どことなく可愛らしさも感じられて。相応しい言葉を見つけるのが難しくて、結局『美しい』としか表現することしかできない。


「今は意識がない状態ですか?」

「そうだね……まだ微睡んでいるような感じかな」


 エトーリアは私の少し後ろに腰を下ろしていた。


「意識がないのね。残念だわ。お礼を言えたらと思っていたのだけど」


 エトーリアの思考には謎も多い。でも、意識がなくて残念という発言は、共感できた。実際、私も同じように思っている。話せたら良かったのに、と。


「母さん。ウェスタさんが目覚めたら、また呼ぶわ。それでどう?」

「そうすべきかもしれないわね……」


 少しして、エトーリアは立ち上がる。


「分かったわ。じゃあエアリ、わたしが屋敷にいる時ならいつでも良いから、彼女が目覚めたら知らせて」


 負傷した直後だ、ウェスタもゆっくり眠る方が良いだろう。緊急時でもないのに無理に起こすなんてことはしたくない。


「じゃあ、わたしは行くわ」

「母さん……」

「またね、エアリ。敵襲には気をつけるのよ」

「えぇ!」


 こうして私はエトーリアと別れた。



 その後、私は、自室へ戻ってベッドで寝ることにした。

 昨夜は色々ありすぎて眠れなかったから、だ。


 ウェスタのことは心配だし、リゴールと話したいこともないことはないけれど、それでも今は睡眠を優先する。


 それが私の選択だった。



 ——そして、夕方が来た。


 自室のベッドでふと目を覚ました時、外はまだ明るくて。けれども、太陽は傾き始めている時間ではあった。


 ウェスタの様子を見に行こうと思い立ち、私はデスタンの部屋へ向かう。


 その途中、私は、自分の体が軽くなっているのを感じた。

 恐らくは、今が軽いのではなく眠る前が重かったのだろう。もっとも、科学的な根拠があるわけではないのだが。


「お邪魔しまーす」


 そんなことを言いながら、扉のないデスタンの部屋へ入る。

 すると、横になっているウェスタの傍らに座っていたグラネイトが、素早く私の方を見た。


「あ。起きたのね、グラネイトさん」

「ふはは! その通り!」


 良かった。元気そう。


「ウェスタさんの様子は?」

「意識は戻ったぞ!」

「本当に!?」


 ウェスタの意識が回復したと聞いた私は、安堵しつつ、二人に駆け寄る。そして、ウェスタの顔を覗き込む。


「……エアリ・フィールド」


 仰向きに寝てじっとしているウェスタだが、私を正しく認識してくれていた。そのことが妙に嬉しくて、私はつい頬を緩めてしまう。


「良かった……!」

「……心配、させたか……すまない」

「いいのよ、ウェスタさん。貴女が無事ならそれでいいの」


 ウェスタの赤い瞳は、確かに私を捉えている。

 平時なら当たり前のこと。なのに今は、たったそれだけのことがとても嬉しい。

 不思議だ、人の心とは。


「ふはは! エアリ・フィールドも喜んでくれているようだな!」

「……グラ、ネイト……うるさい」

「す、すまん。ウェスタ」


 ウェスタは相変わらずグラネイトに冷たい。負傷していても、安定の冷ややかさ。グラネイトにだけ冷たい態度で接することを、彼女は止めない。


 そのぶれなさは、ある意味尊敬に値する。



 そして、その日の晩。


 仕事から帰ってきたエトーリアをウェスタに会わせることに成功した。


 エトーリアはウェスタに感謝を述べていた。その感謝とは、娘を守ってくれたことに対する感謝だ。


 ただ、エトーリアがウェスタに言ったのは、その感謝だけだった。


 話が広がることは特になく。

 結果、面会はすぐに終わった。

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