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あなたの剣になりたい  作者: 四季
13.闇に生きる王と、終わりへと続く道
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episode.186 我が女となるならば

 グラネイトに絞まる首輪を装着させた王は、ゆったりとした足取りでウェスタの方へ向かっていく。ウェスタは口を開きはしないが、警戒心剥き出しの顔で王を睨んでいる。


「お主は……我が女となるなら許してやらんこともないぞ」


 王はウェスタに衣服が触れ合うほど近づき、片手を伸ばす。そしてその指先で、ウェスタの顎をそっと撫でる。


「ウェスタに触るな!」


 グラネイトが叫ぶ。

 王の手がウェスタに触れるのが耐えられなかったのだろう。


「男は黙れ」


 大きな声を出したグラネイトを、王は恐ろしい目つきでを睨む。それはもう、血まで凍りつきそうな睨み方だった。


 直後、グラネイトは詰まるような声を漏らす。


「う……ぐっ、またか!?」


 彼は首を気にしている。どうやら、王が睨んだのと同時に、首輪が再び絞まり始めたようだ。


「裏切りは罪。しかし、女として我に仕えることを誓うなら、水に流してやっても構わぬ」


 王はウェスタの顎を舐めるようにゆっくり撫でてから、彼女の背に片腕を回す。そして、その身を一気に引き寄せる。


「どうだ?」

「断る」


 ベタベタとウェスタに触れる王に腹が立っているのか、グラネイトは震えていた。こめかみには血管が浮かんでいる。


「我が女となることこそ、ブラックスターの民、皆の幸福……にもかかわらず、拒むというのか?」


 最初素朴そうだった青年——ダベベは、様子を見ているだけ。王の少し後ろに控え、動かない。今のところ仕掛けてきそうな感じはない。


 グラネイトはまだ怒りに震えている。


「……だが、一つ条件がある」


 王に接近され、触れられているにもかかわらず、ウェスタは落ち着き払っていた。

 もしかしたら、そう見せているだけかもしれないけれど。


「何だと?」

「ホワイトスターの王子は無害。それゆえ、見逃すというのはどうか」

「馬鹿なことを」

「彼を見逃してくれるなら……王の女になってもいい」


 驚きの進言だ。

 ただ、ブラックスター王がすんなり頷くとは思えないけれど。


「馬鹿め、それは無理だ」


 やはりそうなった。予想通りの展開だ。王がウェスタの出した提案を飲むなんてことは、あり得ない。


 グラネイトは、ウェスタに触れている王の手を凝視し、全身をガタガタと震わせている。


 首輪が首を絞めてくるのは、今は止まっているようだ。そういう意味では、少し安心。でも、首輪がいつまた動き出すかは分からないから、油断はできない。


「では、グラネイトに首輪をつけない代わりに口づけというのはどうか」

「それは禁止ッ!!」


 ずっと震えていたグラネイトが、ついに口を開いた。


「ウェスタの唇はグラネイト様のものだぞッ!!」

「馬鹿」

「んなっ!? ウェスタ! ここで『馬鹿』は酷くないか!?」


 グラネイトはある意味平常運転と言えよう。

 ウェスタは彼に構わず、王へ視線を戻す。


「どうだろう」

「なるほど……お主、なかなか面白い。気に入った」


 ——次の瞬間。


 王はウェスタの体を抱き寄せ、唇をつけた。


 それと同時にグラネイトの首輪が外れる。

 しかしグラネイトは、首輪が外れたことなどちっとも気づいていない。


「おおぉぉぉぉいッ!!」


 ウェスタの唇を奪われたことがよほどショックだったのか、グラネイトは床に伏せて大声をあげる。しかも大声をあげるだけではない。両の拳をドンドン床に叩きつけている。


 やがて、口づけを終えた王は、ニヤリと笑いながらグラネイトを見下す。


「首を折るより心を折る方が愉快だな」


 ……悪質だ。


「そして」


 直後、王は急にウェスタの腹を殴った。


「っ……!?」


 防御する間もなく打撃を受けたウェスタは、唖然とした顔で数歩後退する。


「この一撃は、我が女になることを拒んだ罰だ」

「くっ……!」

「そして」


 一秒も経たないうちに、黒い首輪がウェスタの首についた。


「これは裏切りの罰よ」

「そうくる、か」

「安心しろ。お主の面白さに免じて、そこの馬鹿男には首輪をつけないようにしてやる」

「……それで十分」


 首輪に首を絞められそうになったウェスタに、グラネイトは駆け寄る。


「ウェスタ! 何をしている!」


 グラネイトが大慌てで駆け寄って来ても、ウェスタは落ち着いた表情のままだ。首輪に狼狽えるどころか、炎を出現させて戦闘体勢に入っている。


「……グラネイトは護衛を抑えろ」

「だがウェスタ! 首が!」

「まだいける」


 ウェスタは帯状の炎を出現させつつ、王に向かっていく。

 彼女は仕掛ける気だ。

 王は動かない。しかし、護衛役のダベベが立ち塞がる。


「させないべ!」


 だが一対二ではない。王にダベベがいるように、ウェスタにはグラネイトがいる。


「邪魔をするな!!」


 グラネイトの怒りは頂点に達している。そんな彼の蹴りは、言葉で表せない、尋常でない威力。ダベベの体は一瞬にして後方へ吹き飛んだ。


「正面から挑むか、馬鹿女」


 刹那、首輪が急激に絞まり出す。

 ウェスタの目が見開かれた。


「死ね」

「……あ」


 ウェスタの動きが崩れた。

 数秒でバランスを崩し、ぐらりとよろける。


 そして——その腹部を、黒いものが貫いた。


「ウェスタ!!」


 ダベベを蹴り飛ばしたところだったグラネイトは、ウェスタが腹を貫かれたところを見て、悲鳴のような叫びを放つ。

 だが、ウェスタの方へは行かず、王の体に回し蹴りを叩き込んだ。


「ぬぅ!?」


 想定外の方向からの攻撃に、王は膝を曲げる——そこへ、ウェスタの炎が迫る。


「ぐぁ!」


 王はバランスを崩していたため避けきれなかった。

 着ていた衣服に炎が移る。


「く……ここは一旦退く!」

「ま、待つべ……」

「ダベベは自分で退け!」

「わ、分かったべ……」


 こうして、ブラックスター王とダベベは撤退したのだった。



 静寂が訪れる。

 敵は去ったが、ホッとはできない。


「ウェスタ! しっかりしろ!」


 腹を貫かれていたウェスタに駆け寄ったグラネイトが、沈黙を破る。


「ウェスタ! 聞こえるか!?」

「……うる、さい」

「なぜあんな無茶をした!」


 王が退いたからか、黒い首輪も腹を貫いていたものも消え去っている。でも、だから解決、とはいかない。首はともかく、腹部の傷からは血が流れ出ているから。


「……すまない」

「謝るな!」


 グラネイトはウェスタにそう言ってから、顔を上げる。


「エアリ・フィールド!」

「私!?」

「医者だ! 医者を呼んでくれ!」

「え。時間がまだ……」


 ウェスタの命のためにも、早く手当てしなくてはならない。それは分かっている。でも、まだ医者を呼べる時間ではない。


「取り敢えず、バッサを呼んでくるわ」


 バッサも手当ては得意だ。医者ほど専門的な治療はできないだろうが、簡易的な手当てならできるだろう。

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