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あなたの剣になりたい  作者: 四季
12.街へのお出掛けと、交差する運命
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episode.180 二手に分かれて

 扉の向こうから聞こえてくるばたばたという足音に、目を覚ます。


 これが朝ならともかく、まだ夜だから、不思議に思わずにはいられない。夜中に廊下を走り回るなんてこと、平常時にはあり得ないだろう。


 そんなことを考えて、様子を見てみるかどうか迷っていた時、誰かが扉をドンドンと叩いた。


 普通に訪ねてきたにしては時間がおかしい。それに、ノックの仕方も乱暴だ。何でもない時にこんな強いノックをしたりはしないだろう。


 だから私は、扉を開けてみることにした。


「誰……?」

「エアリ! わたくしです!」

「え、リゴール!?」


 扉を開けた時、すぐ目の前に立っていたのはリゴールだった。

 でも、遊びにやって来たとか眠れなくてとか、そういった雰囲気ではない。そういう理由の訪問にしては、表情が硬いのだ。


 不自然なのは表情だけではない。


 暗闇の中だからはっきりと見えるわけではないものの、日頃より顔色が悪い。それに、額に汗の粒がいくつも浮かんでいる。


「夜分にすみません! 敵襲なのです!」

「え!?」


 リゴールの言葉は、とても納得できるものだった。


 ……でも、こんな夜に敵がやって来るなんて。


「敵が来ているの!?」

「はい。今は駆けつけてくれたウェスタが時間を稼いでくれています」


 こんな夜間に駆けつけることができたウェスタは凄いと思う。でも、呑気に感心している場合ではない。彼女一人に押し付けるわけにはいかないのだから。


「分かったわ。持つ物持って、すぐ行くから」

「すみません……」


 リゴールは、申し訳なさそうに頭を下げているが、一方で助けてくれと懇願しているかのような目つきをしている。だから私は、これは助けに入らないわけにはいかない、と思って、すぐにペンダントと剣を取りに走った。


「お待たせ、リゴール」


 ペンダントだけで良ければ軽いし便利なのだが、緊急時ゆえ、リゴールと離れ離れになる可能性もゼロではない。ペンダントしか持っていなかったらその時に戦えなくなってしまうので、一応、剣の方も持っていくことにした。


「ありがとうございます……」

「いいのよ。で、敵はどこ?」


 数分前に目覚めたばかりだが、眠気を感じない。妙に覚醒してしまっている。

 でも、今の状況においては、意識がはっきりしている方が良い。

 すぐに戦いになるかもしれないのだから、寝惚けているよりかは、妙に覚醒してしまっている方が遥かにましだ。



 リゴールに案内され、ウェスタと敵が戦っているという場所の付近まで移動。曲がり角の陰に隠れて、交戦中の二人の様子を確認する。


「あの男の人が……敵?」

「はい」


 ウェスタと戦っているのは男性だ。

 でも、私は見たことのない人。


「彼もブラックスターの人なの?」


 ひそひそ声でリゴールに尋ねてみた。

 すると彼は小さな声で答えてくれる。


「はい。弓を使ってきます」

「弓……何だか新鮮ね」


 ブラックスターの者で弓を使ってくる者というのは、私の記憶の中にはない。それだけに、驚きだった。


 しかも、接近戦がまったくもって駄目ということではないようだから、なおさら驚き。ウェスタと戦っている今の様子を見ていると、それなりに動ける人物であることはよく分かる。


 遠距離からの攻撃を極め、接近戦を大の苦手としているのなら、私が剣を持って突っ込んでいっても倒せるかもしれない。でも、体術も使えるのなら、ただ突っ込んでいっても勝てはしないだろう。


「強そうね」

「交戦回数が少ないので、手の内が完全に分からないところも不安です……」


 リゴールの発言に、確かに、と思う。


 勝つためには、まず敵を知るところから。どのような動きをし、どのような手を持っているのか、そこを把握することができるか否かが、結果的に大きな差を生むこととなるだろう。


 だが、本人に直接聞くわけにはいかない。

 そこが難しい。


 もっとも、圧倒的な力の差があれば話は変わってくるのだが。


「……じゃあ取り敢えず、私が出ていってみるわ」


 ついぐだぐだと考えてしまうが、こうしている間にもウェスタは戦っている。いつまでも彼女を無理させ続けるわけにはいかない。


 だからこそ、私はそう言ったのだ。


「エアリが、ですか?」

「そうよ。リゴールが出ていくよりましなはずだわ」


 敵はリゴールを狙っているのだろうから、リゴールを晒すわけにはいかない。


「……では、わたくしは次へ。グラネイトを呼んできます」

「ありがとう」


 こういう時は、一人でも多い方が心強い。

 その一人がグラネイトであったとしても、心強いことに変わりはないだろう。きっと。



 リゴールが行ってから、私は交戦中の二人の前に姿を現す。


「こんな夜に何をしているの」


 ぶつかり合っていたウェスタと敵と思われる男性は、同時に、一旦動きを止めた。そして、私の方へと視線を注いでくる。


「ウェスタさんはともかく……貴方は誰?」


 私は二人の方へ足を進めながら、そんな問いを放つ。


 男性が敵であることは知っている。ブラックスターの手の者なのだろうということも分かっている。ただ、いきなりすべてを把握しているような振る舞いをしたら、違和感を抱かれるかもしれない。だから私は、敢えて、分かりきったことも問う道を選んだ。


 私の問いに、男性は淡々とした声で答える。


「ブラックスター、ラルク。元王子の命を頂戴するべく、ここへ来た。邪魔しないでいただけるとありがたいのだが」


 夜の闇の中、男性——ラルクの低い声が不気味に響く。


 それほど大きな声ではないのだが、妙に迫力があり、怯みそうになってしまった。


 でも、すぐに心を立て直す。

 怯んでいる場合ではない、と、自身を叱って。


「申し訳ないけど、そんなことはさせられないわ。ここを血で濡らすのは止めて」

「では、元王子を差し出していただけるか? ……それならここを汚すこともあるまい」


 連れていって別の場所で殺めれば、この場所を血に濡らさずに済む。そういうことを言っているのだろうか。


 だとしたら、馬鹿げた話だ。


 私は、この屋敷を血で汚したくないからという理由だけで、拒否したわけではない。


 それに、ブラックスターの者にリゴールを渡すなんて、できるわけがない。そんなことをしたら、彼は確実に殺される。もし私がリゴールの身をラルクに渡したら、それは、ブラックスターに協力したも同然だ。


 だからこそ、私ははっきり言う。


「断るわ」


 するとラルクはふっと微かに笑みをこぼす。


「……気の強いお嬢さんだ」


 ——そして、一瞬にしてこちらへ接近してきた。

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