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あなたの剣になりたい  作者: 四季
12.街へのお出掛けと、交差する運命
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episode.176 まだ強くなりそう

 毒消し薬を無理矢理飲まされたことには驚いた。でも、心配してくれているのかなと思うことはできて。だからべつに不快ではなかった。


「その……薬、ありがとう」

「飲んでおくと安心だからな!」


 礼を述べると、グラネイトは頷く。


「人って変わるのね。前は襲ってきていたのに、今は助けてくれるなんて……何だか不思議」

「ふはは! 過去のことを言われるとさすがに恥ずかしいぞ!」


 グラネイトにも一応恥じらいがあるとは、意外。


 正直なことを言うなら、彼には恥じらいなんてものはないのだと思っていた。


 ……だって、ことあるごとに「ふはは!」などと騒ぐような人よ?


「ただーし! 勘違いするなよ! グラネイト様は今でも、ブラックスターの人間であるつもりだ!」


 グラネイトの言葉に、私は思わず「え。そうなの」と漏らしてしまった。ただ、彼は私の発言をあまり聞いておらず、そのため、嫌な顔はしなかった。


「今回の件に関するブラックスターのやり方に賛同できなかった、というだけのことだからな! ふはは!」


 言葉の一つ一つが潔い。

 ある意味では見習うべきかもしれない。


「……でも、今さらあっちへは戻れないんじゃない?」

「世が変われば戻れる!」

「体制が変わったら、ってこと?」

「イエス! その通り!」


 なんて楽観的なのだろう。


「グラネイト様はこう見えても良家の出身だからな! ふはは! 血の良さには自信がある!」

「……へぇ、そうだったの」

「ま! 家は滅んだがな!」

「滅んだ!?」


 想定外のことをさらっと言われ、思わず大声を出してしまった。

 もし深刻な顔で告げられていたなら、しんみりはしたとしても、ここまで驚きはしなかっただろう。世間話をするかのようなあっさりした感じで告げられたからこそ、必要以上に驚いてしまったのだ。


「ふはは! 家があればグラネイト様はもっとモテモテ人生だっただろうな!」

「それは切ないわね……」

「いや、切なくないぞ? おかげで、いきなりウェスタに出会えたからな!」


 切なさを匂わすようなことを言いつつ、思考は前向き。多少ずれがある感じが、微妙に笑える。もちろん、失礼だから笑わなかったけれど。



 その時になって、扉が開いた。

 先に入ってきたのはリゴール。妙に勇ましい顔で、よく見ると気絶したシャッフェンを引きずっている。


「あ。リゴール」

「お待たせしました、エアリ」

「……彼、倒したの?」

「いえ。厳密には気絶させている状態ですね」


 肉のついたふくよかな男性を華奢なリゴールが引きずっている光景は、不思議という言葉の似合う光景だった。仕留めた獲物が自分より大きかった時の獣のようである。


 リゴールに続いて、デスタンが入ってくる。


「王子、(とど)めは速やかにお願いします」

「エアリに確認するので待って下さい!」

「……はい」


 基本下からは出ない質のデスタンだが、リゴールにはさすがに逆らえないようだ。


「もう一人は逃がしてしまったのですが、この者だけは何とか気絶に追い込みました」

「やるわね、リゴール」


 するとリゴールは、その男性にしてはふっくらした頬を、ほんのり赤く染める。恥じらいを感じさせる表情だ。


「それで、どうしましょう?」

「……その人?」

「はい。いきなり殺めるのも申し訳ないと思い今の状態に至ったのですが」


 難しいところだ。

 気絶しているところを殺めるというのは少々卑怯な気がするし。かといって、トランの時のように世話する余裕はないし。


 場がしんと静まり返る。


 ちょうどその頃になって、ウェスタが室内へ戻ってきた。

 刹那、グラネイトが彼女の方へと飛んでいく。


「ウェスタ! 無事かッ!?」


 彼のウェスタに向かう勢いは、凄まじいものがあった。

 直前まで床に座っていた。それなのに、ウェスタが帰ってくるや否や、目にも留まらぬ速さで立ち上がり。さらにそのほんの数秒後には、ウェスタの目の前まで移動していたのだ。


「問題ない」

「良かったァ! 心配したぞ!」


 グラネイトはウェスタの肩を包み込むように抱く。だがウェスタは取り乱さない。冷静だ。


「痛いところは? 疲れたところは? 言ってくれればグラネイト様が癒やすぞ!」

「では……触るな」

「それはなし!」

「……まったく。面倒な男」

「だな! ふはは!」


 やたらと絡んでくるグラネイトに対するウェスタの接し方は、以前より少しばかり柔らかくなっているように感じる。


 以前なら、ここで、ウェスタが強烈な一撃を放っていただろう。


 でも、今はそれがない。

 素っ気ないが会話にはなっている。


 それからウェスタは、絡んでくるグラネイトを無視し、リゴールに歩み寄る。彼女の冷ややかな瞳に見下ろされたリゴールは、怯えたような顔。だが、ウェスタが心ない行動に出ることはなかった。


「……貸して」

「え?」

「その男を渡して」


 リゴールはきょとんとしている。その脇に控えているデスタンは、眉をひそめている。


「何をなさるのですか……?」

「ここで消し去る」


 ウェスタの口から放たれるのは、少しばかり残酷な言葉。

 もっとも、彼女らしいといえば彼女らしいが。


「できない者には任せない」

「えぇと……それはわたくしのことで?」

「そう。止めはできる者がやればいい」


 ウェスタは静かに述べる。

 そして、リゴールの手からシャッフェンを奪い取った。


「さよなら」


 彼女は小さくそう呟き、シャッフェンの襟を掴んでいる右手から炎を発生させる。気絶したシャッフェンを、みるみるうちに炎が包んでゆく。


 ——そしてやがて。


 シャッフェンのふくよかな肉体は、塵のようになって消滅した。


「……これで終わり」


 手と手を合わせ、ぱんぱんとゴミを払うような動作をした後、彼女はふぅと息を吐き出す。

 それから彼女は、私の方へと視線を注いできた。


「エアリ・フィールド」

「えっ、私?」

「……先の傷の手当ては」


 瞬間、グラネイトが口を挟んでくる。


「グラネイト様が薬を飲ませたぞ!」

「……そうか」

「ふはは! 気が利くだろう!?」

「馬鹿らしい」


 ウェスタにばっさり言い切られ、グラネイトは慌てる。


「な! 馬鹿らしい!? それは一体どういうことだ!?」


 グラネイトの問いにウェスタが答えることはなかった。


「……それにしても、エアリ・フィールド」

「何?」

「その剣技、なかなか華麗だった」


 いきなり褒められた。


「ウェスタ! グラネイト様を無視しないでくれ!」

「……まだ強くなりそうだ」

「褒めていないで、グラネイト様の発言を聞いてくれ! ウェスタ!」

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