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あなたの剣になりたい  作者: 四季
12.街へのお出掛けと、交差する運命
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episode.168 安らぎは続かない

「……はっ」


 夜、音のない小屋の中、ウェスタは目を覚ます。

 ベッドの上で上半身を起こし、額を伝う一筋の汗を片手で拭う。そして、闇の中、一人溜め息をつく。


「……また……夜」


 ドリとラルクに襲撃されて以来、ウェスタは眠りづらい状態に陥っていた。


 夜が来て、明かりが消えても、なかなか眠れず。ようやく眠ることができても、今度はすぐに目覚めてしまって。十分な睡眠をとることがなかなかできない。


 ドリとの戦闘の際に負った傷は、グラネイトの熱心な手当てのかいあって、既に八割ほど回復している。傷が消えるところまで治癒してはいないが、動いても痛みはしない状態だ。


 身体的には問題はない。

 明日にでも戦いに復帰できそうな感じである。


 だが、精神の方がなかなか晴れない。


 暗闇にいると、ドリに襲われた時のことを思い出し、心が安定しなくなってしまう。緊張感の波が迫り、妙に目が覚め、なかなか眠れない。


 ベッドに座ってウェスタがぼんやりしていると、床に布を敷いて寝ていたグラネイトが寝惚けた声を発する。


「んー……んん……?」

「……起きなくていい」


 ウェスタはグラネイトを起こすまいと、冷たく返す。しかしグラネイトはそのまま起き上がってくる。


「あぁ……ウェスタ? また夜に起きたのか?」


 グラネイトは目もとを擦りながら、まだ意識が戻りきっていないような声で言った。


「グラネイトまで起きなくていい」

「いや、ウェスタが困っているなら……グラネイト様も起きるぞ……」

「いいから寝ろ」

「相変わらず心ないな……」


 少しばかり不満げに言いながら、ゆっくりと立ち上がる。そして、ウェスタが寝ているベッドに腰掛ける。


「大丈夫か?」

「平気。すぐまた寝る」

「嘘だな! 分かる、それは嘘だ!」

「……うるさい、黙って」


 距離を縮めてくるグラネイトに不快そうな視線を向け、ウェスタは再び体を横にした。

 眠れない状態にもかかわらず眠るような体勢を取るウェスタに、グラネイトは言い放つ。


「ふはは! 無理に寝ようしなくていいぞ!」

「……静かにして」

「静かにしていたら眠れそうなのか!?」

「……無理」


 ウェスタが呟くように答えた瞬間、グラネイトは大声を出す。


「ふはは! やはりな! グラネイト様、大正解ィ!!」


 誰もが大喜びするほど凄い正解ではない。ただ、グラネイトにとっては、大声を出して喜ぶほどの正解だったということなのだろう。


「案ずるな、グラネイト様がとんとんしてやる」

「……触りたいだけ」

「んなっ!? さすがに失礼にもほどがあるぞ!?」


 ショックを受けたような顔をしているグラネイトだが、その手は既にウェスタをとんとんし始めている。

 だがウェスタは、そのことに苦情を述べはしなかった。


「嫌じゃないのか? ウェスタ。とんとんさせてくれるのか?」

「……嫌と言っても無駄と判断した」

「何だそれ!?」

「もう好きにすればいい」

「ふはは! それはまた別の意味で悲しい!」


 夜中に起こされ、気を遣えば冷たく接され、踏んだり蹴ったりなグラネイトだが、不幸そうな顔をしてはいなかった。それどころか、むしろ幸せそうな顔をしている。



 そして、朝。

 ウェスタが目を覚ました時には、グラネイトはもう起きていた。


「ふはは! おはようウェスタ!」


 ウェスタの起床を心待ちにしていたらしく、グラネイトは即座に挨拶をする。


「……馴れ馴れしくするな」

「何を言う! 挨拶くらい自由にさせてくれ!」

「……まぁそうか。なら好きにすればいい」


 挨拶に関しては、先に折れたのはウェスタだった。

 彼女はベッドから離れ、流しへ向かう。そして水で顔を洗い、グラネイトがいるテーブルのところまで戻ってきた。彼女はそのまま椅子に座る。


「朝は食べるか?」

「要らない」

「承知した! ふはは!」


 楽しげな声を発しながら、グラネイトはウェスタの背後へ回る。そして、大きな両手でウェスタの両肩を掴む。


「……何をしている」


 ウェスタは冷ややかに放つ。

 だがグラネイトは怯まない。


「肩のマッサージだぞ!」

「離して」

「それは無理だ! なぜなら、手が滑ってついつい肩を触ってしまうから!」


 グラネイトは朝からハイテンション。ウェスタはちっとも乗ってこないというのに、一人、物凄く楽しそうな顔をしている。


 一方、ウェスタは、起床した時には明るい顔つきではなかったが、今は少し笑っている。ただ、それは、楽しいからとか嬉しいからとかの笑みではない。呆れ笑いだ。


「……馬鹿らしい」

「それは、ウェスタ馬鹿の間違いだろう!?」

「え」

「ウェスタを好きすぎる馬鹿。それならグラネイト様も納得だ! ふはは!」


 グラネイトは楽しそうにウェスタの肩を揉んでいる。


「肩揉みが終わったら、傷の消毒するからな!」

「……順番が変」

「そこを突っ込むんじゃない」


 二人の間に何とも言えない空気が漂っていたその時、突如、扉をノックする音が空気を揺らした。

 ウェスタは反射的に身を震わせる。その顔面には、怯えの色が微かに滲んでいた。その顔色から彼女の心情を察したのか、グラネイトは静かに「見てくる」と言って、玄関の扉の方へと歩いていく。



 グラネイトが玄関の扉を開けると、そこには、一人の男性が立っていた。

 キノコの笠のような形をしたピンクの帽子を被っており、体のラインは丸みを帯びていて、やや肥満気味——そんな男性だ。

 彼がブラックスターのシャッフェンであるということを、グラネイトは知らない。


「朝から何の用だ?」

「いきなりお邪魔してすみませぇーん」


 グラネイトは眉間にしわを寄せる。


「用を言ってくれ」

「少し失礼して構いませんかぁー?」

「断る。事情の説明無しで入れるわけにはいかない」


 するとシャッフェンは、唇を突き出し尖らせ、二つの拳を口もとに添えるポーズをとる。さらにそこから、下半身を左右に往復させる。


「何なんだ……?」


 さすがのグラネイトも動揺を隠せない。


「厳しすぎますよぅー。悪いことはしないので、入れて下さぁいー」

「いや、だから、事情を説明しろと——ぶっ!?」


 グラネイトが言い終わるより早く、シャッフェンは動いた。


 そう、グラネイトに飛びかかったのである。


 シャッフェンの動きを予測していなかったグラネイトは、ふくよかな体に飛びかかられバランスを崩した。結果、そのまま尻餅をつく形になってしまう。


 直後。

 その首に、銀の刃が触れる。


「なっ!?」


 いきなり刃を向けられ、グラネイトは顔全体の筋肉を引きつらせる。


「すみませんが、死んでもらいますぅー」

「何をする!」


 シャッフェンの腕を掴もうと片腕を伸ばす——が、逆に、伸ばした腕を刃に傷つけられてしまう。


「ぐっ……!」


 顔をしかめるグラネイト。

 ニヤニヤ笑みを浮かべるシャッフェン。


「抵抗したら次は首を斬りますよぅー?」

「ブラックスターからの刺客だな!?」


 今になって察したグラネイトは叫ぶ。が、シャッフェンはそれを無視し、刃物を持っていない方の手で紙のようなものを取り出す。


「大人しくして下さいねぇー」


 シャッフェンは、取り出した紙のようなものをグラネイトの胸元に押し付ける。


「ぐっ!? 何だ、今の紙は!?」

「術を使えなくする効果のある紙ですぅー。さぁ、大人しく死んで下さいー」

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