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あなたの剣になりたい  作者: 四季
12.街へのお出掛けと、交差する運命
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episode.165 真っ赤

 それから私たちは食堂へ移動した。


 デスタンは、ミセからペンが入った紙袋を受け取ると、その中身を順に出してテーブルに並べていく。箱入りのものは三つ、箱入りでないものが三本。


 並べられたペンを見て、リゴールは驚きの声を漏らす。


「えぇっ。こんなに買ってきたのですか!?」


 リゴールは目をぱちぱちさせている。


「はい。それが何か」

「い、いえ……。ただ、わたくしが想像していたより……本数が多かったので」


 遠慮がちに言うリゴールに、デスタンは淡々と返す。


「はい。多めに買いました」


 飾り気はない。優しそうな雰囲気も柔らかさもない。そんな、淡白な口調だ。彼らしいといえば彼らしいかもしれないが。


「そうなのですか!?」


 目を丸くして驚きを露わにするリゴール。


「はい。どれが王子に相応しいか分からなかったので、一応すべて買っておきました」

「し、しかし……高価だったのでは……?」


 リゴールは上目遣いで遠慮がちにデスタンを見る。


 ……それにしても、リゴールの上目遣いは違和感がない。


 女性であっても、上目遣いを上手に使える者は少ない。やり過ぎるとあざとさが生まれ、逆に可愛らしくなくなってしまうというものだ。

 だが、リゴールの上目遣いは、遠慮がちな感じがきちんと出ている。見事。


「以前の稼ぎで足りました」

「やはり、結構高かったのでは……」

「そうですね。ただ、心配していただくほどではありません。ご安心下さい」


 デスタンはそこまで言って、話題を変える。


「それより、ペンを見てみて下さい。そして気に入ったものを持っていって下さい」


 相変わらず淡々とした口調。感情など欠片もないかのような話し方。でも、デスタンが心の中ではリゴールを大切に思っていることを、私は知っている。



 リゴールのペン選びが終わり、解散になった。

 デスタンは自室へ戻り、ミセはそれについていく。しかし私とリゴールは、もうしばらく食堂にいることにした。

 それを選択した理由は、リゴールと話をしたい気分だったから。彼と一緒にいたいと思ったからである。


「買い物お疲れ様でした、エアリ」

「ありがとう」


 軽く礼を述べると、リゴールはデスタンから貰った黒い軸のペンを眺めながら口を動かす。


「敵襲がなくて本当に良かったです。本音を言うならわたくしも行きたいところでしたが……やはり、わたくしがいない方が平和ですね」


 彼は視線を私へ向けない。

 その青い瞳は、手元のペンだけをじっと捉えている。

 リゴールは目を合わせることさえ恥ずかしいというようなタイプではないはず。どうも不自然だ。


「どうしたの、リゴール。何だか変よ?」

「……え。そ、そうでしょうか。わたくし……そんなにおかしかったでしょうか?」


 私が質問したことで、リゴールはようやく顔を上げた。何かやらかしてしまっただろうか、というような、不安げな面持ちだ。


 あまり心配させるのは可哀想。

 だから私はすぐに述べる。


「いいえ。ただ……あまりこっちを見てくれないなって、少しそう思ったの」


 心を隠そうとしてややこしいことになってはいけないので、ここはシンプルに、本心を述べておいた。


 するとリゴールは安堵したように頬を緩め、柔らかめの声で「そういうことでしたか」と発する。

 独り言のような雰囲気の発し方だった。


「ペンに気を取られていました。すみません」

「謝らなくていいわ。こちらこそ、変な質問をして悪かったわね」

「まさか! エアリは何も悪くありません!」


 なぜここで大きな声を出すのか——と思っていたら、まだ続きがあった。


「エアリはいつもわたくしを気にかけて下さいます! それに、少しでも変化があれば今のように尋ねて確認して下さいます! それはとてもありがたいことで、ええと……とにかく、エアリといられるだけでわたくしは幸せです!」


 そこまで一息だった。


 凄まじい勢いで長い文章を発するリゴールは、得体の知れない圧力を放っている。刺々しいものではないが、自然と圧倒されてしまうような圧があるのだ。


「……プロポーズみたいね」


 私は冗談めかして言ってみた。

 途端に、リゴールの顔が真っ赤になる。


「あ……す、すみませ……」

「ふふ。冗談を言ってみただけよ」

「えっ……あ、その……」


 リゴールは、両手の手のひらをリンゴのように赤く染まった頬に当て、狼狽えている。しかも、その表情からは、恥じらいのようなものすら感じ取れて。信じられないくらい初々しい態度を取っていた。


「ごめんなさい、リゴール。本当に、今のは冗談なの」

「え、い、いやっ……その……」

「ん? リゴール?」

「じょ、冗談でなかったら……どう思われるのでしょう……?」


 肩をやや持ち上げ、遠慮がちに見つめてきている。


「えっと、何それ? どういう意味?」


 彼が言おうとしていることがいまいち分からない。だが、分かっているふりをしておくのも、後々ややこしいことになりかねない。そう考えた結果、私は、尋ねてみるに至った。


「で、ですから……その、わたくしが貴女にプロポーズしたら、貴女はどう思われるのかな、と……」


 けれど、リゴールの答えを聞いて疑問が解決することはなかった。

 解決どころか、疑問が増えてしまったくらいだ。

 プロポーズしたらどう思うか、なんて、普通いきなり聞くことではないだろう。 いくら親友のような存在とはいえ、踏み込み過ぎ。


「面白いことを言うわね。でも、そういうのは、本当にプロポーズしたい人に聞いてみるべきだと思うわ。だって、私の意見を聞いても、何の意味もないでしょ?」


 いずれプロポーズしたい相手に探りを入れるならともかく。


「ね?」


 すると、リゴールはガタンと音をたてて椅子から立ち上がった。

 急なことに驚いていると、彼は大きく口を開く。


「そうです! プロポーズしたい人にしか聞きません!」


 ……え。


 そんなことを言われたら、リゴールのプロポーズしたい人が私なのかと思ってしまう。そんなことあり得ないのに、妙な期待をしてしまうではないか。


「だからね、リゴール。そういうのは——」

「わたくしは本気です!」


 目の前の彼は、真剣な面持ちだった。


「いつかその時が来るかもしれないからこそ、尋ねたのです!」

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