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あなたの剣になりたい  作者: 四季
12.街へのお出掛けと、交差する運命
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episode.163 剣選び

 ほどよい気温に、穏やかな日差し。

 晴れ渡る空の下を歩くことしばらく、剣を売っているらしい店に到着した。


 ペンを買った店とは違って、こちらは煉瓦造りの建物を店舗としているようで。赤茶色の煉瓦が華やかで、しかも二階建てという、わりと立派な建物だった。


 中へ入り、店内を見て、私は驚く。

 なぜなら、たくさんの武器が並べられていたからである。


 剣だけでも色々ある。

 銀色に輝く刃が勇ましい空気を漂わせるもの、とても持ち上げられなさそうな太い刃のものなど、それぞれに個性がある。まるで人間のよう。


 もちろん、店内にあるのは剣だけではない。


 刃は短くコンパクトな、ナイフ。

 柄がとても長く先端も鋭利な、槍。

 そういったものも、何種類か置かれている。


「す、凄い……」


 かなり物騒な店内だが、なぜか妙に心を奪われてしまう。


 置かれているだけなのに、どの武器も、恐ろしいほどの迫力だ。

 ただ、それらは、十代後半の少女には相応しくないようなもの。きっと、私には似合わないだろう。こんな店の中に私がいるというだけでも、おかしな現象と言えよう。


 私が置かれている武器の数々に見惚れている間に、デスタンは店の奥のカウンターへと進んでいっていた。


「失礼します。剣をいただきたいのですが」


 デスタンが言うと、カウンターの向こう側にいた人影が立ち上がる。


「おぅ? 客か?」


 デスタンの声に応じた人影の正体は、男性だった。

 四十代くらいに見える男性で、体つきはがっしりしている。また、顔は岩のようにごつごつしていて、頭にはオレンジの布を巻いている。顎には黒いヒゲがぷつぷつと生えていて、厳つい容姿だ。


「はい。剣をいただきたいのです」

「剣だと? 兄ちゃん、そんなもんをどうするつもりだぁ?」


 男性は眉間にしわを寄せながら、首を軽く傾げる。


「知人が使うのです」

「あぁ? 知人だぁ? なんだそりゃ」


 店員の男性が訝しむような顔をしていることは微塵も気にせず、デスタンは片手で私を示す。


「ちなみに、彼女です」


 直後、男性は吹き出す。

 しかも、だっはっは、と豪快に笑い出す。


 ……悪かったわね、らしくなくて。


「女のための剣だぁ? そんなもんあるわけねぇだろ!」

「そこを何とか。お願いします」

「おいおい! 本気かよ!」


 デスタンに頼み込まれた男性は、片手を額に当てながら大きく発する。


「まず、女に剣持たすとか正気かよ!?」

「それは問題ありません。彼女は訓練を受けていますから」

「訓練!? 本当かよ!?」

「はい」


 いつまでも冷静さを失わないデスタンに呆れてか、男性は大きな溜め息を漏らす。


「しゃーねぇな。分かった分かった! 選んでやる。ちょっと待て!」


 男性はカウンターから出てきて、私に向かって歩いてくる。そして、一メートルも離れていないくらいまで近づいてきて、しまいに手首を掴んできた。


「……何ですか?」

「ほう。いきなり手首掴んでもびびらねぇか」

「……えと、あの、何でしょうか?」

「なるほど。わりと度胸のある女みたいだな」


 褒められている気はするが、素直に喜んで良いのかどうか、すぐには判断できない。普通他人から褒められれば嬉しくなるものだが、今は何とも言えない心境だ。


「剣だな?」

「あ、はい! よろしくお願いします!」


 今から世話になるだろうから、一応頭を下げておく。


「よっしゃ! じゃあ、こっちへ来い!」

「は、はい……!」


 訓練でも始まりそうな空気。これからどのようなことが始まるのか、少しばかり不安だったりする。


 でも、ただ不安を抱えているだけでは話は進まない。


 何事にも怯まず挑戦する勇気があってこそ、未来は開けてゆくのだ。

 剣と未来だと話が違う、と、笑われるかもしれないけれど。



 それから私は、いくつもの剣を握らせてもらった。

 やはり剣も人と同じ。一本一本に個性があり、特徴がある。

 そして、柄を握った感触も大きく違っている。滑りそうだったり、太さがしっくりこなかったり、馴染みがいまいちだったりする。


「それはどうだ?」

「……少ししっくりきません」

「あぁ。確かにちょっと太過ぎるかもしれねぇな」


 私はこれまで、様々な剣を握ってきたわけではない。ペンダントの剣と訓練用の木製の剣くらいしか手にしたことがない。


 だから、気づかなかった。

 握りづらい柄がこんなにあるなんて、知らなかった。


「じゃあ次はこれだ。持ってみな」

「はい……あっ!」


 店員の男性から受け取った瞬間、落としそうになる。


「あぁ? どうした?」

「これ、滑って落としそうです」

「だろうな。それは柄に、スベスベイガーの皮を使っている。ま、脂っこい手のやつには人気なんだがなぁ」


 今さらだが、やはり、ペンダントの剣が一番だ。

 慣れているからかもしれないけれど、ペンダントの剣の持ち手が一番握りやすい。


「スベスベイガーは、女の滑らかな肌にはちょっと合わなかったみてぇだな!」

「はい。どうしましょうか……」

「あ! 良いのを思い出した! ちょっと待ってろ!」


 急にカウンターの方へ駆け出す店員の男性。


 良かった、善良そうな人で。

 私は密かに安堵する。


 男性は厳つい外見で口調も乱暴。けれど、行動からは優しさが見え隠れする。そして、時間をかけて私に合う剣を探してくれるところからは、熱心さがひしひしと伝わってくる。


 カウンターの向こう側で座り込み、がちゃがちゃ音を立てながら何かを漁ること、数十秒。


「あった!」


 男性は声をあげる。

 それから、彼は再び、こちらへと歩いてきた。


 その手には一本の剣。


 革製の鞘に収められて刃は見えないが、持ち手は黒く、硬そうだ。


「これを握ってみな!」

「あ、はい」


 差し出された剣を受け取り——ハッとする。

 妙にしっくりくる持ち手だったのだ。

 最初目にした時に思ったのは当たっていて、硬めの柄だった。けれど、それが案外持ちやすくて。悪くない握り心地だ。


「これ、良いわね!」


 私は思わず叫んでしまった。


「おぅ! それなら女の手にも合うはずだ!」

「気に入ったわ! ……あ、でも、高いかしら」


 高価なものだったら購入できないかもしれない。


「これか? これなら大体、二千イーエンだな!」

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