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あなたの剣になりたい  作者: 四季
12.街へのお出掛けと、交差する運命
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episode.162 ペンとおじいさんと

 ミセ、デスタン、そして私。三人で馬車に乗り、クレアへ出掛ける。

 エトーリアの屋敷からクレアまでは、歩くとそこそこ距離がある。しかし、馬車に乗ってしまえばすぐに着く。


「デスタンと馬車に乗れるなんて、嬉すぃーわぁ!」

「そうですか」

「デスタンも嬉しいわよねぇ? だってアタシたち、愛し合っているものねぇ?」

「はぁ」


 隣同士に座るミセとデスタンは、そんな風に言葉を交わしている。純粋に仲良さそう、という感じではないけれど。ただ、心の奥底で通じあっているような雰囲気ではある。


「もーう! デスタンったら! どうしてそんなに冷たくするのぅ?」


 猫撫で声で言いながら、ミセはデスタンの片腕を掴む。しかもただ掴むだけではなく、頬を当ててすりすりしたりしている。


「ミセさん。必要以上に触れるのは止めて下さい」


 顔はミセの方へ向けず、視線だけを彼女に向け、淡々とした口調で述べるデスタン。彼の顔は本気で怒っている人間の顔ではなかったが、面倒臭くてうんざりしているという空気は漂わせていた。


「えぇー? どうしてぇ?」

「エアリ・フィールドに引かれています」

「そんなことを気にしてるの? デスタンったら、かーわいーい!」

「……勘弁して下さいよ」


 ミセが楽しそうで何より。


 ただ、絡まれるばかりのデスタンは少し気の毒だ。


 だが、この程度なら、放っておいても問題ないだろう。いざという時にははっきり物を言えるデスタンだから、敢えて私が口を挟むこともないはずだ。



 クレアに到着。


 まず向かったのは、ミセが「筆記具がある」と言って紹介してくれた店。


 山小屋のような外観で、窓は小さなものしかなく、外から中の様子を確認することはできない。それに、営業中という印もないから、営業しているのかどうかさえ怪しい。


「ここよぅ、デスタン! ここならペンがあるわぁ!」

「その話、本当ですか」

「えぇー。アタシのことを疑うのぅ?」

「いえ、念のため確認しただけです。では入りましょう」


 デスタンは落ち着いた様子で、店の扉のノブに手をかける。


 その姿を数メートル後ろから眺めながら、「よくここまで回復してきたなぁ」と、改めて感心する。一時はほぼ完全に動けなくなっていたのに、今では自力で歩けているのだから、驚くべき回復力だ。


 デスタンは扉を開けて店の中へ入っていく。ミセもそれに続く。一人取り残されてはいけないから、私も小走りで入店した。


 店内は静かだった。

 隅っこの椅子にちょこんと座っているおじいさんがいるくらいで、客らしき人は見当たらない。


 一番に店内に入ったデスタンは、そのおじいさんに声をかけに向かう。


「すみません。ペンをいただきたいのですが」

「ぬぅ……ペンじゃと……?」


 白髪のおじいさんは、眉をひそめながら、ゆっくりと腰を上げる。

 背は高くなく、ハートの描かれたニットのベストを着ているから、全体的に丸い形になって可愛らしい雰囲気だ。


「敢えて聞くことも……ぬぅ……ないじゃろう」


 おじいさんは、腰を曲げて丸くしながら、のろのろと歩き出す。デスタンは黙って、おじいさんの後を追う。


「ペンなら……ぬぅ……ぬぅ……ぬぬぅ……ほれ、この辺じゃ」


 デスタンはおじいさんを追い、ミセはデスタンを追い、私はそんなミセの背を追う。いつの間にやら、私たちは連なってしまっている。


 ゆっくりとしか動けないおじいさんが示した辺りには、確かにペンがあった。


 木のテーブルに、箱に入った高価そうなペンがいくつか並んでいる。そしてその脇には、安そうな見た目のペンがたくさん置かれているコーナーもある。


 高価そうなペンが一つ一つ丁寧に箱に入っているのに対し、安そうなペンはマグカップに十五本くらいが入れられている。しかも、種類ごとにまとめられているということもない。マグカップに適当に突っ込んだ、という感じの置き方だ。


 それからしばらく、デスタンはペンを色々見ていた。


 何を見ているのだろう?

 私にできることはあるだろうか?


 少しそんな風に考えたりもしたが、手出ししないでおくことに決めた。

 余計なことをしてしまってはいけない、と思ったから。


 ——それから十分ほど経過して。


「ペンの購入、終わりました」


 デスタンは紙袋を手に、そんなことを言ってきた。

 彼に一番に駆け寄るのはミセ。彼女はデスタンの手から紙袋を素早く奪い取り、「アタシが持つわぁー」と甘い声を発していた。


「もういいの?」

「はい。いくつか買えました」

「それは良かったわね」

「はい。次は貴女の剣ですね」


 私たち三人はそそくさと店を出る。

 空は晴れていて、雲一つない。ただ、日差しはさほど強くなく、暑さもそれほど感じない。過ごしやすい日だ。


「ミセさん、剣を売っている店への案内をお願いします」

「良いわよぉー! アタシ、デスタンのためなら何でもするわぁ!」


 ミセはクレアで暮らしていたわけではないはず。しかし、何気に、クレアに詳しい。


「ミセさんが街に詳しくて助かります」

「デスタンに会いに来るついでに、色々見たりしてたのぅ! だから段々詳しくなってぇ!」

「そういうことだったのですね」


 ミセはデスタンの隣をしっかり確保している。


「ありがたいことです」

「デスタンの役に立てたら、アタシも嬉すぃーわぁー!」


 愛する人の横を歩けることが嬉しいのだろう、ミセの足取りは軽い。それに、顔つきも、日頃のミセのそれとはまったく異なっている。


 それにしても、二つ並んだ背中を見ながら少し後ろを歩くというのは、複雑な心境だ。

 二人が仲良くて嬉しいような、自分が仲間外れで寂しいような。


「店まではまだ距離がありますか」


 剣を買うべく足を動かしていると、デスタンが唐突に問いを放った。


「デスタン、もしかして、疲れたのぅ!?」

「いえ。ただ少し尋ねてみただけです」

「そーう? なら良いけどぉ……疲れたら言うのよぅ?」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 デスタンは、一応礼を述べてはいるが、その言い方はかなりあっさりしていた。感謝の心があるのかないのか分からないような口調である。


 それからも私たちは歩いた。

 ひたすら足を動かし続ける。


 こんな時、リゴールが隣にいてくれたら——そんなことを、つい考えてしまう。


 デスタンのこともミセのことも嫌いではないけれど、やはりリゴールがいないと寂しい。

 彼が傍にいてくれたら、四人で出掛けられたなら、きっともっと楽しく過ごせただろうに。

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