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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
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episode.159 三人揃って

 シンプルな軌道を描くように振った剣先が、カマーラの身を斬る。

 赤いものが舞い散るけれど、それにはもう慣れた。慣れとは恐ろしいと思いはするが、戦う時に感情を乱さずに済むのはありがたい。


「斬ラルェルナン……テッ……」


 カマーラは掠れた声を発しながら、その場に崩れ落ちる。


 しかし、一撃で仕留めることはできなかった。

 倒れたカマーラだが、まだ意識はあり、私が斬ったところを手で押さえながらゆっくりと立ち上がる。


「ヨ、良クモッ……!」


 カマーラは必死の形相でこちらを見てくる。

 それまでは少しコミカルな雰囲気の顔つきだったが、今は鬼のような顔をしている。


「ヒ、ヒゲダケト思ッテンジャネェーワヨ!」


 地鳴りのような低い声を発し、片手を体の後ろへ回すカマーラ。そうして取り出してきたのは、小型のナイフ。チャキンという鋭い音と共に、十センチほどの刃が飛び出す。


 ナイフを手に、駆け出すカマーラ。

 その視線の先にいるのは、私ではなくリゴールだった。


「……こちらですか!」


 リゴールは咄嗟に警戒体勢を取り、魔法を放った。が、魔法はカマーラには当たらない。壁に吸収されてしまうのだ。


「魔法は駄目よ! リゴール!」

「あ」


 私が叫んだことでカマーラには魔法が効かないことを思い出したのか、リゴールは、しまった、というような顔をする。


「テリャア!!」


 距離を詰めたカマーラが、ナイフを握った手を振る。


「くっ」


 防御のため反射的に出したリゴールの腕を、カマーラのナイフが傷つける。

 傷を受けたのは、恐らく、二の腕辺りだろう。ただ、袖もあるため、それほど深い傷ではなさそうだ。


「ナンダカーンダイッテ……ターゲットハ……王子様ナノヨネェー!」

「わたくし狙いなのは知っています」

「素早ク仕留ムェルワァ!」

「簡単には殺られません」


 至近距離で向かい合う二人。


 私はただ、見つめることしかできない。


 リゴールは魔法を使えない状態。相手は刃物を持っている。できれば援護したいところだが、今から走っても多分間に合わない。


「終ワリヨォーッ!」

「……参ります」


 リゴールは、ぎりぎりのところで素早く一歩下がり、空振りを誘う。


 そしてそこから——勢いよく本を振り下ろした。


「ナッ、ナンデッ……!?」


 ばしぃっ、という音がして、カマーラはその場にへたり込む。膝を伸ばしていることも、体を縦にしていることも、できない状態のよう。斬撃による傷のダメージも合わさってか、彼は既に限界に達しているようだった。


 それから数十秒。

 床に倒れたカマーラの体は、塵と化した。



 暫しの沈黙、その後。


「王子!」


 デスタンが一番に声を発した。


 彼は椅子から立ち上がると、リゴールに歩み寄っていく。

 歩く速度はあまり速くない。ただ、足取りはだいぶしっかりしてきているように感じる。


「デスタン。……支えなしで歩いて平気なのですか?」


 リゴールはデスタンを気遣う。


「そうではありません。王子、なんという無理を」

「え?」

「今のような無茶な戦闘、もう行ってはなりません」


 どうやら、デスタンの方もリゴールのことを気遣っていたようだ。

 鏡に映したかのような、よく似た二人である。


 デスタンはリゴールの片腕を掴み、きょとんとしているリゴールを余所に、その袖を捲る。そうして露わになったリゴールの腕には、赤く滲んだ切り傷に加え、叩かれたような腫れもあった。


「すぐに手当てします。が、今後はこのようなことがないようにして下さい」


 デスタンは淡々と述べる。

 それに対し、リゴールは静かに言い返す。


「……それは無理です」

「王子?」

「怪我を恐れているようでは、真の意味で強くはなれません。ですから、わたくしは決めたのです。怪我など恐れはしないと」


 落ち着いた調子で返すリゴールを見て、デスタンは驚きと戸惑いが混じったような表情を浮かべる。だがそれは束の間で。すぐに無表情に戻り、そっと口を開く。


「変わられましたね」


 デスタンの物言いは、親のようだった。


「……そんなことないですよ」

「いえ。変わられました。私が知らないうちに……貴方はとても(たくま)しくなった」


 その言葉を聞いたリゴールは、顔に戸惑いの色を滲ませながら、自分の腕や体を見回す。


「……そうでしょうか?わたくし、逞しくなってなどいないように思うのですが……」

「そっちの『逞しく』ではありません」

「え? そ、そうなのですか? デスタンの言うことはわたくしにはよく分かりません……」


 どことなく呑気なリゴールを見て、デスタンは呆れたように漏らす。


「もう結構です」



 それからは少し忙しくなってしまった。

 というのも、この一件によって、しなければならないことが一気に増えたのである。

 リゴールの手当てはもちろんだが、床掃除や、赤いものがついてしまった衣服の洗濯もしなければならなくなり。バッサやミセが手伝ってくれたため比較的スムーズに進みはしたが、それでも結構な時間がかかった。



 その日の晩。

 私はリゴールに会おうと思い立ち彼の部屋へ行った。


 だが、そこに彼はおらず。


 次に可能性のありそうなデスタンの部屋へ行ってみたところ、リゴールの姿を見ることができた。


「リゴール。ちょっといい?」


 幸い、扉に鍵はかかっておらず。そのため、勝手に開けることができた。


「……あ! エアリ!」


 デスタンとベッドのところで何か話している様子だったリゴールだが、私に気づくや否や、てててと駆け寄ってくる。


「どうしました? エアリ」

「たいした用事じゃないんだけど……」

「構いませんよ! 何でも言って下さい!」


 リゴールは自ら私の手を掴むと、ベッドの方に向かって歩き出す。引っ張られる形になり、私もベッドの方へ向かう羽目になってしまった。


「もし良ければ、こちらへどうぞ!」

「え、えぇ……?」


 無邪気なリゴールはまだ良いが、真顔なデスタンの心が気になって仕方がない。彼は何を考えているのだろう、と、ついつい思考してしまう。


「さ、座って下さい!」


 リゴールはベッドに座るよう促してきた。

 これがリゴールの部屋のベッドなのなら何の問題もないが、デスタンの部屋のベッドだからすぐには座れない。


「これ……デスタンさんのベッドよ?」

「構いません! デスタンは、わたくしが言ったことで怒ったりはしません!」


 何だろう、その根拠のない自信は。


「ですよね? デスタン!」

「ベッドくらいなら構いません。王子のお好きなように」

「ほら! デスタンもこう言っていますから!」

「そ、そう……。なら座らせてもらうわ」


 デスタンのベッドに腰掛けるというのは少々違和感があるが、ひとまず座らせてもらうことにした。


 直後、リゴールは隣に座ってくる。


「お邪魔致します」

「狭いわよ?」

「では、わたくしは細くなっておきますね」


 こうして、デスタンの部屋に揃った私たちは、それから色々な話をした。

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