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あなたの剣になりたい  作者: 四季
1.巡り会いと、村での暮らし
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episode.15 話し方の違和感

「……なるほど。その女は無害だということですか」


 リゴールがひと通り説明を終えると、デスタンは静かにそう発した。その目つきは、先ほどまでとはまったく違う、大人しげなものに変わっていた。


「分かりましたか? デスタン」

「はい」


 デスタンの返事に、リゴールは胸を撫で下ろす。

 私も同じ心境だ。


 そんな風にほっとしていると、デスタンが小さく口を開いた。


「しかし、その女が剣を抜けたという話だけは理解できません」


 静かな声色で、表情も刺々しくない。そのため、攻撃性自体は、先ほどまでよりかなり下がっているように感じられる。


「王子は不思議だとお思いにならないのですか?」

「それは、わたくしもよく分からないところなので、それ以上突っ込んでこないでいただきたいです」


 リゴールは速やかにきっぱり返した。


 すると、デスタンはリゴールに問うことに諦めたようで、私の方へと歩み寄ってきた。

 唇に薄い笑みを浮かべながら。


 だが、その笑みが、逆に彼の不気味さを高めてしまっているように感じられる。


「な……何なの?」

「驚きました、なかなか興味深いところのある女のようですね」


 一応攻撃的ではなくなっているものの、いつ豹変するか分からないから、油断はできない。少し前まであれほど殺気を向けてきていたのだ、そう易々と気を許すわけにはいかない。


「王子を保護して下さったことは感謝しましょう。ありがとうございました。蛮族の多さで有名な地上界で王子が無事だったのは貴女のおかげですから、本当に感謝しております」


 いきなり毒を吐かれた。


 さりげなくこの世界に毒を吐いてくる辺り、彼は少々ひねくれているようだ。


 けれど、よく見ると、わりと綺麗な顔立ちをしていた。

 やや女性的な顔立ちだが、近くで目にすると、案外整っている。美しい女性、と言えば近いだろうか。知っている言葉で上手く表現するのは難しいが、彼の中性的な顔立ちは、妙に惹かれるものがある。


「王子ともあろうお方を自室に泊めるという度胸も素晴らしいですね」

「え……?」


 発言の意図が掴めず戸惑っていると、彼はふふっと笑みをこぼした。


「いえ。貴女が気になさることはありません。女は理解力に欠けている方が好まれる生物——そういうものなのでしょう?」


 あっさりと嫌みをぶちかまされてしまった。


「そういうものかしら……」

「地上界の男から聞いたことですが?」


 そこへ口を挟んでくるリゴール。


「デスタン! 貴方も地上の者と知り合いになったのですか!?」


 小柄なリゴールは、飛びかかるかのような勢いで、私たちの間に入ってくる。


「はい」

「この近くで!?」

「いえ。ここからは少し離れたところです」


 デスタンはリゴールの質問に静かに答えていく。


「うぅ、そうでしたか……」


 がっかりしたように身を縮めるリゴール。こうして肩を落としている彼は、まるで子どもである。


 ……いや、実際に子どもなのかもしれないが。


「住むところとこの世界のお金少しを手に入れました」

「なっ! デスタン、貴方、意外と有能ですね!?」


 リゴールに驚いた顔をされ、デスタンは目を細める。


「……そこを驚かないで下さい、王子」


 リゴールとデスタンは、恐らく主従関係といったところなのだろうが、凄く仲良さげだ。普通想像する感じより、よく喋っている。


 ただ、二人とも丁寧語で。

 そこがどうも気になって仕方がない。


「あの……ちょっといい?」


 どうでもいいことかもしれないが、一度気になり出すと気になって仕方がないので、直接聞いてみることにした。


「何ですか? エアリ」


 素早く反応したのはリゴール。


「リゴールは誰にでも丁寧語なのね。こだわりがあるの?」

「いえ、特に……こだわりがあるということはありません」

「護衛の人にも丁寧語なのね」


 すると、リゴールは不安げに眉を寄せる。


「……おかしいでしょうか」

「おかしいかは分からないけれど、何だか不思議な感じがするわ。二人とも丁寧語を使っているから、少し、違和感があるの」


 私の発言を聞き、リゴールは身を縮めた。が、数秒後急に元気な顔つきに戻る。それから、胸の前で両の手のひらを合わせた。


「では! わたくしがデスタンに対する話し方を変えましょう!」


 すぐにデスタンの方を向くリゴール。


「良いですね?」

「なぜですか」

「えぇと、では……」


 リゴールが言いかけた、その時。

 窓の外で、何かが光った。



 直後、室内に凄まじい風が吹き込み——。



「ふはは! 見つけたぞ王子!」


 その言葉を聞き、私は、何が起きたのかを理解した。


 グラネイトが来たのだ。


 これで三度目。


 さすがにすぐに分かったので、私は、ベッドの陰に隠れて爆風から逃れた。

 それにしても、またしてもこの家に攻撃してくるとは。それも、前とほぼ同じパターンで来るなんて、信じ難い。


「グラネイト様が来てやったぞ。ふはは!」


 ……彼は少し、頭が弱いのだろうか?


「また貴方なの!」

「んん?」

「さすがにもう、すぐ分かったわよ! しつこいわ!」

「なっ……このグラネイト様に『しつこい』は失礼だろうっ!!」


 グラネイトと言葉を交わしつつ、リゴールの様子を確認する。彼の身は、デスタンが護っているようだった。その様子を見て、私は一人安堵する。


「調子に乗っていると、痛い目に遭うぞ!」


 そう叫び、グラネイトは右手の手のひらを私へ向けてくる。


 ——直後、火球のようなものが飛んできた。


 咄嗟にベッドの陰に隠れ、火球のようなものをかわす。私がかわした火球のようなものは、そのまま直進し、窓の反対側の壁に当たる。そして、爆発した。


「……爆発した!?」

「ふはは! そう、このグラネイト様の力は爆発を起こす!」


 グラネイトは誇らしげに述べる。


「今回は上から許可を得て来たのだ! 家を壊しても許される!」


 滅茶苦茶な理論だ。


「さぁ、王子を渡せ!」


 割れた窓から室内に入ってきたグラネイトは、ベッドの陰にいる私の方へ歩いてくる。なぜか、リゴールではなく私に寄ってきている。


「待って。リゴールを狙っているのなら、私に寄ってくる必要はないのではないの?」

「渡すと言え」

「……へ? な、何よ! どうして私なのよ!」


 グラネイトの言動は理解不能だ。


「王子を渡せ!」

「ならリゴールの方へ行きなさいよ! 間違ってるわよ、貴方!」

「許可を取る必要があるだろう!」


 何が何だか、よく分からなくなってきた——その時。


「ぐはぁっ!」


 グラネイトの体が、予期せぬ方向へ飛んだ。

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