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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
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episode.158 ミントカラーのヒゲとの激突

 突然現れたミントカラーの髪とヒゲが特徴的な男性は、カマーラと名乗っていた。


「ひ……ひぃ……」


 女性はカマーラを恐れているようで、リゴールに護られているにもかかわらず、まだ震え続けている。顔の筋肉は強張り、声は甲高くなり。まさに、恐怖に満ちた人間、といった感じである。


「大丈夫ですから、下がっていて下さい」

「は、はい……」


 そんな彼女を後ろへ下げて、リゴールは視線をカマーラへ戻す。


「一般人を脅すような真似、してはいけませんよ」

「王子様カッコイイワネェ。スグォーク気二入ッタワ」


 リゴールは真剣な眼差しを向けながら注意しているのだが、カマーラは注意を受けている者とはとても思えないような言動。


 どことなくずれている。

 話の流れが普通でない。


「好ミダクァラ、特別! マーラ、ッテ呼ンデイーワヨゥ!」


 しかも、そんな親しみを持っているようなことを言いながらも、顎髭を振るう。


 ミントカラーのヒゲは二股に分かれており、それぞれが別の動きをしている。それも、重力に支配された動きではない。カマーラ自身が意識して動かしている、というような動き方である。


 鞭のように動く顎髭による打撃を腕で防御し、その場で立ち上がるリゴール。


「この程度の打撃、わたくしでも防げます」


 リゴールは本を取り出し、開いて右手で持つ。

 そして、「参ります」の小さな声と共に、黄金の輝きが放たれる。


 だがカマーラは慌てなかった。


「魔法ヘノ対策ハ、十分ヨゥッ!!」


 鋭く叫び、手のひらを上に向けた両手を下から上へとゆっくり動かす。見えない何かを持ち上げているかのように。


 すると、地面から、壁のようなものが現れる。

 色は、やや緑みを帯びた透明。大きさは、前から見てカマーラの体がすべて隠れるくらい。


 その壁のようなものは、リゴールが放った黄金の光をものの数秒で吸収した。


「なっ……」


 リゴールの顔が僅かに強張る。


「驚イテルミタイネ! マ、無理モヌァイワァ! コレハ、コノカマーラの賢サノ証ダムォノ!」


 魔法を防ぎ、カマーラは勝ち誇った顔。

 誰よりも強いという自信がある、というくらいの顔をしている。


「……カァーラァーノォー」


 カマーラはウインク。

 そして、ヒゲでの攻撃。


「ハイハイハイッ!!」

「っ……!」


 蛇のように自由自在にうねるヒゲをかわすのは難しいらしく、リゴールは回避を試みていない。とにかく防御に徹している。腕を使い、時には本を使い、急所への命中を確実に防ぐ。そのスタイルは美しく見事なものではあるが、いつまでも続けられるとはとても思えない。


 こういう時こそ、力にならなくては。


 そう思い、ペンダントを掴んだ瞬間——目の前を何かが通過していった。


「アブゥッ!?」


 突如情けない声を発するカマーラ。


 何が起きたのだろう? と思い、彼の方をじっと見ているうちに、原因は何なのか判明した。

 フォークだったのだ、カマーラが変な声を発した原因は。


「駄目じゃない。可愛い男の子を虐めるなんて」


 いきなり口を挟んできたのは、ミセ。

 どうやら、彼女がフォークを投げ、それがカマーラに命中したということらしい。


「フォ、フォ、フゥオオクゥゥゥーッ!?」

「意地悪するのは駄目よ」


 ミセは堂々と言い放つ。

 そこに躊躇いは一切ない。


 暴力に訴えてきそうな相手にであっても、恐れることなく、自分の意見を述べることができる。それはとても凄いことだと、私は思う。もし私が彼女の立ち位置であったなら、今の彼女と同じような振る舞いはできなかっただろう。


「フ、フ、フザケテルンジャ、ヌァイワヨーッ!」


 カマーラはヒゲ攻撃の矛先をミセに移そうとする——が、その背中にリゴールが体当たり。

 予期せぬ体当たりに、カマーラは転倒する。


「ヘブッ!?」


 転んだ拍子に床で顔面を打ったカマーラは、赤いものがぽたぽたと垂れてくる鼻周りを片手で押さえながらも、勢いよく片足を振り上げる。


「くっ……は!」


 カマーラの蹴りが、リゴールの鳩尾に叩き込まれる。


「リゴール! 逃げて!」

「へ、平気です……」

「とても平気そうには見えないわよ!?」


 鳩尾に全力の蹴りを加えられたのに、平気なわけがない。

 それに、実際、リゴールは顔をしかめていたではないか。それなのに平気だなんて、もっとあり得ない。


「意外ト凶暴ナノネェ……!?」

「たまにはエアリに男らしいところを見せたいのです!」

「コッ……個人的な事情ゥ!?」


 どこから突っ込めばいいのか分からないが、色々なところがおかしい。


「スィカモ女ノタメトカ、腹立ツワァ!」


 カマーラは二股のヒゲでリゴールの腕をそれぞれ拘束。そして、腕の自由がなくなったリゴールを、二メートルくらいの辺りまで持ち上げる。


「覚悟ナスァーイ!」


 ……床に叩きつける気?


 嬉しそうな、勝ち誇ったようなカマーラの顔を見た瞬間、私はふとそう思った。


 二メートルの高さから床に叩きつけられたら、それは危険だ。死にはしないだろうが、打ち所によっては重傷になりかねない。


「リゴール!」


 胸元のペンダントを掴み、剣へ変化させ——ヒゲを断つ。


「ヌゥアニィーッ!?」


 カマーラはそれまでとは違う妙に低い声で叫んだ。

 垂直に落下してきたリゴールを支え、すぐに床に立たせる。


「大丈夫?」

「は、はい……ありがとうございます」


 リゴールは申し訳なさそうな顔をしながら礼を述べてくる。


「ごめんなさい。もっと早く援護すべきだったわね」

「いえ。わたくしが勝手に戦っていただけですので、気になさらないで下さい」


 控えめに微笑みかけてくれるリゴールは優しげで、見つめているだけで心が温かくなってくる。でも、まだ戦闘は終わっていない。ほっこりしている暇はないのだ。


 だから、改めてカマーラに視線を向ける。


 カマーラはヒゲを斬られたことにかなり動揺しているようだった。一人顎を触っては、「アタチノ可愛イヒゲチャンガァ」とか「ショートニナッチャッタワァ、酷ォイ」とか、独り言を漏らしている。


 動揺している時なら、まともに戦えはしないだろう。

 そう考え、私は前へ踏み出すことに決めた。


 両手で柄を握り——振る!


「イヤァン! 卑怯ジャナァーイ!」


 顎に集中しているように見えたのだが、カマーラは、斬撃にきちんと反応してきた。腕で体へのダメージを防いだのだ。


 ただ、シャツの袖は斬れている。剣での攻撃はあの壁に吸収されないみたいだ。


 そういうことなら、戦える。


「痛イジャナァーイ! アタチ、アンタハ嫌イヨォ!」

「……私も、リゴールを傷つける人は嫌いよ」


 嫌いで結構。

 好きと言われているより、戦いやすい。

 女性を脅し、リゴールを傷つける。そんな者はさっさと追い払ってしまいたい。カマーラはここには必要のない者だ。


「ナッ、生意気ナ女ァー!」


 真っ直ぐ迫ってくるカマーラに。


「……何とでも言えばいいわ」


 剣にて、一撃、加える。

 自ら突っ込んでくる相手を斬るのは、難しいことではなかった。相手の動きに工夫がなかったから、特に。

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