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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
158/206

episode.157 カードゲーム

 食堂へ到着。

 人の気配はあまりない。


 私たちは席につき、早速、リゴールがバッサから貰ったカードゲームで遊び始める。


 一、二、三、と数字が描かれたカードを使う。


 両者共に手札から一枚を出し、そこに描かれた数字の大きさを競い合うゲーム。

 裏向きにしたカードを並べ、その数字を当てるゲーム。


 ほんのり頭を使う内容が多いが、難しすぎるということはなく、ほどよい難易度。だから、さほど賢くない私でも十分楽しむことができる。


「ふぅ。意外と面白いですね」

「そうね」

「難しさがあるところがまた、何とも言えない刺激で、好きです……!」


 リゴールはご機嫌だ。

 表情は明るく、声は弾んでいて、とにかく楽しげ。


「もう一度やりましょう!」

「えぇ。今度は負けないわ」


 カードゲームは楽しく、日頃の憂鬱をすべて忘れさせてくれる。まるで雨雲を払う風のよう。たとえ束の間だとしても、暗い部分を忘れられる時間があるというのはありがたいことだ。


 分かっている、逃げていてはいけないと。

 理解している、目を逸らしてはならないと。


 それでも今は自由でありたい。目の前の対戦のことだけに意識を向けて、遊びのために思考して。


 たまにはそんな日があっても、罰は当たらないだろう。



 楽しさの中にいたら、あっという間に時間が経った。


「あぁ、疲れたー」

「え!? エアリは疲れてしまったのですか!? すみません!」

「……あ。そうじゃないのよ、リゴール。そういう『疲れた』ではないの」


 午前中だと思っていたのに、もう昼前。

 もうすぐ昼食の準備が始まる時間だ。

 一人で過ごしている時は一分一秒が長いのに、リゴールと遊んでいたら一瞬にして数時間が経過している。時の流れが常に一定だとは、私には思えない。


 そんなことを密かに考えていると、背後から声が飛んでくる。


「あーら! エアリとリゴールくんじゃない!」


 声に反応し、振り返る。

 そこに立っていたのは、デスタンとミセ。


 ……となると、先ほどの声の主はミセだろう。


「あ、ミセさん。こんにちは」


 ミセは面に華やかな花を咲かせている。しかも、大きく掲げた片手を振りながらの挨拶。とても機嫌が良さそうだ。


「エアリ、何だか楽しそうね! リゴールくんといい感じ?」

「少し遊んでいました」

「遊んで! それは良いわねぇ」


 ミセは明るい声を発しながら、私の隣の席に遠慮なく座ってくる。彼女に腕を絡められているデスタンは、少し不快そうな顔をしながらも、ミセの横に座っていた。


「ミセさんとデスタンさんはなぜここに? 昼食ですか?」


 無言というのも不自然かもしれないから、話を振ってみておく。


「アタシは付き添い! デスタンがご飯よ!」

「あ、そうなんですね」

「デスタンの世話をしなくちゃならないから、アタシも一緒に来たのよぅ」


 さりげなくデスタンとの距離の近さをアピールしてくる。


 ……主張しなくても、私はデスタンを奪ったりしないのに。



 リゴールとデスタンとミセ、四人がいる食堂で、私は昼食を食べる。


 今日のメニューは、白いパンにバター、カブのサラダ、酸味が利いたトマト風味のスープ。

 サラダにたくさん入っているカブのサクサクという食感は楽しく、かかっている垂れの胡椒みたいな香りも刺激的で好みに合う。


「デスタン! あーん!」


 ミセは、カブを刺したフォークをデスタンの口の前まで持ち上げ、恥ずかしげもなくそんなことを言った。


「……そろそろ自力で食べさせて下さい」

「そうねぇ、もう回復してきてるものねぇ。はい! デスタン、あーん!」

「……人前で食べさせられるのは恥ずかしいのですが」

「そうねぇ、もう大人だものねぇ。はい! デスタン、あーん!」


 デスタンが拒否しても、同じようなやり取りが繰り返されるだけ。今のミセには、食べさせることを止める気など微塵もないようだ。


「……私の話、聞いていますか?」


 平和。とにかく平和。


 もちろん悪いことではない。

 危機の荒波に揉まれ続けているよりずっと楽だし、精神的にも身体的にも安全なのだから。


「え? デスタンったら、どうしたのぉ?」

「もう自力で食べられます。食べさせていただかなくて結構です」

「それは良いことねぇ。はい! デスタン、あーん!」

「……勘弁して下さいよ」



 ——そんな時だった。


「きゃああああ!」


 突然響いた、鼓膜を破るような悲鳴。

 リゴールが真っ先に反応する。


「……何事でしょう」


 悲鳴は食堂内からではなかった。方向的に、恐らく、玄関の方からだと思う。あくまで私が個人的に考えたことに過ぎないけれど、でも、大きく間違ってはいないはず。


「少し見て参ります」

「待って! 私も行く!」


 椅子から立ち上がり歩き出すリゴールの背を追う。


「大丈夫ですよ、エアリ。わたくし、今は戦える状態ですから」

「でも一人は危険よ!」

「エアリを危険な目に晒すよりかはましです。ですから——」


 リゴールが言い終わるより早く、食堂に人が駆け込んできた。ちなみに、女性で、バッサと似たような服装をした人だ。

 全力疾走してきた彼女は、食堂に入るや否や転倒する。


「あの、どうなさったのです……?」

「た、た、助けて下さい!」


 リゴールが遠慮がちに声をかけると、女性は涙目で助けを求める。


「何かあったのですか?」

「そ、それが、訪問者の方が急に襲いかかってき……ひぃっ」


 女性が顔を引きつらせた瞬間、一人の男性が食堂へ入ってくるのが見えた。


 その人は——少し風変わりな人で。


 ミントカラーの髪に赤茶の瞳、シャツにハーフパンツというお坊ちゃんのような服装ながら、二股に別れた長い顎髭がおじさんらしさを醸し出す。


「ハロゥーン!」


 食堂へ入ってくるや否や、男性は、友人とふざける女子高生のようなテンションで挨拶してきた。しかも、ハイテンションなのは挨拶だけではない。両手を頭の上まで大きく掲げ、二本の腕を同時に左右に動かすという派手な動作も、常人とは思えない。


「あ、あの方が……その……ひ、ヒゲで……」


 リゴールに事情を説明する女性の声は震えていた。


「アラァ、チョーット反応ゥガ薄イワネェ」


 不気味な男性は不満げに漏らす。

 それから視線をリゴールらの方へ向け、叫ぶ。


「オシオキ!」


 ——瞬間、ミントカラーの長いヒゲが女性に迫る。


「あ、あれが……ひぃっ」


 リゴールは咄嗟に前に出る。怯える女性を庇うような位置につき、ミントカラーの長いヒゲによる打撃を肩に受けた。


「くっ……!」


 一瞬リゴールが負傷したらと心配になったが、彼は意外と平気そうにしていた。ヒゲの打撃力はさほど高くないのかもしれない。


「モウモウ! 庇ウナンテ、王子様カッコイイワネェ!」

「……玄関から来るのは、そろそろ止めてほしいのですが」

「睨ミカタモ素敵! カマーラ、惚ルェチャイソゥーヨ!」

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