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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
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episode.156 色気のない人生

 肥満気味の男性と交戦したあの日から、既に数日が経過している。

 あれから特に動きはない。

 私は個人的には、近いうちに彼と再び戦うこととなるかもしれないと考えていたのだが、案外そんなことはなかった。



 ——そんなある午前。


「そろそろ離して下さい」

「やーん、デスタンたら強気ー。かっこいいけどぅ、まだダーメッ」


 部屋を出てすぐのところで、何やら揉めているミセとデスタンを発見。


「もう一人で歩けますから」

「心配しなくても、アタシが世話してあげるわよぅ?」

「世話はそろそろ結構です」

「あらあら、照れてるの? デスタンったら、可愛いわぁ」


 白シャツに黒のシンプルなズボンという軽装のデスタンに、ミセがまとわりついている。


 ミセの積極さは安定だ。


 だが、デスタンの顔だけは、以前と変わっていて。ミセの家に住ませてもらっていた頃はいつも笑顔で対応していたデスタンだが、今は、渋い物を食べたかのような顔で接している。


「いい加減にして下さい、ミセさん」

「アタシ知ってるわ! 照れ隠しよねぇ!」

「……勘弁して下さい」


 私は一旦自室内へ引き返し、扉の細い隙間から二人の様子を窺う。

 うんざり顔のデスタンを観察していると、段々面白くなってきた。もちろん気の毒さもあるけれど、眺めている分には興味深い。


「世話になっておいてこのようなことを言うのも問題かもしれませんが……私も一人になりたい時はあります」


 デスタンはミセを振り切り、歩き出す——が、突然バランスを崩した!


 ミセが素早く支えに入る。

 おかげでデスタンは転ばずに済んだ。


「やっぱりまだ駄目ねぇー」

「……フォローには感謝します」

「あーら、ありがとうって言ってくれないのぉ?」

「……ありがとうございます」


 途端に、ミセはデスタンを抱き締める。


「やーん! 素敵!」


 ミセは妙なハイテンション。酒でも飲んだのか、と一瞬思ってしまったくらい、活発だ。声は大きい、動きは素早い。しかも元気そうだし、とにかく楽しそうだ。


 デスタンはついていけていないようだが、ミセはそんなこと欠片も気にしていない様子。

 ある意味良い組み合わせなのでは? と、少し思ったりした。


「やっぱりデスタンは、たまーに素直なところが素敵ね!」


 デスタンの右腕を両手で掴み、顔を近づけながら述べるミセ。その瞳は、普段より瞳孔が大きく見える。


「……少し運動してきます」

「運動!? 危ないわよぅー?」

「体力を回復させていきたいので」

「ならアタシも一緒に行くわぁー」


 私の部屋とは逆の方向に歩き出すデスタン。それを追い、ミセも足を動かし始めた。二人の陰は徐々に私の部屋から遠ざかってゆく。


 ついつい盗み見をしてしまったが、幸い、気づかれはしなかったようだ——そんな風に、密かに安堵している私がいた。



 デスタンとミセ、二人が離れていったことを確認してから、私は再び部屋を出る。

 そして、廊下を歩き出す。

 当てもなく機械的に足を動かしながら、私はぼんやりと考える。私にもいつかあんな日が来るのだろうか、と。


 思い返せば私は、わりと色気のない人生を送ってきた。


 村に年頃の異性がいなかったというのも一因かもしれないが、私自身、異性への興味や執着はあまりなくて。


 異性との接触は、リゴールと出会ってから急激に増加した。リゴール自体が男性だし、デスタンも男性だったから。


 けれど、男女ならではの関係性というようなものは経験せずだ。


 デスタンは他人の心を端から折って回るような性格で、基本的にまともな会話が成り立たない。

 一方、リゴールは、親と一緒に眠るような感覚で異性とも眠れるほどの純粋さ。心が穢れていないと言えば聞こえは良いが、世間知らずにも程がある。


 私が接する異性は、なぜか、変わり者ばかり。


 そんなことを考えていた時だ。


「あ! エアリ!」


 真正面から歩いてきたリゴールに声をかけられた。


「リゴール」

「おはようございます。体調はいかがですか?」

「……何その質問」

「定番の挨拶をしたつもりでしたが……おかしかったでしょうか?」


 リゴールは何やら小さな箱を持っている。


「ふふ。そうね。確かに、挨拶にはそういうフレーズをつけるわね」

「分かっていただけましたか!」


 リゴールの瞳が輝きに満ちる。


「えぇ。でも、改めて聞かれると何だかおかしな感じがするわね」

「そうでしたか……それは失礼しました」

「いいの。気にしないで」


 小さなことを指摘し責めているみたいで罪悪感があるため、話題を変えることにした。


「それよりリゴール。その箱は何?」


 片手で握るのにちょうどいいくらいのサイズ、紙製の箱。赤と黒のチェック柄がプリントされているが、模様はそれだけ。他には何も描かれていない。


「これですか?」

「えぇ」

「これはですね……実は! バッサさんからいただいたのです!」


 リゴールは明るい表情で答えてくれた。

 良かった、聞いて大丈夫なことだったようだ。


「カードゲームなるものだそうで、時間潰しにと、わたくしに下さったのです」

「へぇ。面白そうね」

「あ! では、せっかくですし、一緒に使ってみますか?」


 名案が生まれた時のような嬉しそうな顔をしているリゴールを目にしたら、こちらまで何だか嬉しくなってくる。


「やり方は分かっているの?」

「中に説明書が入っているそうですが……」


 それを聞いて安心した。

 何のカードゲームなのかは知らないが、説明書があるなら問題ないはず。


「なら良いわね! で、どこで遊ぶ?」

「そうですね……食堂はいかがでしょうか? 今ならエアリのお母様はいらっしゃらないので、気兼ねなく遊べます」


 一応エトーリアの目を気にしているところが微妙に笑える。


「それがいいわね」

「では、早速食堂へ参りましょう!」


 張り切って進み始めるリゴールの背中は、ただの少年の背中と大して変わらない。男と呼ぶには華奢で小さな背中である。

 こうしていると、リゴールは、特別な運命を背負った人物には見えない。


「……エアリ? どうかしましたか?」

「いいえ。何でもないわ」

「そうでしたか、なら良かったです」

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