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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
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episode.155 なんだかんだで平行線

 戦う気満々でドリと対峙するグラネイト。その後ろにいるウェスタは、上半身だけを僅かに起こした体勢でグラネイトの背中を見つめている。


「このグラネイト様の仲間に手を出したこと、許さん!」


 勇ましく叫ぶグラネイト。

 対するドリは、再び槍を作り出し、その柄をぐっと握る。


「そこまで必死になられるとは……もしや、恋心でも抱いているのですか?」


 ニヤリと笑みを浮かべるドリに、グラネイトは返す。


「そうだ! 恋心しかない!」


 はっきりと述べるグラネイト。

 躊躇いは一切なかった。


「情けないですね。恋心に支配され祖国を裏切るとは」

「いやいや! ウェスタのために裏切ったわけではないぞ!」

「情けないですよ……言い訳するなど!」


 ドリは槍を手に飛びかかる。

 グラネイトは片手を前へ出し、彼女の槍を掴んだ。


「言い訳ではないぞ! ふはは! 言い訳ではなく、事実だ!!」


 槍ごとドリを引き寄せ、その脇腹に回し蹴りを命中させる。

 ゴキ、と痛々しい低音が響いた。


「そしてこれは……ウェスタの分の仕返しだ! ふはは!」


 脇腹に回し蹴りを叩き込まれたドリは、状況を飲み込めていない様子で、きょとんとしている。そんな状態のまま、彼女の体は宙を飛び、木の幹に激突した。

 目の前に立つ者が女性であれば、それによって躊躇ってしまう男性もいるかもしれない。けれど、グラネイトにはそのような躊躇いは一切なくて。躊躇うどころか、本気で倒しにかかっている。


「そして!」


 幹に体を打ち付けられたドリは、悔しげに歯軋りをしながら立ち上がろうとする。だが、すぐに体を縦にすることはできない。


 その隙に、グラネイトは術を発動。

 小さな球体を出現させた。


 そして、それらを一斉に、ドリに向かって投げつける。


「しまっ……」


 ドリの焦りに満ちた声は、途中で爆発音に掻き消された。

 ぼん、ぼん、と、丸みのある爆発音が何度も響き、辺りは煙に覆われる。


「ふはははは! グラネイト様、最強の一手!」


 刹那、反対方向から矢が迫ってきた。


 ——が、グラネイトは気づいていたようで。


「隠れて仕掛け、気づかれているとは、かっこ悪いにもほどがあるぞ!」


 グラネイトは挑発的な言葉を発しながら、片腕であっさり矢を払い落とす。


「来るなら直接来い!」


 だが、誰も出てこない。

 出てくる気はないようだ。


「ふはは! さすがにここで出てくる勇気はないようだな!」


 グラネイトは改めて、ドリの方へと視線を向ける。


 その直後、煙の中から、槍を持ったドリが抜け出てきた。


 ドリは先ほどの爆発で少しばかり傷を負ったようだ。衣服はところどころ焼けたようになっていて、穴が空いている箇所まである。また、そこから覗く肌も汚れていて。酷いところだと、軽く血が滲んでいるところまであったりする。


 それでも、彼女は諦めていない。

 止まりそうにない。


「ふはは! まだ動けるとは、見上げたものだ!」

「あたしは止まりません……!」


 戦闘体勢を取るグラネイトと、勇ましく攻めにかかるドリ。向かい合う二人の姿を、ウェスタは不安げに見つめている。

 振り回し、突き出し、薙ぎ払い——ドリは槍を豪快に操り、攻めの姿勢を崩さない。


「ふはは! 百二十点のやる気だなっ!!」

「やる気なんてどうでもいい。とにかく、負けるわけにはいかないんです……!」


 ドリの表情は真剣そのもの。しかしグラネイトの表情は真逆。彼は余裕の顔つきだ。そして、言葉の発し方も、冗談を言っているかのような軽い雰囲気である。


「家族の生活がかかってるんです……!」

「そうかそうか! 家族は大事だな!」


 言って、グラネイトはドリの槍の柄を掴む。

 彼女の手から槍を奪い取った。


「……だがな」


 奪った槍を後方へ放り投げ、拳をドリに向かわせる。


「グラネイト様も、将来の家族のために必死なのだ」


 ドリは咄嗟に身を捩る。

 しかし間に合わない。


「ふはははは!」


 グラネイトの拳がドリの胸元に突き刺さった。


 それだけではない。

 パンチの命中と共に、爆発が起こる。


「そんっ……な……」


 術の威力も加わった打撃を受けたドリは、かなりの距離吹き飛ぶ。


 そして、やがて、地面に落ちた。


 その時既にドリは動かなくなっていた。立ち上がろうと試みることさえ、もうしない。抜け殻のように横たわるだけだ。


 ドリが戦闘不能となったことを確認したグラネイトは、急に大きな声を発する。


「グラネイト様、圧倒的勝利ィ!!」


 一言はっきり述べてから、くるりと振り返り、ウェスタの方へと駆けてゆく。


「生きてるか!?」


 駆け寄り、しゃがみ込み、ウェスタの手を取るグラネイト。


「……見て分からないの」

「いや、分かる! だが、死にかけの生きてるかもしれないから、一応聞いただけだ!」

「……そう」

「もう大丈夫だぞ! ふはは!」

「……うるさい」


 ウェスタは不満げな顔。

 しかしグラネイトはちっとも気にしていない。


「すまん! だが好きなのだ!」

「そういうのは要らない」

「ばっさりィ!? ……い、いや。それでも心は変わらない……」


 若干心を折られながらも、グラネイトはウェスタの体を抱き上げる。唐突に持ち上げられたウェスタは驚き戸惑った顔をするけれど、その程度のことに反応するグラネイトではない。


「好きだ!」

「……いいから下ろして」

「ふはは! それは無理だ!」


 グラネイトはウェスタを抱いたまま、場所移動の術を使った。



 小屋の中へ戻るや否や、グラネイトはウェスタを横たわらせる。


「すぐ手当てするからな!」

「……要らない」


 ウェスタは強がり、自力で上半身を起こす——が、途中で崩れ落ちてしまう。


「くっ……う」

「待て待て! 無理をするな!」


 無理矢理上半身を起こそうとして、痛みに顔をしかめる羽目になったウェスタ。そんな彼女の背を、グラネイトは優しく擦る。


「動くんじゃない、ウェスタ」

「……このくらい」

「駄目だ! 動くな!」


 珍しく命令口調で発するグラネイト。

 ウェスタは動揺したように目を見開く。


「すべて一人で解決しようとすることはないぞ、ウェスタ。今はこのグラネイト様が傍にいる。だから……」


 グラネイトが言い終わるより早く、ウェスタは放つ。


「かっこつけるな、気持ち悪い」


 なんだかんだで平行線な二人だった。

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