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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
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episode.154 地獄へ

 木で造られた、小屋のような建物。

 その玄関の前にドリはいる。


 長い髪を風になびかせながら、扉をじっと見つめて立っている。


 建物の周囲は木々が生えているが、人の気配はまったくと言っていいほどにない。その辺りにいるのは、ドリ、彼女一人だけ。


「……よし」


 やがて彼女は、一言、決意を固めたように呟く。

 そして、木でできた扉をノックする。


 ——待つことしばらく。


 扉がゆっくりと開き、隙間からウェスタの顔が覗いた。


「何か」


 ドリの顔を見たウェスタは、静かな声でそう尋ねた。

 ウェスタは警戒心を露わにしながらドリを見る。しかしドリは、動揺を何とか抑えて、笑みを浮かべる。


「あの……少し構わないでしょうか?」


 ドリは控えめに発する。

 しかしウェスタは怪訝な顔を止めない。


「何者?」

「え、えっと……その、実は……ここから少し離れた村に住む者です」


 ドリは答えを何とか絞り出す。


「そう。それで、何か用」

「実はその……少し、お力をお借りしたいのです」


 胸の前で両手の手のひらを合わせ、気が弱い娘のように振る舞うドリ。


「悪いけど、力を貸す気はない」

「そこを何とか! お願いします……!」


 ドリは懸命に頼む。頭を下げることさえ躊躇しない。


 ——数十秒後。


 必死なドリを見て心を動かされたのか、ウェスタは扉をさらに空け、一歩建物の外に出る。


「……分かった」


 紅のワンピースを着たウェスタは、外へ出ると、すぐに扉に鍵をかける。

 それから、改めてドリの方へ視線を向けた。


「ただし、すぐに済ませて」

「は、はい……! ありがとうございます!」


 ウェスタは警戒心が薄い方ではない。

 そのため、まだ完全に警戒することを止めてはいない。


「では、こちらへ……!」

「分かった」


 ドリとて馬鹿ではないから、かなり警戒されているということには気がついている。それでもドリは、行動を止めない。

 というのも、それが自身の役目だからだ。


 彼女は真面目。だから、厳しい状態であってもすぐに投げ出したりはしない。



 それからしばらく歩いても、村は訪れない。それどころか、歩けば歩くほど木々が増えてくる。


「これは一体……どういうこと」


 不自然さを感じたウェスタは、険しい顔つきになりながら、前を行くドリに問う。しかしドリは何も返さない。ドリは、ただ前だけを見つめて、淡々とした足取りで歩いていく。


「一旦止まって。問いに答えて」

「…………」


 返事がないことをおかしく思ったウェスタは、ついに、前を行くドリの片手首を掴む。

 ようやく振り返るドリ。


「問いには答えて」


 ウェスタに冷ややかに言われ、ドリは戸惑ったような顔をする。


「えっと……あの、なぜ怒っていらっしゃるのでしょうか……?」

「いいから、問いに答えて」

「は、はい。もちろんです。それで、問いとは……?」


 動作は小さく、言葉選びは丁寧。ドリはまだ、控えめな娘を演じ続けている。今のドリを見てブラックスターの手の者と気づく者は少ないだろう。


「村に向かっている?」

「いえ、今は……」


 言いながら、ドリは片手を背中側へ回す。そして、そこで小さく、指をぱちんと鳴らした。誰にも聞こえないくらいの微かな音。


「地獄へ」


 ——刹那、東の方向から矢が迫る。


 ウェスタの右腕、二の腕の辺りに、矢が掠る。


「……っ!」


 迫る矢の気配に素早く気づいたウェスタは、即座に移動した。だから刺さりはしなかった。だが、避けきることはできず、掠る程度の命中という結果になった。


「敵……?」

「直接的な恨みはありません」


 ウェスタが矢を受け動揺している隙に、ドリは右腕を横へ伸ばす。すると、その手のひらの辺りに、一本の槍が現れた。ドリはその槍を握り、構える。


「けれど、任務なので」

「……ブラックスターか」


 上体の位置を微かに下げ、戦闘体勢に入るウェスタ。


「そうです。我々は、裏切り者を許しません」

「いずれこうなるとは思っていた……」

「分かっていながら裏切るとは、良い度胸です」


 ドリは槍を手に仕掛ける。しかし、ウェスタの瞳はドリの動きをしっかりと捉えていて。そんな状態だから、ドリの攻撃が上手く決まることはなかった。


 だがそれでもドリは諦めず、攻めの姿勢を保っている。

 対するウェスタは、手足による物理攻撃と炎の術を使い分けて戦う。


「さすがにやりますね」


 ドリはウェスタの強さを認めているが、だからといって攻撃の手を緩めたりはしない。


「……去れ」

「それはできません」


 二人が交戦するその場所に、時折矢が飛んでくる。


 ラルクの援護だ。


 コントロールは完璧。一切隙のない矢で。

 だからこそ、敵味方が共にいる場所に向けてでも、躊躇することなく矢を放てるのだろう。


「ここで仕留めます」


 自身に言い聞かせるようにそう述べた瞬間、ドリの目の色は変わった。そこから、彼女の動き方は大きく変貌する。速く正確な攻撃を繰り出すようになった。


「くっ……」


 ウェスタは顔をしかめる。


 これまでは完全に互角の戦いだったが、ドリが真の力を発揮し始めたことによって、戦いは「ドリに有利」に動き始めた。


 それに気づかないウェスタではない。

 だからこそ、ウェスタはまともに戦うことを放棄した——つまり、逃げる方向に変えたのである。


「逃がしません!」


 けれど、今は、逃げることさえ厳しいような状況で。


「はぁっ!」


 ドリが突き出した槍の先端が、ウェスタの脇腹に命中した。


「あっ……」


 脇腹を槍に抉られたウェスタは、掠れた声を漏らし、その場に倒れ込む。立ち上がることはできず、しかし、首から上だけを持ち上げてドリを懸命に睨む。


 そんなウェスタを蹴り倒し、仰向けに倒れ込んだ彼女の胸に向かって槍を下ろすドリ。


 ウェスタは力を絞り出し、槍を蹴り飛ばす。


 それで何とか命拾いした。

 しかし、立ち上がることができない。


「もう終わりです」

「く……」


 ドリに見下ろされているウェスタの顔に諦めの色が滲んだ、刹那。


「おりゃぁあぁあぁーっ!!」


 突如、大声が響く。


 そして数秒後。

 ドリは後方に飛ばされた。


 ウェスタを護るように立っていたのは、グラネイト。


「グラネイト……」


 何の前触れもなく現れたグラネイトを目にし、ウェスタは愕然としている。


「無理をするな! ウェスタ!」

「……すまない」

「分かればいい! 安心しろ、後はこのグラネイト様がぶちのめしてやる!」


 百合の柄の奇抜なシャツを着用したグラネイトは、戦う気に満ちた顔をしている。


「だからウェスタは、生きることだけを考えろ。いいな?」

「……分かった」

「間違っても死ぬなよ!? ウェスタが死んだら、グラネイト様も追って死ぬぞ!?」

「……重い」

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