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あなたの剣になりたい  作者: 四季
11.次なる刺客と、皆の交戦
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episode.151 ふくよかな

 ふくよかな男性は、一見、とても温厚そうだ。しかし、素手で口元を押さえてくる辺りから考えると、温厚な善人というわけではないのかもしれない。


「は……離してっ……」


 口元を手で押さえられるという異常事態。そこから何とか逃れようと、私は、勇気を振り絞り言ってみた。

 だが、それは無意味で。


「黙っていて下さいー」


 ただそう言われただけで終わるという、悲しい結末を迎えることとなってしまった。


「一つ尋ねて良いですかぁー」

「な、何をっ……」

「リゴール王子という者は今ここにいますぅー?」


 その問いに、唾を飲み込む。


 リゴールはこの屋敷にいる。だが、それをここで明かして大丈夫なのだろうか。


 ……いや、恐らく明かすべきではないだろう。


 もしここで私が「リゴールはいる」と言ったなら、男性は、リゴールのところを目指すのだろう。そして、リゴールに何かしらの危害を加えるに違いない。


「……さぁね」


 そんなことはさせられない。

 リゴールを狙いそうな者には、最大の警戒を。


「それは、いるということですかぁー?」

「どう思う……?」

「個人的には、いると思いますよぉー。いないのなら、いないとはっきり言えるはずですからねぇー」


 いる、と明言はしないでおいたが、男性は勝手に、「リゴールはいる」と確信していた。

 単なる勝手な確信なのかもしれないが、もしかしたら、私の言動からそれを読み取れたのかもしれない。


 いずれにせよ、こんなことを続けるわけにはいかない。


 なんとかここを抜け出し、手を打たなくては。


「それもそうね……けど、考えさせるために敢えてそう見せているということも、あるのではないかしら……?」


 とにかく時間を稼ぐ。

 話題は何でも良い。男性の気を逸らせそうなことなら、内容は問わない。


 そして、考えなくては。


 どうやって切り抜けるかを。



 ——その時。



 私の背中の方、つまり屋敷の中側から、光が飛んできた。

 眩い光は、目にも留まらぬ速さで宙を駆け、私の口を塞いでいるふくよかな男性の肩に命中する。


「んんっ!?」


 男性はやや情けない声を発しながら、私の口から手を離す。その隙に動く。取り敢えず距離を取ろうと、私は後方へ数歩移動。ようやく、男性から逃れることができた。


「エアリに近づかないで下さい!」


 ふくよかな男性から離れるや否や、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。


 ——それは、リゴールの声。


 私は驚き、すぐさま振り向く。するとそこには、リゴールが本を片手に立っていた。それも、かなり険しい表情で。


「話は聞きました。貴方が会いたいのは、わたくしなのですね」


 よりによって、このタイミングでリゴールが。


「リゴール王子ですかぁー?」

「そうです」


 リゴールは迷いなく正体を明かし、私の方へ真っ直ぐに歩いてくる。

 そして、私の少し前で、その足を止めた。


「用があるのなら、わたくしに言って下さい」


 背はあまり高くなく、体つきは華奢。一歩誤れば少女と思われそうなほどに、繊細な腕や脚をしているリゴール。

 けれども、凛としている彼には風格がある。


「そうですねぇー。ではではぁー……」


 男性は片手で、頭に乗っかったピンクの帽子を整える。


 ——そして。


「早速殺らせていただきますぅー!」


 男性は、大きな声で発し、指をパチンと鳴らす。


 その瞬間。

 ふくよかな彼の前方すぐ近くに、謎の生物が二体現れた。


 人に似た二足歩行ながら、腰からは蜥蜴の尾のようなものが豪快に垂れ下がっている。また、肌の色は全体的に赤紫寄りの色みで、人間とは似ていない。キキキ、と鳴くその声が、必要以上に恐怖を掻き立ててくる。


「な、何あれ……」


 不気味な敵の登場に、動揺を隠せない。

 そんな私に気づいてか、リゴールは首から上だけで振り返り、声をかけてくる。


「下がっていて構いませんよ、エアリ」


 そう言って微笑みかけてくれるリゴールを目にしたら、激しく揺れていた心が徐々に落ち着いてきた。


「リゴール王子を仕留めるのですぅー!」


 ふくよかな男性は妙に甲高い声を発した。

 途端に動き出す、二体の謎の生物。


「来るわよ!」

「大丈夫です!」


 本を持った右手を肩から後ろへ引き、左手を前へ伸ばす。


 湧き上がる、黄金の光。

 向かってくる生物らに向かって、輝きは飛んでゆく。


 光の魔法の直撃を受けた蜥蜴のような生物たちは、しばらく狼狽え、しかしすぐに動き出す。


「行くのですぅー!」


 ふくよかな男性は叫ぶ。

 リゴールは勇ましく返す。


「そう易々と負けはしません!」


 今のリゴールは戦士だった。


 いや、もちろん、リゴールは今日もリゴールなわけで。線の細い少年であることに変わりはないのだけれど。

 ただ、それでも今は、リゴールが勇ましく思える。


 鋭い目つき。声の張り。

 それらによる勇ましさなのだろう、恐らくは。


「行くのですぅー!」


 リゴールを指差す、ふくよかな男性。


 二体は同時に動き出す。

 目標はリゴール。


 不気味な生物が迫るが、リゴールは怯まない。


「……参ります!」


 迫る敵は魔法で吹き飛ばし蹴散らす。

 ある意味、凄く痛快な光景と言えるだろう。

 小柄な少年が大きな体をした敵を撥ね除け続けているのだから、表現が相応しくないかもしれないが……華やか、と言っても過言ではないくらいだ。


「ふぅ。片付きました」


 蜥蜴のような尾を持つ二体を、リゴールはあっという間に沈めた。


「ぬぁ、ぬぁーあにぃーッ!?」

「さぁ。退いて下さい」

「退くわけにはいきますぇーん!」


 男性は、股を大きく開き、腰の位置を下げる。さらに、二本の足の膝にそれぞれ手を添える。その体勢で、男性は五秒ほどじっと停止。何をしているのだろう、と思っていると、急に両手を頭の上へ掲げ、一回拍手。パァン、と乾いた音を鳴らす。


 ——刹那。


 男性を取り囲むようにして、またもや謎の生物が現れる。


 だが、今度の生物は先ほどの生物とはまた違った種類だ。

 背筋はすらりと伸びていて両腕が桜色の翼のようになっている、そんな不思議な生物が六体ほど。


「ふぁふぁふぁふぁ! ふぇふぇふぇふぇ! 行くのですぅー!」


 肥満気味の男性は、謎の生物たちに指示を出す。

 すると、生物たちは、一斉にこちらへ向かってきた。

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