表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの剣になりたい  作者: 四季
10.揺れる心と、脱走者
139/206

episode.138 過度な触れ合いは、お断りします

「デスタンの周り、本当に色々あるのねぇ」

「はい」

「凄いわぁ。やっぱり美男子には陰があるのねぇ」

「陰しかありません」


 ミセは甘い声を発しながら、すぐ隣に座っているデスタンの片腕に、腕を絡める。また、体も密着させている。


 二人の時にいちゃつくのならば自由。

 それは二人の問題だから、デスタン本人が拒否しない限り、親しくするのは勝手だろう。


 だが、今は二人きりではない。目の前に私がいるのだ。知り合いとはいえ第三者がいる時は、もう少し遠慮がちに振る舞えないものなのだろうか。


 心の中にて愚痴を漏らしていると、ミセがちらりとこちらを見てきた。


「あーら。羨ましいのかしらぁ?」


 挑発的な目つきと言い方だ。


 私を悔しがらせたいのだろうが、そうはいかない。操り人形みたく、思い通りになってたまるものか。

 ミセの意のままになってたまるか、と、私は苦笑で流す。


「人の前では止めた方が良いと思います。ミセさん」


 淡々とした注意を放つデスタン。

 しかしミセは離れない。

 それどころか、より一層、デスタンに接近していっている。


「デスタンったらぁ、冷たぁーい! もっと仲良くしてちょうだぁーい!」

「嫌です」

「酷ぉーい。もっと優しくしてぇー」


 ミセは両手をデスタンの胴体に絡め、優しく抱き締める。また、デスタンの肩の辺りに頬を当て、すりすりする。


 ……これは一体、何を見せられているのだろう。


 ミセの方からの一方通行とはいえ、いちゃついている光景を見せられ続けるというのは、何とも言えない気分。私は、どのように反応すれば分からず、その妙な光景をただぼんやりと見つめ続けることしかできない。


「過度な触れ合いは、お断りします」


 デスタンは凛とした態度で触れ合いを拒む。が、その程度であっさり止めるミセではない。


「……仲良しね」


 異様に近い距離の二人を眺めていたら、半ば無意識のうちに漏らしてしまっていた。


 漏らしてしまった言葉に素早く反応したのはミセ。彼女は、デスタンに体をぴたりとくっつけたまま、妙に嬉しそうな顔でこちらへ視線を向けてくる。


 何も競っていないのに、彼女は勝ち誇ったような顔をしていた。


「いえ、仲良しではありません。世話になった恩があるため無理矢理引き離せないだけです」


 本当にそうだろうか?


 少し、疑問がある。


 デスタンのようにはっきりした性格の者なら、本当に嫌なら、無理矢理であっても逃れようとするのではないだろうか。


「……本当に?」


 こんなことを言ったら、デスタンの言葉を疑っているかのようで、彼に対して失礼になってしまうかもしれないけれど。


「当然です。私に何を期待しているのですか」

「いいえ。そうね……何度も聞いて、ごめんなさい」


 念のため謝罪しておくと、デスタンは素っ気なく「いえ」と返してきた。それから「ではこの辺りで、失礼します」と述べる。すると、その言葉を合図にするようにして、ミセがデスタンに手を差し伸べる。


「立つのねぇ?」

「はい」


 デスタンは、ミセの手や腕の力を借りつつ、徐々に腰を上げていく。

 十数秒ほどかけて起立した。


 ミセの行動はいつだって少し過激で。目を逸らしたくなるような時もあるし、控えるよう注意したくなるような時もある。


 けれど、彼女のデスタンを想う心は強いもの。

 彼女の愛は、広く深い海のようだ。


「では、これにて失礼します」

「もういいの?」

「はい。悪質な術や体調不良ではないようでしたから」


 悪質な術、て。

 そんなものがかかっていたら怖すぎる。


「心配かけてごめんなさい」

「いえ。それは王子に言って下さい」

「う……相変わらずね」


 私は言葉を詰まらせてしまう。

 すれ違いざまにいきなり殴られたような気分だ。


「でも、気にかけてくれてありがとう」

「いえ。私は何もしていません」

「そんなことないわ。わざわざ部屋まで来てくれたじゃない」


 するとデスタンは、呆れたように目を逸らす。


「……運動がてらです」


 その発言が、本当のことなのか、あるいは恥ずかしさを隠すための偽りなのかまでは、はっきりとは分からないけれど。


「そう! ……でも、そうね。運動は大切よね!」

「なぜ急に明るい顔になったのです?」


 言われてみれば、そうかもしれない。確かに、私は今、一瞬明るい気持ちになったような気がする。なぜだろう、理由は思いつけないけれど。


「ごめんなさい、分からないわ」

「そうですか。……ま、そうでしょうね。お気になさらず」


 秋風のように言い切り、デスタンは私の部屋から出ていった。もちろん、ミセに支えてもらいながら。


 彼が動けなくなった時、一時はどうなることかと思ったけれど、多少は回復してきたようで良かった。戦えるまで元通りにはならずとも、日常生活くらいは行えるようになった方が良いだろう。リゴールもきっと、回復を望んでいるはずだ。



 私はデスタンが徐々に動けるようになってきたことに安堵しつつ、扉を閉める。それから十歩ほど移動し、ベッドの上に寝転んだ。背中に柔軟な感覚。ただ、首もとにだけ違和感を覚えてしまう。その原因に気づくのに、四五秒かかってしまった。ちなみに、原因とは、首にかけていたペンダントの紐部分である。


 ペンダントを首から外し、体のすぐ傍にそっと置く。

 これで違和感は消え去るはず。


 それから私は、意味もなく天井を見上げる。しかしすぐに飽きてしまって。今度はそっと瞼を閉じた。


 ——その時。


 扉の方で、ガタンと大きな音が鳴った。

 私は飛び起きる。


 何かが倒れただけかもしれない。誰かが物を落としたりしただけかもしれない。

 けど、どうしても気になって。


 だから私は、ペンダントを再び首にかけて、扉の方へ向かった。


「何の音!?」


 扉を開け、廊下へ出て——愕然とする。


「……トラン」


 そこに立っていたのは、トラン。

 青みを帯びた髪の中性的な少年。


 そして、どのようにして侵入してきたのか分からぬ彼と対峙しているのは、デスタンとミセ。


「やぁ、君もいたんだね」


 トランはうっすら笑みを浮かべつつ、そんなことを言う。


「どうして貴方がここにいるの」

「やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ」


 いや、この状況でニコニコしているなんて普通不可能だろう。


「ボクは、外で偶然会った人から鍵を借りて、訪問しただけ」

「それは侵入と言うのではないの!?」

「違う違う。ただ、少ーし、お邪魔しただけだよー」


 トランの発言はどれも理解不能。


「……それで、何の用なの?」

「ボクが会いに来たのは君じゃなくて、そっちだよ」


 私の問いに静かに答え、片手で指差すトラン。彼の人差し指が示しているのは私ではなく——私より彼に近い位置にいる、デスタンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んで下さった方、ブクマして下さっている方、ポイント入れて下さった方など、ありがとうございます!
これからも温かく見守っていただければ幸いです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ