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あなたの剣になりたい  作者: 四季
9.危険な交戦と、黒の王妃
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episode.133 ゼロ距離攻撃

 巻き起こる土煙が、視界を曇らせる。


 ——刹那、黒い影が見えた。


「っ……!?」


 土煙から現れたのは王妃。

 思った以上に接近されている。逃げる余裕はない。


 どうする!? と思っていた時、突如、背後から片手首を掴まれ、後方に向かって強く引かれた。


 何事かと驚き戸惑っていると、リゴールが目の前に現れる。

 直後、王妃の鎌と黄金の防御膜がぶつかり、ガキンと硬い音が響いた。


「リゴール!?」

「エアリ! 無理はなさらないで下さい!」


 鎌による攻撃を防がれた王妃は、一旦鎌を消す。そして、長い脚で蹴りを繰り出した。リゴールは咄嗟に片腕を体の前へ出し、蹴りを防ぐ。が、少しばかり顔をしかめていた。


「大丈夫!?」

「平気です。エアリは下がっていて下さい」

「そ、そうね。分かったわ」


 一応返しておいたけれど、はいはいと大人しく下がってなんていられない。

 私は護られるためにここへ来たわけではない。リゴールの力になるために、ここへ来たのだ。リゴールの足を引っ張るための私ではないのだから、なるべく護られず、戦いたい。


 でも……。


 瞬間、視界の端に生物が入った。


 私は剣を振り上げる。

 白い光が生物を切り裂く。


 剣が斬った生物は脱力し、その場で崩れ落ちた。


「よし!」


 つい叫んでしまった。


 一体倒したというだけで、それは誇るようなことではない。けれど、私にとっては大きなことで。だから、妙に大きな声を発してしまったのである。


 しかし、ほっとしている暇はなかった。

 というのも、反対側からもう一体が迫ってきたのだ。


 生物は接近してきながら、片腕を振り上げている。私は咄嗟にそちらへ視線を向け、横にした剣を胸の前へ出す。


 駆ける、衝撃。


 生物の腕を振り下ろす攻撃は、何げに凄まじい威力で。けれど、剣はその攻撃を何とか防いでくれた。


 だがすぐに次の攻撃が来る。


 腕を振り上げる生物。


 私は剣を上から下へ振る。

 縦向きに走る白色の輝き。それは見た目以上の鋭さを持っており、生物の太い片腕を傷つけた。


 さすがに、倒すには至らなかったけれど。

 ただ、生物の動きは確かに鈍った。直前までとは、キレがまったく違っている。


 ——これならいける!


 珍しく、前向きな思考が湧いてきた。


 その勢いに乗り、剣を水平に動かす。生物は筋肉の豊富そうな腕でそれを受け止めた。が、すぐに切り替え、さらなる攻撃を仕掛ける。


 とにかく攻めの姿勢を崩さない。そう心を決めて。


 勢いのままに剣を振りながら、数メートルほど離れたところにいるリゴールを一瞥する。


 彼は王妃と交戦していた。

 二人は互角の戦いを繰り広げている。両者共に一切後ろへ下がらない、激しい戦闘だ。


 リゴールには魔法がある。それゆえ、易々とやられる彼ではないはずだ。王妃は肉弾戦に切り替えているが、現に、リゴールは上手く捌けている。


 だから大丈夫。

 可能なら、そう思いたい。


 けれど私には無理だ。どうしても、心配で仕方がない。


 ならどうするか?


 簡単なこと。

 目の前の敵をさっさと倒して、援護しに行けば良い。


 ……いや、実際には、目の前の敵を倒すこと自体が大変なわけだが。


 でも、迷っていては始まらない。今の私がすべきことは一つ、目の前の生物を倒すこと。まずはそれを達成しなければ、リゴールの援護へ移れない。


 飛ぶように駆け寄ってくる生物。私は片足を伸ばし、生物の足に引っ掛ける。生物はつまづき、バランスを崩す。


「邪魔しないで!」


 生物がバランスを崩している隙に、剣を叩き込む。

 腕力があまりない私の一撃ではさほどダメージを与えられないかもと思ったが、案外そんなことはなく。縦に真っ二つにすることができた。


「ふぅ……」


 真っ二つになった生物は、地面に崩れ落ちる過程で、黒いもやになって消滅した。


 私はすぐに、進行方向を切り替える。

 リゴールの援護をしなければ。その一心で、リゴールと王妃が交戦している方へと向かう。


「エアリ!?」

「ここからは協力するわ」


 少し呼吸が乱れているけれど、問題ない。多少は動ける。


「し、しかし……」

「大丈夫。二人でなら勝てるわ」


 王妃は大きな一歩で後退。

 私たちと王妃の間の距離は広がる。


「んふふ……もう倒しちゃったのね……」


 余裕の笑みを浮かべる王妃は、どことなく憎たらしい。だが、同時に美しくもある。彼女は、羨ましいくらいの美貌を持っている。

 また、あれだけ動いたにもかかわらず呼吸が乱れていないところも、なかなか凄い。


「……ま、いいわ。こちらとしても……操るものがない方が動きやすいもの」


 王妃は唇にうっすらと笑みを浮かべたまま、高いヒールで大地を蹴る。そして急接近。狙いは恐らくリゴール。私狙いではなさそうな動き方だ。


 それに対し、リゴールは、金の光を発生させる。

 湧き出した光は、ものの数秒で、いくつもの球体へと形を変えた。


 リゴールは左腕を真っ直ぐに前へと伸ばす。


 すると、大量発生していた直径三センチほどの球体が、一斉に宙を駆けた。

 もちろん、王妃に向かって。


 だが、王妃は光の嵐を避けなかった。


 雨のように降り注ぐ黄金の球体を腕で払いながら、直進。リゴールに迫っていく。


 その光景を目にした私は焦る。しかし、その焦りは五秒もかからぬうちに消えた。王妃を迎え撃つリゴールが、驚くほど冷静な表情だったからだ。


 腰を捻り、蹴りを放つ王妃。


 リゴールは小さく張った膜で防御。

 何とか身を護れはしたリゴールだが、落ち着く暇はない。というのも、王妃が今度は拳による攻撃を仕掛けてきたのだ。


 だがその拳に焦っているのは私だけだったようで。

 リゴールは本を持っていない方の手で、王妃の手首を掴んだ。


「……参ります!」


 一瞬、青い瞳が煌めいたように見えた。


 その直後。

 リゴールが掴んでいた部分から、煌めく黄色い光が迸る。


 その光はあっという間に大きくなり、やがて、目を傷めかねないほどの強い光へと変化してゆく。


 私は思わず、瞼を閉じた。


 瞼を閉じていても感じるほどの眩しさだ。

 しばらくして、光が収まったと感じてから、私はゆっくりと瞼を開く。


 視界に、リゴールと王妃が入る——そして驚いた。


 王妃がまとっている衣服が、ところどころ、豪快に破れていたからである。


「どうです! ゼロ距離攻撃は!」


 リゴールは凛々しい顔つきで、勇ましく言い放つ。

 王子という身分に恥じない、凛とした態度。容姿自体は何も変わっていないのに、まとっている雰囲気はいつもとはかなり違っている。

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