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あなたの剣になりたい  作者: 四季
9.危険な交戦と、黒の王妃
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episode.126 辛辣なお嬢ちゃん

「王妃……」


 私は思わず漏らしてしまった。


 先日交戦した時、彼女は胸元にリョウカの刀を受けていた。それも、掠ったという程度ではない傷で。それゆえ、しばらくは戦えないはずだったのだ。


 だからこそ、驚かずにはいられない。

 もう動けるようになっているなんて、想像できる範囲を遥かに超えている。


「んふふ……びっくりしたって顔ね……」


 怪しげな笑みを浮かべる王妃の背後には、男性兵士が控えていた。

 だが、急所に軽そうなプレートをまとっただけの軽装。顔つきからも、恐ろしさはさほど感じられない。恐らく、彼はただの兵士に過ぎないのだろう。


 そんな男性兵士に、王妃は告げる。


「もう良いわよ。んふふ……」


 だが男性兵士は首を横に振った。


「お供させて下さい」

「可愛いわね……けど駄目よ。許可できないわ」


 柔らかな声で、しかしはっきり言われた男性兵士は、肩を落としながら後ろへ去っていった。

 それから、王妃は改めて私たちの方を向く。


「んふふ……さて、誰から楽にしてあげようかしら」


 王妃から放たれる空気には、ただならぬものがある。表情自体は柔和であるにもかかわらず。


「歯向かうというのはどうもしっくりこない」


 独り言のように呟きつつ前へ出るのは、ウェスタ。


「まずはお嬢ちゃんね……んふふ。良いわ。すぐに消し去ってあげる……」


 ウェスタが数歩前へ出たのを見て、王妃は愉快そうに口角を持ち上げた。そして、闇から生まれたような黒の鎌を出現させる。


「大丈夫なの!? ウェスタさん」

「問題ない」

「怪我しちゃ駄目よ!」

「ホワイトスターの者たちは弱くて役に立たない……」


 いや、それは酷くない!?


 思わず叫びたくなってしまった。

 無論、実際に叫びはしなかったけれど。


「んふふ……お嬢ちゃん、意外と辛辣な発言をするのね……」

「本当のことを言ったまで」

「確か、お兄さんもそんな人だったものね。んふふ……」


 私やリゴールと同じくらいの位置に残っているグラネイトは、王妃と対峙するウェスタを不安げに見つめている。


「裏切ったのも……」


 王妃は鎌を構える。

 そして。


「血筋かしらね!」


 地面を蹴った。

 王妃は一瞬にしてウェスタに接近。鎌を大きく振る。


 ウェスタは即座に後ろへ下がり、鎌による攻撃を回避。すぐさま片腕を前へ伸ばし、帯状の炎を放つ。彼女の手から放たれるその炎は、宙を彩る可憐なリボン。


 帯状の炎が王妃に絡みつく。


 が、王妃はそれを、鎌を振って起こした風で払った。


 しかし、振り払うことによって隙が生まれた。

 ウェスタはそれを見逃さない。


 深く踏み込む。


 跳躍のごとき一歩。


 長い片足を振りかぶり、回し蹴りを放つ。


 咄嗟に鎌を前へ出し、ギリギリのところで蹴りを防ぐ王妃。だがそれも完全な防御には至らず。王妃の体は後方へ飛んだ。

 王妃の反応も決して遅くはなかった。いや、むしろ、人とは思えぬほどの反応速度だった。だがそれでも、ウェスタの蹴りの速度の方が勝っていたのだ。


「いける、いけるぞ! ふはは!」


 グラネイトは騒ぎ出す。


 確かに、ウェスタの方が有利そうな状況ではある。けれど、勝敗はまだ分からないのだ。そんな状況にあるのだから少しは緊張感を持つべきなのではないか、と、思ってしまったりした。


「……お嬢ちゃんのわりには、やるじゃない。やはり、貧しさを知る者ゆえの強さなのかしら……?」


 個人的には、あの回し蹴りをまともに食らっていながらすぐに体勢を立て直せる王妃もなかなかのものだと、そう思う。


 少なくとも私にはできない芸当だ。


「けどね、んふふ……そう易々とくたばりはしないわよ」

「今はただ、倒すだけ」

「あらあら……変ね。んふふ。会話になってないじゃない」


 ウェスタはさらに踏み込み、王妃との距離を縮めようとする——が、途中で足を止めた。


 私は、ウェスタがなぜ足を止めたのか、すぐには理解できず。しかし、しばらくしてから気がついた。

 王妃の構えがこれまでと違っていたのだ。


 足を開き、重心を下げ。そうして、鎌の先端が腹の前になるような位置で、鎌を構える。顔からは表情が消え、呼吸していないのではないかと思うほどの静寂を作り出す。


 そんな構え方を、王妃はしていた。


 これまでの戦闘時と構えが違うことは明らか。私にですら分かるほどの大きな違和感が、今この瞬間の王妃にはある。


 ——不気味。


 とにかくその一言に尽きる。


 ウェスタが接近するのを止めたのは、この構えを怪しく思ったからに違いない。

 私でさえ気づく違和感だ、ウェスタが気づかないわけがない。


 ウェスタは軽やかなステップで後退し、王妃から一旦離れた。そして片手を真上へ掲げる。すると、その掲げた手から、瞳の奥まで焼けそうな炎が溢れ出す。


「うぉぉい! ウェスタ! なぜ下がる!?」

「……馬鹿」

「なっ……グラネイト様が馬鹿だとッ……!? おいウェスタ、それはないぞ! 酷い!」


 グラネイトは王妃の構えの不気味さに気がついていないのかもしれない。


 敵であれば少し抜けているくらいがありがたいが、味方になるとその勘の悪さが不安でしかない……。


「んふふ……来ないのかしら」


 王妃は静かに、視線をウェスタへ向けた。


「仕掛けてこないのなら、こちらからいかせてもらうわよ……?」


 ——刹那。


 王妃は鎌を下から上へと豪快に動かした。

 人の背ほど縦の長さのある黒い刃が、私たちの方に向かって飛んでくる。


「ウェスタ!」


 グラネイトは、叫び、少し前にいるウェスタへ飛びかかる。


 ——結果、黒い刃はグラネイトの背に当たった。


 グラネイトの体は、刃を受けた衝撃で、ウェスタを抱き締めたまま数メートル横に飛んだ。それも、見えないくらいの勢いで。


「え」

「なっ」


 その光景を近くで見ていた私とリゴールは、ほぼ同時に声を漏らしてしまう。


他人(ひと)を庇うなんて……馬鹿らしいわね」


 刃を受けて倒れ込み動けないグラネイトと、彼の下敷きになりほぼ身動きが取れない状態のウェスタ。

 そんな二人を、王妃は嘲り笑う。


「ま、命中しただけ上出来……ここは計画を変更しようかしら」


 王妃が鎌を振り上げるのを見た瞬間、私は反射的に叫んだ。


「グラネイトさん! 避けて!」

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