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あなたの剣になりたい  作者: 四季
9.危険な交戦と、黒の王妃
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episode.125 痕跡を辿り行く

 破裂音に続き、煙が漂う。


 しばらくしてそれが晴れた時、目の前には少女が立っていた。

 十代前半くらいに見える背格好。灰色の髪は黒のリボンで結んでおり、包帯を巻いたようなデザインのワンピース。


 そして——黒い小型銃。


 見覚えがある。確か、彼女とは以前に一度交戦したことがある。この記憶に間違いはないはずだ。


「ハロー。裏切り者サン」


 少女は軽やかな足取りで近づいてくる。

 対するウェスタは、警戒心を隠すことなく、目の前の少女を睨んでいた。


「侵入者は王子とか聞いてたカラ、今、ちょーっと残念な気分なんだよネ」

「……それ以上、近寄るな」

「プププ。ごめんだケド……それは無理!」


 少女の指が引き金を引く。

 銃口から、灰色の弾が飛び出す。


 ウェスタは炎を宿した右手で、弾を払った。


「ウェスタさん、私……」

「構わない。後ろにいればいい」


 剣が使えたら戦えるのに——そんな風に思い、複雑な心境になっていた私に、彼女はそっと言ってくれた。


 少女は小型銃の銃口をこちらへ向けている。

 が、ウェスタは構わず直進していく。


「ぶっ飛ばしてやル!」


 次から次へと撃ち出される、灰色のエネルギー弾。しかしウェスタは、弾丸のことなど微塵も気にせず、真っ直ぐに駆けてゆく。


「……甘い」


 エネルギー弾をかわしながら少女に接近したウェスタは、ぽつりと呟き、振りかぶって蹴りを放つ。


 ウェスタの蹴りをまともに食らった少女は、数メートル後方の壁に激突。気を失った。


 少女は動かなくなった。が、ウェスタはまだ警戒しているようで、彼女は、倒れている少女にゆっくりと歩み寄る。それから少女の首を掴み上げる。


「待って! ウェスタさん!」


 私は咄嗟に叫んだ。

 ウェスタが少女を殺めるような、そんな気がしたから。


「何」

「彼女を殺す必要はないわ」

「……なぜ」

「無意味な殺生は控えた方が良いわ」


 ウェスタは数秒驚いたような顔をしたけれど、すぐに普段通りの冷ややかな顔つきに戻り、少女の首から手を離した。


「……後悔しても知らない」

「分かってくれてありがとう」

「問題ない。……それより、急がなければ」


 ウェスタは再び歩き出す。


「そっちで合っているの? 分かるの?」

「微かに、グラネイトの力の痕跡を感じる」


 私は何も感じない。否、感じられないのだ。グラネイトのものであろうが、リゴールのものであろうが、何も感じ取ることはできない。


「力を使った痕跡、ということ?」

「そういうこと」

「……そんなのが分かるのね。少し、羨ましいわ」


 力の痕跡。それを微かにでも感じ取ることができたなら、私も、きっともっと役に立てるだろうに。



 それからはずっと、闇の中を進んだ。


 ウェスタが選ぶのは細い通路ばかり。しかも、そのすべてが暗闇に近くて。ウェスタの作り出した炎は微かに闇を照らしてくれはするものの、それでも「薄暗い」程度。さすがに「明るい」には至らない。


 それはまるで、先の見えない旅のようで。途中、何度か挫けそうになったりもした。だが、その度にリゴールの顔を思い出すようにし、挫けるのを防いだ。


 リゴールに会う。

 そして、彼の傍にいる。


 ——それが私の願いなの。



 挫けそうになりながら歩き続けること、数十分。

 一枚の扉の前にたどり着いた。


 柄はなく、飾りもない、地味という単語の似合う扉。鉄製で黒く、縦長の四角。それ以外に表現のしようがないような扉だ。


 そんな扉の前でウェスタが突然立ち止まったから、戸惑わずにはいられなかった。


「ウェスタさん?」

「この先……気配がする」

「気配って、敵の? それとも、グラネイトさんの?」

「グラネイト」


 ウェスタは、小さな声で、しかしながらはっきりと答えた。


「ということは、リゴールかも一緒かもしれないわね!?」


 リゴールに会えるかもしれない!


 そう思うだけで、胸の内に立ち込めていたもやが晴れてゆく。


「落ち着いて。慌てても何の意味もない」

「そ、そうね……」


 また腕を捻られたりしたら大変なので、一旦、大人しく下がっておいた。


 ウェスタはほんの僅かな隙間から、扉の向こう側の様子を確認する。足を引っ張ってはいけないから、私は、その間ずっと、じっとしておく。


「……よし。行く」

「行くの?」


 確認すると、ウェスタは「黙ってついてくるように」と静かな声で指示してきた。それに対し、私は頷き「分かったわ」と返す。彼女に従っている方が上手くいくだろうと思うから。


 ウェスタが扉を開ける。

 そして歩み出す。


 私は恐怖心を抱きながらも、ウェスタの背を見つめて足を前へ出した。



「……グラネイト」


 立ち止まっているグラネイトとリゴール。その背後から、ウェスタがそっと声をかける。

 二人は警戒したように振り返り——私とウェスタの姿を見るや否や、顔に安堵の色を浮かべた。


「ウェスタ!」

「……何をしている」


 グラネイトは両手を大きく開きながら、ウェスタに寄っていく。今すぐにでも抱き締めてしまいたい、というような顔だ。


「心配して来てくれたのか? ふはは! ウェスタは優しいな!」


 大きく開いていたグラネイトの両腕が、ウェスタの体を包み込むように動く——が、ウェスタはそれを素早く回避。


 その結果、グラネイトは転びそうになっていた。

 無論、本当に転びはしなかったが。


 そんな風にドタバタしているグラネイトの後ろに立っていたリゴールは、驚きに満ちた表情で、震える声を発する。


「そんな……。エアリ、どうして……?」

「勝手に行ってしまったから心配したのよ」


 私は彼に接近する。

 しかし、私が近づいた分、離れられてしまった。


 ……正直、少しショックだ。


「どうして無茶な道を選ぶの。リゴール。こんな自殺みたいなこと、絶対に駄目よ。今からでも遅くないわ、帰りましょ」


 私は手を差し出しながら言った。だが、リゴールは少しも頷いてくれず。それどころか、彼は頭を左右に動かしていた。


「こればかりは譲れません」

「そんな、どうして……」

「申し訳ありません、エアリ」


 リゴールは妙に余所余所しい態度を取ってくる。


「これはわたくしの選ぶ道。エアリが相手でも、譲れはしません」


 友人どころか知人ですらないかのような振る舞いだ。

 なぜ彼がこのような態度を取るのかは分からない。もしかして「一緒来るな」とでも言いたいのだろうか。


「ですから、エアリは屋敷へお戻り下さい」

「そんなの嫌よ」

「屋敷で帰りを待っていて下さい」

「で、できるわけないじゃない! そんなこと!」


 感情的になってしまい、つい口調を強めてしまった——ちょうどその瞬間。


 コツン、コツン、という足音が聞こえてきた。

 四人の視線が、一斉に足音がした方へ向く。


「あらあら……んふふ。意外と大勢ね……」


 唐紅のさらりとした髪。色気のある顔立ち。そして、豊満な体。


 足音の主は、ブラックスター王妃だった。

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