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あなたの剣になりたい  作者: 四季
9.危険な交戦と、黒の王妃
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episode.122 決意表明?

 翌朝、私は数日ぶりに、リゴールとまともに顔を合わせた。


「おはよう、リゴール」

「あ、エアリ。おはようございます」


 廊下で私に気づいたリゴールは、丁寧に挨拶してくれた。しかし、その顔に元気そうな雰囲気はなく。顔全体の色みが暗く、しかも、目の下にはくっきりと隅ができている。


「リゴール、大丈夫?」

「え。……はい」

「何だか顔色が悪いみたいだけど」


 念のため言ってみておく。

 するとリゴールは、微かな笑みを浮かべる。


「ただの寝不足です。お気になさらず」


 単なる寝不足なら、よく眠ればそのうち回復するだろう。それならなんてことはない。案外、心配するほどのことでもないのかもしれない。


「本当に大丈夫なの?」

「はい。平気です」


 リゴールは穏やかに微笑むけれど、私には、それが心からの笑みであるとは感じられなくて。


「エアリも体調は大丈夫そうですか?」

「えぇ。……けど、少し寂しいわ。リョウカさんがいなくなって」


 デスタンが温かい言葉をかけてくれたおかげで、胸の痛みは少し緩和された。でも、痛みが完全になくなったかと聞かれれば、そうとは言えない。


「……それは、そうですね。リョウカさんは、多くを説明できない中でも味方して下さった貴重な方でしたから……」


 懐かしむように述べるリゴール。


「そんな人を殺めたのよ、私。どうしてこんなことになってしまったのかって……」


 暗い言葉を発するべきではない。

 特に、私よりもっと大きなものを背負っているリゴールには。


 そう思ってはいるのに、溢れるものを止めることはできなくて、ただただ唇が震える。


「……本当はあんなこと、すべきじゃなかった。剣を使うのではなく、術を解くことを考えるべきだったのね……」


 彼の前で暗い顔をしたくはなかった。なぜって、彼の方が日々辛い思いをしているはずだから。


 辛い思いを抱きながら生きている人に向かって、自分の辛さを主張するなんて、一番意味のないこと。

 だから、そんなことを言うべきではなかったのだ。本当は。


「いえ。わたくしはそうは思いません」

「……リゴール」

「もちろん、リョウカさんの死は悲しいこと。けれど、わたくしは、あの時のエアリの行動に感謝しています」


 リゴールはこちらへそっと歩み寄り、それから、「どうか、自身を責めたりなさらないで下さい」と声をかけてくれる。


「情けないことですが……エアリがいなければ、わたくしはあの場で斬られていたと思います。ですから、その……今こうして命があるのは、貴女のおかげなのです」


 リゴールは慰めてくれるけれど、慰められれば慰められるほど胸は痛くなる。上手く形容できない申し訳なさに襲われてしまって。


「……けど」

「いえ。本当に、エアリが気になさる必要はありません」

「でも……」

「エアリは何も気にしないで下さい!」


 突然鋭い調子で言われた。

 そのことに、私は戸惑わずにはいられなくて。


「……も、申し訳ありません。ただ、エアリは本当に、何も悪くなどないのです。わたくしが弱かったことが、あんなことになってしまった一番の原因です」


 廊下の真ん中にもかかわらず、空気は雨が降り出す直前のように重苦しい。

 そんな中、リゴールは無理矢理笑った。


「なのでわたくし、決意しました!」


 あまりの唐突さに、戸惑わずにはいられない。


「……決意?」

「はい! お母様に認めていただけるように、そして貴女にもう迷惑をかけないように、すべてに決着をつけようと決めました」


 急な決意表明。

 どう反応すれば良いのか。


 すべてに決着を、なんて、一般人であっても簡単なことではない。絡み合う多くの線の先にいる彼なら、なおさら、ややこしく難しいことになるだろう。


「ということで、ブラックスターへ行って参ります!」

「えええ!?」


 思わず叫んでしまった。

 リゴールはいきなり何を言い出すのか。理解不能だ。


「ど、どういうことよ!?」

「ブラックスターへ行き、すべてを終わらせます」

「ちょ、何!? 変よ、そんなの!」


 これはさすがに流せない。

 ブラックスターに行く、なんて。


「急にどうしたの、リゴール」

「え。なぜそのようなことを? 急にも何も、わたくしは最初から、今日ブラックスターへ向かうつもりでいたのですよ」

「え!? ちょ……えぇっ!?」


 衝撃のあまり、語彙力は失われ、まともな言葉を発することができなくなってしまった。


「駄目よ! そんなの!」


 混乱したまま、リゴールの右手首を掴む。

 リゴールは少し驚いたような目をしていた。


「……離していただけませんか」

「いいえ! ブラックスターへ行くつもりなら、離すわけにはいかないわ」


 ブラックスターには、リゴールの命を狙う者たちがいる。王や王妃、それに、その手下たちも。

 だから、そんな危険な場所にリゴールを一人で行かせるわけにはいかない。


 もし彼がそれを望んでいるのだとしても、それでも、一人でなんて絶対に行かせない。


 そんなことを許したら、デスタンに怒られそうだ。それに、私も、リゴールが孤独の中で傷つくことなど願っていない。


「エアリ……なぜ止めるのですか」

「当然じゃない。そんな無茶なこと、止めない方がおかしいわ」


 右手で右手首を、左手で左肩を。それぞれ掴んで、そのまま、リゴールの青い双眸をじっと見つめる。


「そもそも、どうやってブラックスターへ行く気?」

「一人うろついていれば、そのうちブラックスターの輩が現れるかと思いまして」


 実は計画をきちんと立てているのかも、と思い尋ねてみたが、返ってきたのはあまりに大雑把な計画だった。


 リゴールは狙われている。

 それゆえ、外で一人になれば襲われることは必至。

 それはそうかもしれない。


 否、きっとそうなるだろう。


 これまで一緒に暮らしてきたから分かる。

 間違いなくそうなる、と。


「待って、リゴール。そんな計画、いい加減過ぎよ」

「はい。それは分かっています」

「ならどうして……!?」

「それしかないからです」


 リゴールは落ち着いた調子で述べた。


「この先もエアリと共に暮らすには、今のままではいけない。そう思ったのです。これ以上迷惑をかけることがないよう、わたくしはブラックスター王と話してきます」


 控えめで、遠慮がち。それでいて、時には無邪気。そんないつものリゴールとは違う、静かで大人びた顔つき。そして、淡々とした口調。


 彼は本当にリゴールなの?


 そう言いたくなるような様子のリゴールを前に、私は言葉を詰まらせる。


「お願いです、エアリ。どうか放っておいて下さい」


 私が戸惑いのせいで何も言えなくなっている間に、彼は私の手を振り払った。しかも、手を振り払うだけではなく、歩き出してしまう。


「ま、待って! どこへ!?」

「……しばらく留守にすると、皆さんにはそうお伝え下さい」

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