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あなたの剣になりたい  作者: 四季
9.危険な交戦と、黒の王妃
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episode.118 平和的解決はもはや不可能

 鎌の先端が、喉元に触れる。

 ひんやりした不気味な感覚。感覚だけでゾッとしてしまうような、得体の知れない恐ろしさがあって。


「待って。こんなこと、無意味だわ。止めてちょうだい」

「残念ながら止められないのよ……ごめんなさい」


 言葉で止めてもらえれば、どんなに良いだろう。そう思い、最後の望みを託して止めるように言ってみた。


 けれど、望みは砕かれた。

 平和的解決はもはや不可能だ。


 背後はベッド。前には王妃。挟まれてしまい動けない状況に陥っている。つまり、どちらかを動かさなくては、ここから逃れられないのだ。


 ——やる!


 心を決め、蹴りを入れる。

 ほんの少しではあるが、王妃の体勢が崩れた。


 その隙に、すかさず逃れる。


「ちょこまかと……!」


 王妃の表情が急激に固くなる。彼女の顔から、余裕が完全に消えた。


 睨まれるのは少々恐ろしい。

 けれど、命を奪われるのに比べればずっとまし。


 私は生きたい。生き延びて、いろんなことを経験したい。だから諦められはしないのだ。たとえそれが救済であったとしても、私はそれを欲していない。


 私は扉に向かって走る。


「待ちなさい!」


 背後から聞こえる王妃の声。

 それに対し、私は、咄嗟に謝る言葉を発する。


「ごめんなさい、無理!」


 謝りつつも、足は止めない。


 どこへ行く? 誰に知らせる?


 そんなことを考えながら、駆ける。


 デスタンは今は戦力にならないから駄目。リゴールはより一層殺し合いになりそうだから駄目。エトーリアは論外。バッサも、巻き込みたくないから駄目。


 少し考えて、リョウカの部屋へ行ってみることに決めた。


 彼女が部屋にいる保証はない。それはつまり、彼女が部屋にいなかったら終わりということ。ある意味では、危険な賭けだ。



 もうまもなくリョウカの部屋に着く。


「リョウカ! いる!?」


 扉に鍵はかかっていなかった。だから私は、ノックもせず、その扉を開けた。

 ベッドはなく、敷き布団が床に直接敷かれている。二メートルほどの高さのタンスや椅子があるだけの、殺風景な部屋。


「エアリ!?」


 幸運なことに、リョウカは部屋にいた。


「リョウカ! 追われてるの、助けて!」

「お、追われてる!? 何それっ!?」


 ——その直後。


 バン! と大きな音を立てて、乱暴に扉が開いた。


「逃がさないわよ……?」


 長い柄の鎌を持った王妃が姿を現す。その表情は、冷ややかなまま。余裕のなさもそのままだ。


「ちょっ……エアリ、誰?」


 リョウカは怪訝な顔で尋ねてくる。

 少し困惑しているからか、いつもより声は小さい。


「リゴールを狙っている集団の一人なの」

「それって、敵ってこと?」

「そうなるわね」


 私がそう答えると、リョウカは壁に立て掛けていた刀を手に取る。


「じゃ、倒すんだね?」

「えぇ」

「オッケー」


 リョウカはウインク。

 それを見て、私は少しほっとする。


 味方が一人いるのといないのとでは、不安感に大きな差がある。敵と対峙している時の孤独ほど辛いものはないから、その辛さを和らげてくれる人の存在は、とてもありがたい。


 それが腕の立つ人なら、なおさら心強いというもの。


「エアリ、護身にはタンスの木刀使って」

「た、タンス?」

「そ。そこのタンスに、あたしが使ってる木刀あるから」

「わ……分かったわ」


 王妃が一歩迫ってくる。


 ほぼ同時に、リョウカが一歩前へ出る。


 私はリョウカの指示に従い、タンスに近づく。そして、その扉を開く。


 リョウカが言った通り、タンスの中には木刀が入っていた。しかも一本ではなく、三本だ。

 三本も入っているとは思わなかったから、驚き、少し戸惑ってしまった。


 けれど、呑気に戸惑っている暇はない。

 私はそのうちの一本をすぐに手に取った。


 ——その時。


 王妃とリョウカの戦いが突如始まる。


「邪魔者はすべて始末するわ……たとえ見知らぬ者であっても、ね。んふふ……」

「舐めないでよねっ」


 鎌と刀が交わり、甲高い接触音が空気を揺らす。それはあまりに刺々しく、恐怖すら感じるような音。優しさや柔らかさなど、欠片もない。


「リョウカ! 私も……」

「エアリはいいよっ! そこにいて!」


 王妃は柄の長さを活かした豪快な戦い方。対するリョウカは、王妃とは逆に、素早く細やかな戦闘スタイル。


 二人の戦い方は対照的。

 まさに真逆だ。


 しかし、強さ自体は互角といったところ。両者共に、負けはしないが勝ちにも行けないという、微妙な状況に陥ってしまっている。


「援護するわ!」


 そんな状況だからこそ、私は言った。

 一対一では互角でも、一対二になればリョウカが有利になるのではないかと、そう考えたからである。


「大丈夫っ! だから下がってて!」


 けれど、あっさり断られてしまった。

 私などは戦力のうちに含まれない弱さだということだろうか。足手まといにしかならない、と思われているのかもしれない。


 ……だとしたら、少し悔しい。


「本当に大丈夫なの?」

「うんっ。任せて!」


 王妃とリョウカの激しい攻防は続く。


 どちらも引かない。

 それゆえ前にも出られない。


 そんな進展のない戦いが続くのを、私はただ見守ることしかできなくて。それは正直、悔しいし苦しい。

 本当は私も力になりたいのだ。


 そんなことを考えつつ、王妃とリョウカの戦闘を見守っていると。


「とりゃっ!」


 リョウカが先に動いた。

 刀ではなく足を使い、王妃の手元に蹴りを入れたのだ。


「くっ……」


 鎌の柄は王妃の手からするりと抜けた。

 結果、王妃は鎌を手放すことになったのである。


「せい!」


 そこへ、リョウカは刀を降り下ろす。


 王妃は咄嗟に、胸の前で両腕を交差させる——そこへリョウカの斬撃が入った。


「んぐっ……」


 赤い飛沫が散る。

 顔を強張らせている王妃に向かって、リョウカは直進していく。もちろん、刀を持ったまま。


「たあっ!」


 リョウカは刀を槍のように構え、先端を王妃に向けて突き出す。

 刀は、王妃の胸へ命中した。


「く……はっ……」


 私は、二人から少し離れた場所で、王妃を凝視する。

 刀は確かに刺さっているが、だからといって油断はできない。王妃が怪しげな術を使う可能性もゼロではないから。

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